京都ツウのススメ
第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
「源氏絵鑑帖」絵合(部分) 伝土佐光則
(宇治市源氏物語ミュージアム蔵)
千年前の物語の中の京都 千年以上前の長編物語『源氏物語』には当時の京の都の様子や貴族社会の人々が書かれています。物語ゆかりの地を、「らくたび」の若村 亮さんが紹介します。
基礎知識
-
其の一、
- 『源氏物語』は平安時代中期に紫式部が書いた長編物語です
-
其の二、
- 主人公の光源氏(ひかるげんじ)と彼をとりまく人々の人生が書かれた作品です
-
其の三、
- 京都には物語にゆかりの深い場所がいくつもあります
千年の時間(とき)を超え読み継がれる物語
『源氏物語』は、平安時代中期に書かれた全54帖からなる長編物語です。作家で歌人の紫式部が、一条天皇の中宮〈后〉である彰子(しょうし)に仕えながら執筆したと言われています。主人公は天皇〈桐壺(きりつぼ)帝〉の皇子として生まれたものの、その身分を離れて臣下(しんか)となり、源氏の姓を与えられた光源氏。光源氏と女性たちの恋愛を軸に、貴族社会に生きる人々の栄華や挫折が描かれた『源氏物語』は、今も多くの読者を魅了しています。
京都には物語ゆかりのスポットが
『源氏物語』はフィクションですが、紫式部は物語に実際の宮廷の様子や貴族の生活、行事などを織り交ぜたそうです。主人公の光源氏も実在の人物をモデルにしたと言われています。貴族が別荘を構えた嵐山や宇治も舞台となったり、光源氏の恋人・六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)が正妻・葵の上に恨みを抱くきっかけとなる場面には、京都三大祭のひとつ・葵祭の様子が書かれています。京都を歩けば、今もそこかしこで『源氏物語』の世界と出会えます。
京都には、物語の中に登場したと考えられる社寺やゆかりの地が多くあります。
千本丸太町~千本一条界隈
上京区
平安京で、天皇の住まいである「内裏(だいり)」や官庁などが並ぶ「大内裏」があった地域です。
『源氏物語』の中で内裏には、光源氏の母・桐壺更衣(こうい)や、父・桐壺帝の后、藤壺の宮の殿舎がありました〈1帖『桐壺』〉。大内裏にある大極殿では、斎宮として伊勢へ赴く六条御息所の娘への「別れの御櫛(みくし)」の儀式が行われました〈10帖『賢木(さかき)』〉。
廬山寺(ろざんじ)
上京区
現在の廬山寺のある場所は紫式部の邸宅跡とされ、紫式部は『源氏物語』の大半をここで執筆したと言われます。
光源氏の恋人・花散里(はなちるさと)の屋敷があるのは、現在の廬山寺の辺りとされています〈11帖『花散里』〉。また、2帖『帚木(ははきぎ)』で、光源氏が正妻の葵の上を訪ねる前に立ち寄り、空蝉(うつせみ)という女性を知るきっかけになった紀伊守の邸宅もこの辺りです。
光源氏は「源氏の姓を持つ、光り輝く君」という意味の呼び名。嵯峨天皇の第12皇子の源融(みなもとのとおる)や、和歌に秀でた在原業平(ありわらのなりひら)など、実在した人がモデルだったと言われています
野宮神社(ののみやじんじゃ)
右京区
伊勢神宮に仕える斎宮が伊勢へ行く前に身を清めた、野宮のひとつとされます。
10帖『賢木』では、六条御息所が年下の恋人である光源氏との仲を諦め、斎宮として伊勢に向かう娘とともに野宮で身を清めました。嵐山の野宮神社は、黒木鳥居と小柴垣が『源氏物語』の世界を今に伝えます。
9帖『葵』には、賀茂社〈上賀茂神社と下鴨神社の総称〉の例祭·賀茂祭〈葵祭〉が登場。賀茂祭の前に行われる「御穣(ぎょけい)の儀」に同行する光源氏をひと目見ようと、正妻・葵の上と恋人・六条御息所が、牛車の場所取りで争う場面が書かれています
清涼寺(せいりょうじ)〈嵯峨釈迦堂(さがしゃかどう)〉
右京区
清涼寺の前身である棲霞寺(せいかじ)の寺域は、源融が嵯峨天皇から山荘として与えられた場所でした。
18帖『松風』で光源氏が建立した「嵯峨の御堂」は清涼寺がモデルとされています。34帖『若菜 上』で妻のひとり・紫の上が光源氏のために行った薬師仏の供養も、この御堂で執り行われました。
42帖『匂宮(におうのみや)』以降は光源氏亡き後の子孫の物語。宇治を主な舞台とした45帖『橋姫』から54帖『夢浮橋(ゆめのうきはし)』までが「宇治十帖」と呼ばれます。
『源氏物語』に見る貴族の遊び、風習
- 【観月(かんげつ)】
- 十五夜には、月を愛でる観月の宴が行われました。38帖『鈴虫』には、十五夜に光源氏が冷泉院の元に参上し、明け方まで詩歌を楽しんだとあります。
- 【囲碁(いご)】
-
