京都ツウのススメ
第百十七回 神様への願いを込めて奉納
神様への願いを込めて奉納
神社に参拝すると必ず見かける絵馬。
その歴史やユニークな絵馬について、らくたびの田中昭美さんが紹介します。
基礎知識
其の一、
- 絵馬とは絵が描かれた板のことで、裏面に願い事を書きます
其の二、
- 奈良時代、神様に願い事をする際には生きた馬を奉納していました
其の三、
- 馬の代わりに板に馬の絵を描いて納めるようになりました
絵馬のルーツは生きた馬
かつて馬は神様が乗る神聖な動物とされ、神様は馬に乗って人間世界に降りてくると考えられていたため、奈良時代には神社で願い事をする際に生きた馬が奉納されていました。いつしか馬ではなく、木や土、紙で作った馬の像や、板に馬の絵を描いたものを奉納。これが絵馬の起こりと言われています。平安時代に神仏習合の思想が広まると、寺院にも絵馬を納めるようになりました。
絵馬の変遷
室町時代には額に入れた大きな絵馬が登場します。武士が戦勝祈願のために奉納し、能楽・神話・歴史なども絵の題材となりました。安土桃山時代には狩野派などの京絵師も大絵馬を描いており、この頃から神社の境内にそれらを展示するための絵馬堂が建てられました。江戸時代になり世の中が平和になると、家内安全や商売繁盛、子宝などを願う小型の絵馬が登場。現代では形も絵柄もユニークな絵馬が作られ、近年ではアニメのキャラクターを描くなど多様化してきています。
祭神や由緒をモチーフにした、京都ならではの絵馬を紹介します。
豊国神社(東山区)
祭神・豊臣秀吉が戦の際の馬印にしていたひょうたんの形です。開運と縁結びを祈願する2種類のひょうたん絵馬があります。
粟田神社(東山区)
旅の守護・旅行安全の神として親しまれています。絵馬は、例祭・粟田祭の剣鉾のひとつ、阿古陀(あこだ)鉾の形をしています。
御辰(おたつ)稲荷神社(左京区)
芸事を好んだ白狐(びゃっこ)・御辰狐の伝承にちなみます。神 宝の掛け軸がモチーフで、御辰狐とおかめの土鈴が付いています。
錦天満宮(中京区)
大願梅(たいがんうめ)という丸い形。願いを書いた短冊を中に入れて栓をし、境内の「大願梅の樹」の枝に吊るして奉納します。
石清水八幡宮(八幡市)
竹でできた合格祈願の絵馬。境内の真竹を使って白熱電球を発明したエジソンにあやかっています。
御髪(みかみ)神社(右京区)
髪にまつわるご利益があるという、日本で唯一の髪の神社で、祭神は日本初の髪結い職人。櫛(くし)の形をした絵馬には、美しい髪の女性が描かれています。
上賀茂神社(北区)
摂社・片岡社の祭神は縁結・子授けなどの神様。二葉葵の葉の形(ハート型)で、かつてここに参拝したという紫式部の姿が描かれています。
御金(みかね)神社(中京区)
金箔(ぱく)が施された鳥居で有名な神社。神木・イチョウにあやかった葉の形の絵馬は「末広がり」という縁起も担いでいるそう。
伏見稲荷大社(伏見区)
稲荷大神の使いとされている狐がモチーフ。願い事を書くだけでなく、狐の目を眉に見立てて顔を描いた個性的な絵馬がたくさん見られます。
河合神社(左京区)
下鴨神社・摂社の美人祈願の手鏡の形をした絵馬。自分がなりたい理想の顔を、愛用の化粧品やクレヨン、ペンなどで描きます。
絵馬発祥の地!? 貴船神社では、かつて歴代天皇が勅使を送り、雨乞い・雨止みを祈願しました。日照りが続く時は黒馬を、長雨を止めたい時は白馬(または赤馬)を奉納するならわしでした。やがて木の板に馬を描いた「板立馬」を奉納するようになり、これが現在の絵馬の原形と伝えられ、絵馬発祥の地と言われるようになりました。
大絵馬を展示する 絵馬堂
絵馬所・絵馬舎・絵馬殿とも呼ばれる絵馬堂。戦国武将たちが京の絵師たちに描かせて奉納した大絵馬を展示する、ギャラリー的な空間でもありました。
京都では、狩野派・長谷川派・海北派・別所派の絵師4家が、
競うように腕を振るい大絵馬を描きました。
◎瀧尾神社(東山区)
呉服屋だった大丸の創業者が奉納した宝暦年間の店を描いた絵馬や、1928(昭和3)年の大丸京都店の写真絵馬が見られます。
◎三宅八幡宮(左京区)
大勢の子供たちがお礼参りする様子などを描いた珍しい大絵馬が121点(重文)あり、当時の風俗を知ることができます(絵馬展示資料館に60点を展示)。
◎藤森神社
競馬で活躍した名馬が描かれた絵馬などを掲げています。
藤森神社の絵馬舎には、1613(慶長18)年に奉納された京都で1、2を争うという古い黒馬・白馬の大絵馬があります
こんな絵馬もある!
「算額」
江戸時代、日本で独自に発展した数学(和算)がブームになりました。数学者たちは、難しい問題が解けたことを神仏に感謝し、勉学に励むことを祈願して「算額」と呼ばれる絵馬を奉納するようになります。算額は、問題と解答の両方、または別々に記されます。御香宮神社には、1683(天和3)年に数学者・山本宗信が問題を書いた復元算額(解答は八坂神社に奉納)と、1863(文久3)年に数学者・西岡天極斎が奉納したものが残っています。
復元算額
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