京都ツウのススメ
第百五十三回 京都の南蛮菓子
京都の南蛮菓子日本の菓子界に影響を与え、京の茶の湯菓子として好まれた南蛮菓子について、らくたびの田中昭美さんが紹介します。
基礎知識
其の一、
- ポルトガルなどのキリスト教宣教師により、日本へ伝えられました
其の二、
- 江戸時代に製菓技術が伝授され、国内でも作られるようになりました
其の三、
- 京の和菓子職人たちも長崎へ行き、本場の技術を学びました
織田信長が絶賛し、特別な菓子に
安土桃山時代にポルトガルやオランダ、スペインのキリスト教宣教師たちがもたらした南蛮菓子。それまでの日本の菓子と言えば果物や木の実のことでした。白砂糖や卵、小麦粉を大量に使う甘い菓子は多くの人々を虜にし、織田信長も1569(永禄12)年にポルトガルの宣教師ルイス・フロイスから贈られた金平糖を絶賛。茶の湯菓子に用いて大名や公家たちにも広まり、カステラや有平糖など、その他の様々な南蛮菓子も人気を博しました。
上江戸時代には国内で進化し、大衆化
当時、日本には白砂糖の生産技術がなく、南蛮貿易により大量に輸入されるようになります。また、南蛮菓子は長らく輸入菓子でしたが、江戸時代になると長崎の和菓子職人に製菓技術が伝授され、日本でも生産可能に。京の和菓子職人も長崎で技術を学び、和菓子の技術を取り入れながら進化させました。やがて、新しい味覚の和菓子として庶民にも愛されるように。その味は今でも京の老舗和菓子店で求めることができます。
今もおなじみの京土産として人気を誇っています。
南蛮菓子とは?
ポルトガルやスペイン、オランダとの南蛮貿易による輸入菓子で、その後、日本の材料で日本人が作る和菓子のひとつとして定着しました。明治時代以降に伝わったバターを使うパイやケーキなどの洋菓子とは区別されます。
重要な素材
[砂糖]
南蛮貿易で白砂糖や南蛮菓子が大量に輸入されるまでは、砂糖は大変貴重なものでした。菓子=甘いものという概念が生まれたのもこの頃です。幕府が白砂糖の生産を奨励し、明治時代に庶民も使えるように。
[卵]
それまでの日本人は、仏教におけるタブーとして肉や卵を食べる習慣はありませんでした。南蛮貿易によりもたらされた食文化の影響で、食生活に卵を取り入れるようになったと言われます。
ポルトガル語 カステイラ(Pao de Castella)
カステラの原形は「パォンデロー(Pao de lo)」と呼ばれるポルトガルの菓子で、卵と砂糖を一緒に泡立て、小麦粉を加えて窯で焼いたものでした。カステイラとはポルトガル語で中世のカスティーリャ王国(現:スペイン)のこと。日本に伝わった際、「カスティーリャ王国の菓子だ」と紹介したことが名前の由来と言われます。
ポルトガル語 アルフェロア(Alfeloa)
日本に初めて輸入されたハードキャンディ。元は糖蜜から作られた茶色い棒状の菓子で、豊臣秀吉が茶の湯でよく用いていたそうです。しだいに茶人や文化人に好まれるようになり、元禄時代には季節物や縁起物などの色が付いたり細工の凝った有平糖が作られるようになりました。
有平糖とカステラは今では庶民的ですが、江戸時代はまだ珍しいものでした。後水尾天皇が1626(寛永3)年に二条城へ行幸した際には饗応菓子として用いられました
ポルトガル語 コンフェイト(Confeito)
独特な形と砂糖の甘さに驚いた織田信長がとても気に入ったという飴菓子。「金平糖」「金餅糖」「金米糖」などの字を当てて呼ぶようになりました。ゴマやケシの粒を芯にして、糖蜜を何度もかけながら釜で炒り続けて何日もかけて完成させます。現在では、芯にはざらめや、蒸したもち米で作ったイラ粉を使います。
振出
金平糖は茶人の千利休が野だての菓子として好んだことから、今も茶席の菓子に使われています。金平糖を入れるための振出(ふりだし)と呼ばれる小さな壺型の茶道具も生まれました
ポルトガル語 フィリョース(Filhos)
元は、小麦粉に卵、砂糖を混ぜて揚げた、ポルトガルのクリスマスに食べる揚げ菓子です。京をはじめとする関西では「ひろうす」や「ひりょうず」という呼び名で菓子として食べていましたが、江戸時代末期にはなぜか豆腐料理へと変化。現在は、かつてコンニャクで作られていた精進料理の「がんもどき」と同じものになりました。
京では「飛竜頭」と当て字してきましたが、その理由は現在も不明です
元になったのは「卵の糸」を意味するポルトガルのフィオス・デ・オヴォシュ(Fios de ovos)というお菓子。エンゼルヘアとも呼ばれ、産みたての卵の卵黄と糖蜜だけで作られた素朴な味わいです。
ポルトガル語 ボーロ(Bolos)