囲碁は女性のたしなみのひとつでした。3帖『空蝉』には、光源氏が思いを寄せる空蝉が囲碁を打ち、光源氏がその姿を垣間見る様子が描かれています。
- 【薫物(たきもの)】
- 貴族は、香木などの粉末を調合し自分だけの薫物〈練香〉を楽しみました。32帖『梅枝(うめがえ)』では、光源氏が紫の上や花散里に薫物を作らせ、香りを比べ合いました。
現在の下京区には夕顔町という町名があります。4帖『タ顔』に登場する夕顔は、素性を明かさないまま光源氏と逢瀬を重ねた女性。その住まいがあったとされたことから町名が付けられました
※「源氏物語」に登場する場所や光源氏のモデルには諸説あります
- 第百九十三回 秋の京菓子
- 第百九十二回 京都の植物
- 第百九十一回 京都の風習
- 第百九十回 幻の巨椋池(おぐらいけ)
- 第百八十九回 京都と魚
- 第百八十八回 京都とお花見
- 第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
- 第百八十六回 京都の地ソース
- 第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
- 第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
- 第百八十三回 京都の坪庭(つぼにわ)
- 第百八十二回 どこまで分かる?京ことば
- 第百八十一回 京都の中華料理
- 第百八十回 琵琶湖疏水と京都
- 第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
- 第百七十八回 京都と徳川家
- 第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
- 第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
- 第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
- 第百七十四回 京の難読地名
- 第百七十三回 京の縁日
- 第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
- 第百七十一回 京都の通称寺
- 第百七十回 京都とキリスト教
- 第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
- 第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
- 第百六十七回 京の城下町 伏見
- 第百六十六回 京の竹
- 第百六十五回 子供の行事・儀式
- 第百六十四回 文豪と京の味
- 第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
- 第百六十二回 京都のフォークソング
- 第百六十一回 京と虎、寅
- 第百六十回 御火焚祭
- 第百五十九回 鴨川の橋
- 第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
- 第百五十七回 京都とスポーツ
- 第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
- 第百五十五回 京都の喫茶店
- 第百五十四回 京の刃物
- 第百五十三回 京都の南蛮菓子
- 第百五十二回 京の社家(しゃけ)
- 第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
- 第百五十回 京のお雑煮
- 第百四十九回 京の牛肉文化
- 第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
- 第百四十七回 明治の京都画壇
- 第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
- 第百四十五回 ヴォーリズ建築
- 第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
- 第百四十三回 京の人形
- 第百四十二回 京の社寺と動物
- 第百四十一回 鳥居(とりい)
- 第百四十回 冬の食べ物
- 第百三十九回 能・狂言と京都
- 第百三十八回 京都と様々な物の供養
- 第百三十六回 京都とビール
- 第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
- 第百三十四回 精進料理
- 第百三十三回 明治時代の京の町
- 第百三十二回 皇室ゆかりの建物
- 第百三十一回 京の調味料
