京都ツウのススメ

第百四十回 冬の食べ物

京都・冬の食物語冬に味わいたい様々な京都の“食”をらくたびの谷口真由美さんがご紹介します。

基礎知識

其の一、

京都では、厳しい寒さにより冬野菜の味わいが増すと言われます

其の二、

漬物の仕込みや、大根を振る舞う大根焚きは、京都の冬の風物詩です

其の三、

お節料理や大福茶など、正月に向けた準備も始まります

寒さでより味わいを増す農産物

およそ千年前、清少納言は『枕草子』の中で都の冬を「いみじうさむき(非常に寒い)」と記しました。冬の京都は“底冷え”とも言われる厳しい冷え込みに見舞われます。それは、三方の山々から冷たい空気が入り込み地表に留まるという、京都の盆地特有の地形によるもの。この寒さによって、冬に旬を迎える農産物は味わいを増していきます。その一例が、えびいもや聖護院かぶといった、冬のおばんざいに欠かせない京野菜です。

冬に仕込む漬物や師走の風物詩も

京都を代表する漬物のひとつ「すぐき漬け」は、古くから上賀茂で栽培されてきたすぐき菜を塩で漬け込み発酵させたもの。12月頃に漬け上がる冬の味です。また、師走の風物詩である「大根焚き」は、寒い中で振る舞われる熱々の大根が訪れた人々を喜ばせます。料理店では「蒸し寿司」など冬の料理がメニューに並び、食料品店ではお節料理に必要な食品も出回り始める12月。寒さを忘れて、冬の京都の食を楽しんでみませんか。

鳥居の分類

鳥居の分類

旬を迎える冬食材や、底冷えの日にうれしい温かな料理など、
冬の京都ならではの味をご紹介します。

柚子[ゆず]

京都市の北西、愛宕山(あたごやま)西麓の集落・水尾(みずお)は、鎌倉時代に花園天皇の命により柚子の栽培が始まったと言われる土地。11月頃から収穫期を迎える柚子は、大ぶりで香りが良いのが特徴で、料理や菓子に使われます。柚子と白味噌(みそ)から作る柚子味噌は、ふろふき大根や田楽に欠かせません。

柚子[ゆず]

ここがツウ

水尾では、地元の農家が特産の柚子で観光客をもてなします。香りの良い柚子風呂と、鶏すきや鶏の水炊きを楽しめます
※詳しくは水尾保勝会のホームページをご覧ください

大根焚き[だいこたき]

毎年12月に、大鍋で炊いた大根を参拝者に振る舞う「大根焚き」を行う寺院があります。千本釈迦堂(上京区)では、釈迦が悟りを開いた日にちなみ12月7・8日に営まれます。この日に大根を食べると健康増進になり、手足のしびれなどの中風(ちゅうぶう)にかからないと言われており、冬の風物詩になっています。

大根焚き[だいこたき]

蒸し寿司

寒くなると寿司店の店先に「蒸し寿司」の文字が見られるようになります。京都には鯖(さば)寿司や箱寿司など様々な寿司がありますが、冬の味と言えば蒸し寿司。シイタケ、かんぴょうなどを混ぜた寿司飯の上に錦糸卵を散らして蒸したもので「ぬく寿司」とも言われます。余ったちらし寿司を、翌日に蒸して温かくしたものを食べたのが始まりとも言われ、11月頃から春先まで楽しめます。

蒸し寿司

冬のおばんざい

えびいもと棒だらの炊いたん

えびいもは11月から2月頃に収穫される京野菜で、ねっとりした食感が特徴。水で戻した棒だら(マダラの干物)との煮物は、お節料理にも登場する伝統料理です。

えびいもと棒だらの炊いたん

かぶら蒸し

冬の京野菜・聖護院かぶを使った温かな料理。すり下ろしたかぶに卵白を加え、ゆり根、銀杏などの具と一緒に蒸し、とろみのある餡(あん)を掛けたものです。かぶの白さを雪に見立てたと言われます。

かぶら蒸し

すぐき漬け

すぐき漬けは、上賀茂を中心に古くから栽培されてきた京野菜・すぐき菜から作る漬物。11月から12月に収穫されたすぐき菜を塩で漬け込んだ後、温度が管理された室(むろ)という部屋で加温します。これにより、乳酸発酵による独特の酸味を持つ漬物になります。

すぐき漬け

ここがツウ

江戸時代前期の京都の年中行事を記した『日次紀事(ひなみきじ)』にも、すぐき菜の漬物が登場。昔は気候にまかせて熟成させたので、漬け上がりが5月頃になりました。都の人々は“初夏の珍味”として楽しんだそうです

師走からお正月へこの時期のこの味

花びら餅

花びら餅は、白味噌餡や甘く炊いたごぼうを餅や求肥(ぎゅうひ)で包んだ、正月用の和菓子です。正月の宮中で、長寿を祈願して固いものを食べる「歯固め」という儀式に用意された行事食「菱葩(ひしはなびら)」が原型と言われます。明治時代以降、裏千家の初釜用の和菓子で使われるようになり、新年を祝う和菓子として広く知られるようになりました。

花びら餅

大福茶[おおぷくちゃ]

平安時代中期、都ではやった疫病が梅干し入りのお茶で治まったと言われることから、1年の無病息災を願い、正月に飲むのが大福茶。北野天満宮(上京区)では、境内で採れた梅を使った縁起物の大福梅(おおふくうめ)が、毎年12月13日から授与されます。元旦にお茶や白湯に入れて大福茶にして飲み、新年を祝います。

大福茶[おおぷくちゃ]

ここがツウ

お節料理の煮物に用意する京野菜のひとつが、直径5~6cmもある堀川ごぼうです。豊臣秀吉が築いた聚楽第(じゅらくだい)の堀の跡に捨てられたゴボウが、偶然巨大に生育したことに始まる野菜です

制作:2019年12月
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