京都ツウのススメ

第百九十四回 京都と将棋(しょうぎ)

京都から広がった将棋 古代インドにルーツを持つ将棋は、平安京の貴族たちの遊びとして日本に登場しました。
その後、どんな変遷をたどったのでしょう。
「らくたび」の若村亮さんがその歴史などを紐解きます。

基礎知識

其の一、

将棋は平安時代までに日本に伝わったとされ、宮中で人気の遊びでした

其の二、

安土桃山時代には武士も将棋を指すようになり、豊臣秀吉も楽しみました

其の三、

日本初のプロ棋士とされる大橋宗桂(おおはしそうけい)は京都出身でした

古代インドのゲームが形を変えて日本へ

近年、若手棋士の大躍進で注目を集めている将棋。その源流は古代インドのゲームで、それぞれの地域の文化に合わせて変化しながら世界中に広まったと考えられています。日本には平安時代までに伝わったとされ、当初は京都の貴族たちが今よりも駒数の多い「平安大将棋」などを宮中で楽しんでいたようです。安土桃山時代以降、将棋は武士たちの間でも好まれるようになり、豊臣秀吉が将棋を楽しんだという逸話も残されています。

将棋史上初の名手は京都から

徳川家康は、自らも将棋をたしなむだけでなく、幕府に将棋所を設け、名手には俸禄(ほうろく)<給与>を与えて支援したことで知られています。その際、将棋の一世名人となったのが京都の町人だった大橋宗桂でした。宗桂は京都・寂光寺塔頭の本因坊(ほんいんぼう)の住職であった本因坊算砂(さんさ)の弟子で、ふたりの師弟対決が日本現存最古の棋譜(きふ)として残されています。今回は、日本の将棋の歴史や、その礎を築いたと言われる京都生まれの名手をご紹介しましょう。

古代インドのボードゲーム「チャトランガ」が変化し、
将棋として平安時代までに日本に上陸しました。

平安時代

日本最古の将棋の駒が、奈良県興福寺旧境内で『天喜六年』(1058年)と書かれた木簡とともに発掘されたことから、将棋は平安時代までに日本に伝わったと考えられています。現在の将棋は9×9の81マスに合計40の駒を並べますが、当時は81マスに36の駒を並べる「平安将棋」と、169マスに68の駒を並べる「平安大将棋」がありました。

鎌倉~室町時代

鎌倉時代の公家・藤原定家の『明月記』にも将棋が登場するなど、宮中で将棋が盛んに行われるようになりました。また、室町時代には将軍家が将棋を指していたことも『花営三代記』などから分かっています。

ここがツウ

京都市伏見区にある鳥羽離宮の跡地で13世紀後半から14世紀中期のものと思われる将棋の駒が出土しています

安土桃山~江戸時代

広く武士たちが将棋を指すようになりました。特に江戸幕府は将棋を保護・奨励し、大橋宗桂のように将棋で収入を得るプロ棋士も登場しました。

ここがツウ

豊臣秀吉は将棋愛好家として知られ、京都・伏見城の庭で家来を駒に見立てて動かす“人間将棋”を楽しんだという逸話も残されています

明治時代~現代

明治維新以降、将棋は一時衰退しますが、大正時代末期に東京将棋連盟が発足。後に関西の棋士も合流し、日本将棋連盟となり、現在のプロ棋士制度などが確立しました。

第37回竜王戦 第3局は京都・仁和寺で開催!
今年の10月25日(金)・26日(土)の2日間、名人戦に次いで長い歴史を有する「竜王戦」の第3局が仁和寺(右京区)で開催されます。このタイトルをかけて藤井聡太竜王と佐々木勇気八段の対局が行われます。

江戸幕府によって将棋は幕府公認の技芸となりました。
その草創期に活躍したふたりは京都出身でした。

大橋宗桂(初代)

比較的裕福な京都の町人の子として生まれました。将棋を指すことに長けていたため、将棋を好んだ織田信長や豊臣秀吉、徳川家康らの対局相手を務めたとも言われています。家康が江戸幕府内に設けた将棋所において一世名人となり、それ以降大橋家は世襲制の将棋の家元となりました。

ここがツウ

宗桂は詰将棋(つめしょうぎ/将棋のルールを使ったパズル)も作っており、天皇にも献上しました。それ以来、名人は自作の詰将棋を献上するのが慣例になったと言われています

井岡伸行氏 蔵
(徳島市立徳島城博物館 画像提供)

本因坊算砂

寂光寺(左京区)を開いた日淵(にちえん)の甥(おい)にあたり、塔頭のひとつである本因坊の住職を務めていました。囲碁の名手として名を馳せましたが、将棋も堪能で、宗桂に将棋を教えたと言われています。徳川家康が上洛して宴席を開いた際には、しばしばその場に招かれていました。

宗桂と算砂は京都・伏見城や、家康のお膝元である静岡の駿府城などでたびたび対局をしました。100局を超える対局をしたとも言われますが、棋譜が残っているのは8局で、宗桂の7勝1敗となっています。
制作:2024年10月
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