小麦粉に砂糖と卵を加えて練り、焼き上げたもの。ビスケットを由来とする説もあります。日本にもたらされたボーロはやわらかなカステラのようなものでしたが、江戸時代に丸く形を整え、口の中でホロホロと崩れるような食感に変化。その後京都ではそば粉を用いた梅型の「蕎麦(そば)ぼうろ」や、茶の湯でよく使われる松の葉を模した「松葉」、片栗粉のみで作る「衛生ボーロ」などが生まれました。
※由来には諸説あります
- 第百九十三回 秋の京菓子
- 第百九十二回 京都の植物
- 第百九十一回 京都の風習
- 第百九十回 幻の巨椋池(おぐらいけ)
- 第百八十九回 京都と魚
- 第百八十八回 京都とお花見
- 第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
- 第百八十六回 京都の地ソース
- 第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
- 第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
- 第百八十三回 京都の坪庭(つぼにわ)
- 第百八十二回 どこまで分かる?京ことば
- 第百八十一回 京都の中華料理
- 第百八十回 琵琶湖疏水と京都
- 第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
- 第百七十八回 京都と徳川家
- 第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
- 第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
- 第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
- 第百七十四回 京の難読地名
- 第百七十三回 京の縁日
- 第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
- 第百七十一回 京都の通称寺
- 第百七十回 京都とキリスト教
- 第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
- 第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
- 第百六十七回 京の城下町 伏見
- 第百六十六回 京の竹
- 第百六十五回 子供の行事・儀式
- 第百六十四回 文豪と京の味
- 第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
- 第百六十二回 京都のフォークソング
- 第百六十一回 京と虎、寅
- 第百六十回 御火焚祭
- 第百五十九回 鴨川の橋
- 第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
- 第百五十七回 京都とスポーツ
- 第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
- 第百五十五回 京都の喫茶店
- 第百五十四回 京の刃物
- 第百五十三回 京都の南蛮菓子
- 第百五十二回 京の社家(しゃけ)
- 第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
- 第百五十回 京のお雑煮
- 第百四十九回 京の牛肉文化
- 第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
- 第百四十七回 明治の京都画壇
- 第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
- 第百四十五回 ヴォーリズ建築
- 第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
- 第百四十三回 京の人形
- 第百四十二回 京の社寺と動物
- 第百四十一回 鳥居(とりい)
- 第百四十回 冬の食べ物
- 第百三十九回 能・狂言と京都
- 第百三十八回 京都と様々な物の供養
- 第百三十六回 京都とビール
- 第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
- 第百三十四回 精進料理
- 第百三十三回 明治時代の京の町
- 第百三十二回 皇室ゆかりの建物
- 第百三十一回 京の調味料
- 第百三十回 高瀬川
- 第百二十九回 蹴鞠
