京都ツウのススメ
第二百一回 京都と水
写真提供:黄桜株式会社
名水とともにある京都の文化昔から良質な地下水が豊富に湧き出た京都盆地。水は人々の暮らしや伝統文化に様々な恩恵をもたらしました。京都と水の関わりについて「らくたび」の若村 亮さんがご案内します。
基礎知識
其の一、
- 地下水に恵まれた京都にはたくさんの井戸があります
其の二、
- 酒や豆腐など、京の食文化は良質の水に支えられています
其の三、
- 社寺の境内に湧き出る、信仰の対象となった水もあります
豊富な地下水を蓄えた京都盆地
京都盆地は地下水に恵まれた土地でした。京都盆地の地中には、周辺の山から流れ出た水や、地表に降った雨や雪が浸み込んだ水を含んだ砂礫(されき)層があり、砂礫層を掘ると地下水が得られたのです。平安京では、1~2m程掘るだけで水が湧き出る所もあったと言われています。今も京都市内には、歴史上の人物や出来事とゆかりのある古い井戸から、近年新たに掘削され現役で活躍しているものまで、たくさんの井戸があります。
京都の伝統文化を支える水
水は京都の食文化や伝統産業を支える存在です。1年を通して水質や水温が一定に保たれている地下水は、たくさんの水を使う豆腐や生麩、和菓子作りには欠かせません。京都市南部の桃山丘陵を流れる伏流水に恵まれた伏見では、酒造りが盛んになりました。京都の社寺の中には、清らかな水が湧き出る場所に創建されたと伝わる所もあります。千年以上の歴史の中で、様々な角度から人々の暮らしを潤してきた京都の名水をご紹介します。
京都に湧き出る名水には様々なエピソードが。
千年以上絶えない水
染井[上京区]
京都御苑の「懸井(あがたい)」、源氏の堀川六条邸にあったという「佐女牛井(さめがい)」と並ぶ、京都三名水のひとつ。梨木神社の境内にあり、京都三名水の中で唯一今も水が湧き出ています。
地方官吏(役人)としての出世を願う人は、「縣井」の水で身を清めて宮中にのぼったと言われます。「佐女牛井」は、わび茶の祖・村田珠光(じゅこう)がこの水で将軍・足利義政に献茶をしたと伝わります。
伏見を代表する名水
御香水(石井の御香水)[伏見区]
香りの良い水が湧き出したことから名付けられた御香宮神社の名水。病の人が御香水を飲み、回復したという説話が伝わります。
女人守護の神社のご神水
天之真名井[下京区]
市比賣(いちひめ)神社に湧き出る名水は、平安時代初期以来、歴代の天皇の産湯に使われたと伝わります。絵馬を掛け、ご神水を口にして手を合わせると、願い事がひとつ叶うと言われています。
繁華街にこんこんと湧き出す
錦の水[中京区]
賑やかな錦市場の東にある錦天満宮に湧く「錦の水」は、地下約30mから汲み上げる名水です。
錦市場周辺には「錦の水」と同じ水脈の水が湧き出しています。昔は冷たい地下水を魚などの保存に活用していた店もあるそうです。
中京区柳水町には、千利休が茶の湯に用いたと伝わる「柳の水」の井戸がありました。現在、その場所には馬場染工業が工房を構え、地下水「柳の水」を着物や洋服の黒染めの染色に使用しています
都名所図会『柳水(柳の水)』(部分)国際日本文化研究センター蔵
中京区柳水町には、千利休が茶の湯に用いたと伝わる「柳の水」の井戸がありました。現在、その場所には馬場染工業が工房を構え、地下水「柳の水」を着物や洋服の黒染めの染色に使用しています
都名所図会『柳水(柳の水)』(部分)
国際日本文化研究センター蔵
京都名物の豆腐や生麩、酒造りには、質の良い地下水を使用。
豆腐
大豆のたんぱく質は、ミネラルと結び付くと固くなります。京都の地下水はミネラルが少ないため、やわらかでなめらかな豆腐になります。
生麩
生麩の原料のグルテンは、小麦粉を水でこね、さらに水で洗い流し、でんぷん質だけを取り除いて作るため、豊富な水が欠かせません。
酒
酒造りが盛んな伏見は「伏水」とも書かれる水の町。適度にミネラルを含んだ水で仕込む酒は、やわらかな味わいになります。
老舗和菓子店の亀屋良長(下京区)は、和菓子作りに必要な良質な水を求めて現在の地に創業。店先に湧き出る「醒ヶ井(さめがい)」の水は、餡を炊いたり、寒天をやわらかく戻すなどの全工程で使われます
老舗和菓子店の亀屋良長(下京区)は、和菓子作りに必要な良質な水を求めて現在の地に創業。店先に湧き出る「醒ヶ井(さめがい)」の水は、餡を炊いたり、寒天をやわらかく戻すなどの全工程で使われます
水の湧き出す場所が、祈りの地に。
“清らかな水”が寺院名に
清水寺[東山区]
音羽山の滝の流れ出る聖地に建立された清水寺。水の清らかさにちなみ、清水寺と名付けられました。滝は「音羽の滝」と命名され、今も境内に流れています。
写真提供:清水寺
