京都ツウのススメ
第八十九回 京の麩(ふ)
- 其の一、
- 麩は、室町時代に中国へ渡った修行僧によって日本へ伝わりました
- 其の二、
- 宮中や寺院では、麩は貴重なたんぱく源とされていました
- 其の三、
- 江戸時代、民衆の間でも食べられるようになり、様々な麩が作られています
麩の起源
室町時代、中国の麺筋(めんちん)と呼ばれる麩の原形が修行僧によって日本に伝えられ、肉類を食べない禅僧の貴重なたんぱく源とされていました。しかし、当時は原材料である小麦の生産量が少なく高価だったため、小麦の殻などを使用して麺筋を作っていました。この時代は民衆が口にする機会はなく、宮中や寺院での特別な行事の際などに食べられるのみでした。その後、安土桃山時代に麺筋を使ったお菓子が登場。麺筋は徐々に茶道の世界から一般的にも知られるようになります。江戸時代には、幕府が上質な小麦の輸入を始め、現在の小麦粉のグルテンを使ったものと同じ作り方になり、麩として民衆の食卓にも並ぶようになったと言われています。
京都と麩の関係
盆地のため良質な地下水に恵まれている京都では、昔から麩作りにもその水が利用され、早くから品質や味が良いものが作られていました。民衆にも手に入るようになると、料亭や京菓子店が麩料理や麩菓子を取り入れ始め、麩専門店もできるほど、麩の食文化が広まっていきました。
中国では「麺」が小麦、「筋」がたんぱく源の意味を持つことから名付けられた麺筋。中国から日本に伝わった当時は、石臼でひいた小麦粉を水で練ってこねるのではなく、小麦粉を作る時に出る殻や残りカスである麩(ふすま)を使い麺筋を作っていました。そうしてできた麺筋を炙(あぶ)り焼きにしたり、お吸い物に入れたりするなどして食べていたそうです。現在の小麦粉のグルテンを使った麩作りは、江戸時代から一般的になったとされています。
麩が様々な料理に用いられるようになり、今では生麩、焼き麩など、種類や形の違うものは90種類以上もあるそうです。
麩の原料になるグルテンにもち粉を加えてゆでた生麩は、京都を代表する食材です。味の変化を楽しめるようにヨモギやアワを練り込んだものや、季節の花を彩る花麩、手まりやちまきなどをまるで本物のように仕上げる細工麩などがあります。
1689(元禄2)年創業の麩専門店・半兵衛麸の初代店主・玉置半兵衛が、麩の製法を御所内で学び商いを始めたことから、京都で麩料理が広まったそうです
麩は焼くことによって保存期間が長くなり、長時間煮込んでも形がくずれにくくなります。京都では名産として長方形にして焼き上げた丁子(ちょうじ)麩と呼ばれる麩がよく食べられています。元は、滋賀の近江商人が形の丸い麩は持ち運びに不便なため、束ねやすい角型の麸を作ることを思いつき、そこから京都に伝わったそうです。
京都では、麺筋は室町時代に禅僧によって精進料理の食材に用いられ、肉に代わるたんぱく源として、煮たり焼いたり、様々な味付けをして食べられていました。安土桃山時代には、「麩の焼き」と呼ばれる麺筋を焼いたお菓子が誕生し、茶会で振る舞われたのが評判となったそうです。そして江戸時代の書物「食物和解(わげ)大成」や「當世(とうせい)料理筌(せん)」には、京都で作られる麩が最も良いと記されています。それは、京都の名物である豆腐や湯葉とともに、麩も質の良い水を利用して作る食材のためで、今も京都には麩料理専門店があり、そのおいしさを伝えています。
千利休が催した茶会では、麩の焼きがお菓子として多く用いられたことが当時の「茶会記」に残っています
麩屋町通(ふやちょうどおり)には麩屋がない!
京都の丸太町通から五条通までを南北に通る道・麩屋町通の周辺には、室町時代から麩を売る商人が多く住んでいました。しかし、江戸時代前期になると他の商いをする店が多くなり、中期には皇居の拡張によって住民は仁王門通へ移転することになったため、今は麩屋が1軒もありません
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