- 第百二十八回 歌舞伎
- 第百二十七回 京都に残るお屋敷
- 第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
- 第百二十五回 京の学校
- 第百二十四回 京の六地蔵めぐり
- 第百二十三回 京の七不思議<通り編>
- 第百二十二回 京都とフランス
- 第百二十一回 京の石仏
- 第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
- 第百十九回 生き物由来の地名
- 第百十八回 京都の路面電車
- 第百十七回 神様への願いを込めて奉納
- 第百十六回 京の歴食
- 第百十五回 曲水の宴
- 第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
- 第百十三回 パンと京都
- 第百十二回 京に伝わる恋物語
- 第百十一回 鵜飼(うかい)
- 第百十回 扇子(せんす)
- 第百九回 京の社寺と山
- 第百八回 春の京菓子
- 第百七回 幻の京都
- 第百六回 京の家紋
- 第百五回 京の門前菓子
- 第百四回 京の通り名
- 第百三回 御土居(おどい)
- 第百二回 文学に描かれた京都
- 第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
- 第百回 夏の京野菜
- 第九十九回 若冲と近世日本画
- 第九十八回 京の鍾馗さん
- 第九十七回 言いまわし・ことわざ
- 第九十六回 京の仏師
- 第九十五回 鴨川
- 第九十四回 京の梅
- 第九十三回 ご朱印
- 第九十二回 京の冬の食習慣
- 第九十一回 京の庭園
- 第九十回 琳派(りんぱ)
- 第八十九回 京の麩(ふ)
- 第八十八回 妖怪紀行
- 第八十七回 夏の京菓子
- 第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
- 第八十五回 新選組
- 第八十四回 京のお弁当
- 第八十三回 京都の湯
- 第八十二回 京の禅寺
- 第八十一回 京の落語
- 第八十回 義士ゆかりの地・山科
- 第七十九回 京の紅葉
- 第七十八回 京の漫画
- 第七十七回 京の井戸
- 第七十六回 京のお地蔵さん
- 第七十五回 京の名僧
- 第七十四回 京の別邸
- 第七十三回 糺(ただす)の森
- 第七十二回 京舞
- 第七十一回 香道
- 第七十回 天神さん
- 第六十九回 平安京
- 第六十八回 冬の京野菜
- 第六十七回 茶の湯(茶道)
- 第六十六回 京の女流文学
- 第六十五回 京の銭湯
- 第六十四回 京の離宮
- 第六十三回 京の町名
- 第六十二回 能・狂言
- 第六十一回 京の伝説
- 第六十回 京狩野派
- 第五十九回 京寿司
- 第五十八回 京のしきたり
- 第五十七回 百人一首
- 第五十六回 京の年末
- 第五十五回 いけばな
- 第五十四回 京の城
- 第五十三回 観月行事
- 第五十二回 京の塔
- 第五十一回 錦市場
- 第五十回 京の暖簾
- 第四十九回 大原女
- 第四十八回 京友禅
- 第四十七回 京のひな祭り
- 第四十六回 京料理
- 第四十五回 京の町家〈内観編〉
- 第四十四回 京の町家〈外観編〉
- 第四十三回 京都と映画
- 第四十二回 京の門
- 第四十一回 おばんざい
- 第四十回 京の焼きもの
- 第三十九回 京の七不思議
- 第三十八回 京の作庭家
- 第三十七回 室町文化
- 第三十六回 京都御所
- 第三十五回 京の通り
- 第三十四回 節分祭
- 第三十三回 京の七福神
- 第三十二回 京の狛犬
- 第三十一回 伏見の酒
- 第三十回 京ことば
- 第二十九回 京の文明開化
- 第二十八回 京の魔界
- 第二十七回 京の納涼床
- 第二十六回 夏越祓
- 第二十五回 葵祭
- 第二十四回 京の絵師
- 第二十三回 涅槃会
- 第二十二回 京のお漬物
- 第二十一回 京の幕末
- 第二十回 京の梵鐘
- 第十九回 京のお豆腐
- 第十八回 時代祭
- 第十七回 京の近代建築
- 第十六回 京のお盆行事
- 第十五回 京野菜
- 第十四回 京都の路地
- 第十三回 宇治茶
- 第十一回 京菓子の歴史
- 第十回 枯山水庭園の眺め方
- 第九回 京阪沿線 初詣ガイド
- 第八回 顔見世を楽しむ
- 第七回 特別拝観の楽しみ方
- 第六回 京都の着物
- 第五回 仏像の見方
- 第四回 送り火の神秘
- 第三回 祇園祭の楽しみ方
- 第二回 京の名水めぐり
- 第一回 池泉庭園の眺め方