明治時代、「音羽の滝」の水がビール造りに適しているとして、理化学の研究・普及のための府営機関・京都舎密局が清水寺の境内にビールの醸造所を造りました。舎密局が廃止されるまでの約4年間、ビール醸造が行われたそうです
身も心も美しくなるご神水
八坂神社[東山区]
本殿の下には青龍が棲むという龍穴(りゅうけつ)と呼ばれる池があり、境内にご神水が湧き出ています。美御前社(うつくしごぜんしゃ)のそばに湧き出る「美容水」を肌に数滴付けると、心身共に美しくなると言われます。
- 第二百一回 京都と水
- 第二百回 中国の禅宗を伝える萬福寺
- 第百九十九回 京都画壇と美人画
- 第百九十八回 京都の山
- 第百九十七回 京都と豆腐
- 第百九十六回 南座と歌舞伎
- 第百九十五回 京都の巨木
- 第百九十四回 京都と将棋(しょうぎ)
- 第百九十三回 秋の京菓子
- 第百九十二回 京都の植物
- 第百九十一回 京都の風習
- 第百九十回 幻の巨椋池(おぐらいけ)
- 第百八十九回 京都と魚
- 第百八十八回 京都とお花見
- 第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
- 第百八十六回 京都の地ソース
- 第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
- 第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
- 第百八十三回 京都の坪庭(つぼにわ)
- 第百八十二回 どこまで分かる?京ことば
- 第百八十一回 京都の中華料理
- 第百八十回 琵琶湖疏水と京都
- 第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
- 第百七十八回 京都と徳川家
- 第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
- 第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
- 第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
- 第百七十四回 京の難読地名
- 第百七十三回 京の縁日
- 第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
- 第百七十一回 京都の通称寺
- 第百七十回 京都とキリスト教
- 第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
- 第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
- 第百六十七回 京の城下町 伏見
- 第百六十六回 京の竹
- 第百六十五回 子供の行事・儀式
- 第百六十四回 文豪と京の味
- 第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
- 第百六十二回 京都のフォークソング
- 第百六十一回 京と虎、寅
- 第百六十回 御火焚祭
- 第百五十九回 鴨川の橋
- 第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
- 第百五十七回 京都とスポーツ
- 第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
- 第百五十五回 京都の喫茶店
- 第百五十四回 京の刃物
- 第百五十三回 京都の南蛮菓子
- 第百五十二回 京の社家(しゃけ)
- 第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
- 第百五十回 京のお雑煮
- 第百四十九回 京の牛肉文化
- 第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
- 第百四十七回 明治の京都画壇
- 第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
- 第百四十五回 ヴォーリズ建築
- 第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
- 第百四十三回 京の人形
- 第百四十二回 京の社寺と動物
- 第百四十一回 鳥居(とりい)
- 第百四十回 冬の食べ物
- 第百三十九回 能・狂言と京都
- 第百三十八回 京都と様々な物の供養
- 第百三十六回 京都とビール
- 第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
- 第百三十四回 精進料理
- 第百三十三回 明治時代の京の町
