京都ツウのススメ
第百二十九回 蹴鞠
麗しい宮中の遊び・蹴鞠
神社の境内などで奉納行事として行われる蹴鞠。
雅やかな衣装で鞠を蹴る姿が印象的ですが、どんなものかご存知でしょうか。らくたびの山村純也さんが歴史やルールを解説します。
基礎知識
其の一、
- 蹴鞠は球戯のひとつで、約1400年前に中国から伝えられました
其の二、
- 勝敗を競うのではなく、優雅さを楽しみます
其の三、
- 現在は明治天皇の命で設立された保存会により継承されています
中国から仏教とともに伝来
およそ1400年前、蹴鞠は仏教などとともに中国から日本に伝えられたと言われています。平安時代には貴族の遊びでしたが、鎌倉時代に入ると武士にも広がりました。江戸時代には庶民が蹴鞠を楽しむ姿も見られるようになり、井原西鶴の代表作『好色一代男』などには女性が蹴鞠をする姿も描かれています。明治時代に入り一旦衰退しますが、明治天皇の勅命により保存会が設立され、現在は鎌倉時代から蹴鞠の宗家として朝廷に仕えてきた飛鳥井家の流派が継承されています。
思いやりと優雅さを楽しむ
サッカーのようにも見える蹴鞠ですが、実は時間制限や勝敗はなく、かつては神事として行われた歴史もあります。相手が蹴りやすいように蹴ってできるだけラリーを続け、蹴る時の姿の優雅さや音の美しさなどを楽しみます。現在は奉納行事として多く行われており、京都では1月4日に下鴨神社で公開される「蹴鞠はじめ」などで実際に見ることができます。
足で鞠を蹴り上げ、ラリーをできるだけ長く続けるのが蹴鞠。
鞠足(まりあし)と呼ばれる8人(または6人)のプレイヤーが
鞠(まりにわ)と呼ばれるコートで円になって行います。
鞠庭
蹴鞠を行う場所。四隅には桜(北東)・松(北西)・柳(南東)・楓(南西)の4種類の木が立てられます。これらは「式木(しきぼく)」と呼ばれ、切りたての竹で代用される場合もあります。
装束
時代によって異なり、階級によっても細かく分類されていました。現在の装束は江戸時代以降のものと考えられ、鞠水干(まりすいかん)と鞠袴を身に着け、頭には烏帽子(えぼし)をかぶっています。靴は鴨沓(かもぐつ)という蹴鞠専用のもので、蹴りやすいように、足先が鴨のくちばしのような形になっています。
足元
右・左・右とすり足で移動し、3歩目の右足で蹴ります。足の裏を見せず、膝を伸ばしたまま、できるだけ地面に近い位置で蹴るのが良いとされています。
鞠
鹿皮を裏返しにして馬の背筋の皮で縫い合わせたもので、直径は20cm前後。表面には白顔料や卵白が塗られています。
請声こいこえ(掛け声)
「あり」「やあ」「おう」の3種類があります。それぞれ「夏安林(げあんりん)」「春楊花(しゅんようか)」「秋園(しゅうおん)」と呼ばれる「鞠の精」の名から取られたものです。
平安時代、蹴鞠の名人・藤原成通(なりみち)は棚の上に鞠をまつっていました。ある時、その鞠が転げ落ちました。すると、顔は人間でサルの体をした3人の子供が現れ、自分たちは鞠の精だと告げました。精たちは、式木を伝って鞠庭にやってきて、蹴鞠が続くよう助けてくれるとされています
かつて蹴鞠は大変人気のある遊びで、仕事を忘れて蹴鞠に興じる人も。その人たちを鞠の素材にちなんで「馬鹿」と呼んだとされ、現在の「馬鹿」の語源となったとも言われます
蹴鞠の精神
聖徳太子の十七条憲法にある「和を以って貴しとなす」(互いに正直な心持ちで協調するべきであるという意味)が基本精神。次の人が蹴りやすいように、思いやりを持って行います。
蹴鞠の美しさ
蹴る姿の優美さや蹴り上げられた鞠の回転、蹴った時の「コーン」という澄んだ音が求められます。最も美しいとされる鞠の高さは、式木の高さと同じ約4.5m。上半身を動かさずに、足だけを素早く動かします。
蹴鞠の神様
蹴鞠の神様は精(せい)大明神とされていて、京都の白峯神宮(上京区)にまつられています。
白峯神宮境内には蹴鞠の碑が立てられており、碑にある石の鞠を回すと球運が授かると言われています
蹴鞠文化の保存
現在、京都に拠点を置く蹴鞠(しゅうきく)保存会が中心となって蹴鞠は継承されています。月に3回白峯神宮で稽古が行われるほか、京都では1年を通して、様々な行事の中で蹴鞠を見る機会があります。
1月4日 | 蹴鞠はじめ(下鴨神社) |
---|---|
2月11日 | 紀元祭(上賀茂神社) |
4月14日 | 春季例大祭(白峯神宮) |
6月第3日曜 | 紫陽花祭(藤森神社) |
7月7日 | 精大明神例祭(白峯神宮) |
春と秋 | 京都御所の一般公開 |
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