- 第百三十回 高瀬川
- 第百二十九回 蹴鞠
- 第百二十八回 歌舞伎
- 第百二十七回 京都に残るお屋敷
- 第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
- 第百二十五回 京の学校
- 第百二十四回 京の六地蔵めぐり
- 第百二十三回 京の七不思議<通り編>
- 第百二十二回 京都とフランス
- 第百二十一回 京の石仏
- 第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
- 第百十九回 生き物由来の地名
- 第百十八回 京都の路面電車
- 第百十七回 神様への願いを込めて奉納
- 第百十六回 京の歴食
- 第百十五回 曲水の宴
- 第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
- 第百十三回 パンと京都
- 第百十二回 京に伝わる恋物語
- 第百十一回 鵜飼(うかい)
- 第百十回 扇子(せんす)
- 第百九回 京の社寺と山
- 第百八回 春の京菓子
- 第百七回 幻の京都
- 第百六回 京の家紋
- 第百五回 京の門前菓子
- 第百四回 京の通り名
- 第百三回 御土居(おどい)
- 第百二回 文学に描かれた京都
- 第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
- 第百回 夏の京野菜
- 第九十九回 若冲と近世日本画
- 第九十八回 京の鍾馗さん
- 第九十七回 言いまわし・ことわざ
- 第九十六回 京の仏師
- 第九十五回 鴨川
- 第九十四回 京の梅
- 第九十三回 ご朱印
- 第九十二回 京の冬の食習慣
- 第九十一回 京の庭園
- 第九十回 琳派(りんぱ)
- 第八十九回 京の麩(ふ)
- 第八十八回 妖怪紀行
- 第八十七回 夏の京菓子
- 第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
- 第八十五回 新選組
- 第八十四回 京のお弁当
- 第八十三回 京都の湯
- 第八十二回 京の禅寺
- 第八十一回 京の落語
- 第八十回 義士ゆかりの地・山科
- 第七十九回 京の紅葉
- 第七十八回 京の漫画
- 第七十七回 京の井戸
- 第七十六回 京のお地蔵さん
- 第七十五回 京の名僧
- 第七十四回 京の別邸
- 第七十三回 糺(ただす)の森
- 第七十二回 京舞
- 第七十一回 香道
- 第七十回 天神さん
- 第六十九回 平安京
- 第六十八回 冬の京野菜
- 第六十七回 茶の湯(茶道)
- 第六十六回 京の女流文学
- 第六十五回 京の銭湯
- 第六十四回 京の離宮
- 第六十三回 京の町名
- 第六十二回 能・狂言
- 第六十一回 京の伝説
- 第六十回 京狩野派
- 第五十九回 京寿司
- 第五十八回 京のしきたり
- 第五十七回 百人一首
- 第五十六回 京の年末
- 第五十五回 いけばな
- 第五十四回 京の城
- 第五十三回 観月行事
- 第五十二回 京の塔
- 第五十一回 錦市場
- 第五十回 京の暖簾
- 第四十九回 大原女
- 第四十八回 京友禅
- 第四十七回 京のひな祭り
- 第四十六回 京料理
- 第四十五回 京の町家〈内観編〉
- 第四十四回 京の町家〈外観編〉
- 第四十三回 京都と映画
- 第四十二回 京の門
- 第四十一回 おばんざい
- 第四十回 京の焼きもの
- 第三十九回 京の七不思議
- 第三十八回 京の作庭家
- 第三十七回 室町文化
- 第三十六回 京都御所
- 第三十五回 京の通り
- 第三十四回 節分祭
- 第三十三回 京の七福神
- 第三十二回 京の狛犬
- 第三十一回 伏見の酒
- 第三十回 京ことば
- 第二十九回 京の文明開化
- 第二十八回 京の魔界
- 第二十七回 京の納涼床
- 第二十六回 夏越祓
- 第二十五回 葵祭
- 第二十四回 京の絵師
- 第二十三回 涅槃会
- 第二十二回 京のお漬物
- 第二十一回 京の幕末
- 第二十回 京の梵鐘
- 第十九回 京のお豆腐
- 第十八回 時代祭
- 第十七回 京の近代建築
- 第十六回 京のお盆行事
- 第十五回 京野菜
- 第十四回 京都の路地
- 第十三回 宇治茶
- 第十一回 京菓子の歴史
- 第十回 枯山水庭園の眺め方
- 第九回 京阪沿線 初詣ガイド
- 第八回 顔見世を楽しむ
- 第七回 特別拝観の楽しみ方
- 第六回 京都の着物
- 第五回 仏像の見方
- 第四回 送り火の神秘
- 第三回 祇園祭の楽しみ方
- 第二回 京の名水めぐり
- 第一回 池泉庭園の眺め方