- 第百三十二回 皇室ゆかりの建物
- 第百三十一回 京の調味料
- 第百三十回 高瀬川
- 第百二十九回 蹴鞠
- 第百二十八回 歌舞伎
- 第百二十七回 京都に残るお屋敷
- 第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
- 第百二十五回 京の学校
- 第百二十四回 京の六地蔵めぐり
- 第百二十三回 京の七不思議<通り編>
- 第百二十二回 京都とフランス
- 第百二十一回 京の石仏
- 第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
- 第百十九回 生き物由来の地名
- 第百十八回 京都の路面電車
- 第百十七回 神様への願いを込めて奉納
- 第百十六回 京の歴食
- 第百十五回 曲水の宴
- 第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
- 第百十三回 パンと京都
- 第百十二回 京に伝わる恋物語
- 第百十一回 鵜飼(うかい)
- 第百十回 扇子(せんす)
- 第百九回 京の社寺と山
- 第百八回 春の京菓子
- 第百七回 幻の京都
- 第百六回 京の家紋
- 第百五回 京の門前菓子
- 第百四回 京の通り名
- 第百三回 御土居(おどい)
- 第百二回 文学に描かれた京都
- 第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
- 第百回 夏の京野菜
- 第九十九回 若冲と近世日本画
- 第九十八回 京の鍾馗さん
- 第九十七回 言いまわし・ことわざ
- 第九十六回 京の仏師
- 第九十五回 鴨川
- 第九十四回 京の梅
- 第九十三回 ご朱印
- 第九十二回 京の冬の食習慣
- 第九十一回 京の庭園
- 第九十回 琳派(りんぱ)
- 第八十九回 京の麩(ふ)
- 第八十八回 妖怪紀行
- 第八十七回 夏の京菓子
- 第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
- 第八十五回 新選組
- 第八十四回 京のお弁当
- 第八十三回 京都の湯
- 第八十二回 京の禅寺
- 第八十一回 京の落語
- 第八十回 義士ゆかりの地・山科
- 第七十九回 京の紅葉
- 第七十八回 京の漫画
- 第七十七回 京の井戸
- 第七十六回 京のお地蔵さん
- 第七十五回 京の名僧
- 第七十四回 京の別邸
- 第七十三回 糺(ただす)の森
- 第七十二回 京舞
- 第七十一回 香道
- 第七十回 天神さん
- 第六十九回 平安京
- 第六十八回 冬の京野菜
- 第六十七回 茶の湯(茶道)
- 第六十六回 京の女流文学
- 第六十五回 京の銭湯
- 第六十四回 京の離宮
- 第六十三回 京の町名
- 第六十二回 能・狂言
- 第六十一回 京の伝説
- 第六十回 京狩野派
- 第五十九回 京寿司
- 第五十八回 京のしきたり
- 第五十七回 百人一首
- 第五十六回 京の年末
- 第五十五回 いけばな
- 第五十四回 京の城
- 第五十三回 観月行事
- 第五十二回 京の塔
- 第五十一回 錦市場
- 第五十回 京の暖簾
- 第四十九回 大原女
- 第四十八回 京友禅
- 第四十七回 京のひな祭り
- 第四十六回 京料理
- 第四十五回 京の町家〈内観編〉
- 第四十四回 京の町家〈外観編〉
- 第四十三回 京都と映画
- 第四十二回 京の門
- 第四十一回 おばんざい
- 第四十回 京の焼きもの
- 第三十九回 京の七不思議
- 第三十八回 京の作庭家
- 第三十七回 室町文化
- 第三十六回 京都御所
- 第三十五回 京の通り
- 第三十四回 節分祭
- 第三十三回 京の七福神
- 第三十二回 京の狛犬
- 第三十一回 伏見の酒
- 第三十回 京ことば
- 第二十九回 京の文明開化
- 第二十八回 京の魔界
- 第二十七回 京の納涼床
- 第二十六回 夏越祓
- 第二十五回 葵祭
- 第二十四回 京の絵師
- 第二十三回 涅槃会
- 第二十二回 京のお漬物
- 第二十一回 京の幕末
- 第二十回 京の梵鐘
- 第十九回 京のお豆腐
- 第十八回 時代祭
- 第十七回 京の近代建築
- 第十六回 京のお盆行事
- 第十五回 京野菜
- 第十四回 京都の路地
- 第十三回 宇治茶
- 第十一回 京菓子の歴史
- 第十回 枯山水庭園の眺め方
- 第九回 京阪沿線 初詣ガイド
- 第八回 顔見世を楽しむ
- 第七回 特別拝観の楽しみ方
- 第六回 京都の着物
- 第五回 仏像の見方
- 第四回 送り火の神秘
- 第三回 祇園祭の楽しみ方
- 第二回 京の名水めぐり
- 第一回 池泉庭園の眺め方