京都ツウのススメ
第百十九回 生き物由来の地名
京の地名にひそむ動物たち京都の面白い地名には生き物の名前が付いた場所があります。
らくたびの森明子さんにその由来を教えてもらいました。
基礎知識
其の一、
- 平安時代から明治時代にかけて、京の地名は何度も変わりました
其の二、
- 地名から、そこに昔あったものや住んでいた人など、歴史が見えてきます
其の三、
- 地名・通り名の由来は、説話や人物・職業など多彩です
京の町の変遷
平安京の造営以来、京都の町は碁盤の目のような都市構造を基本としてきました。しかし都の人口が増えるにつれ町の規模が拡大し、都市構造が変化します。平安時代中期には都の北には貴族の大邸宅が、四条~七条には庶民の住居兼店舗や工房ができ、北を上京、南を下京と呼ぶようになります。室町時代の応仁の乱で京都は戦場と化し、さらに町の姿が変化しますが、豊臣秀吉の聚楽第(じゅらくだい)・御土居(おどい)・伏見城の築造とともに、条坊制の町が復活、近世都市・京都の基礎となりました。
地名は文化
1788(天明 8)年に起きた天明の大火などで町全体が焼け野原になった際にも、復興させる時には同じような区画で町が再現されました。地名や町名・通り名も定着していき、人々の暮らしや風習、説話などを元に名付けられた場所もあります。中には、生き物にちなんだユニークな町名も。歴史や名所散策とともに、町歩きの楽しみ方のひとつとして、地名巡りをしてみてはいかがでしょうか。
上馬町(かみうままち)・下馬町(しもうままち)〔東山区〕
鎌倉幕府によって置かれた京都守護職・六波羅探題が栄えた頃、鎌倉に贈るための馬をつないでいたことから。馬町通の東に上馬町、西に下馬町があります。
猩々町(しょうじょうちょう) 〔中京区〕
ある酒屋が、酒が好きな架空の動物・猩々の人形を屋根に置いたところ名物となり、商売が大変繁盛しました。そこから「猩々の酒屋」と呼ばれるようになり、町名になったと言われています。
鹿ケ谷(ししがたに) 〔左京区〕
天台宗の僧・円珍がこの地を訪れた際、1頭の鹿が現れてこの辺りを案内したと言われていることから。平家物語には「鹿の谷」と記されています。
北蟹屋町(きたかにやちょう)・南蟹屋町(みなみかにやちょう)〔上京区〕
飼っていたカニが大変懐いて、ほかの家に行かないことを喜んだ主人が、屋号を「蟹屋」にしたことが町名の由来と言われています。現在は、隣り合った南北に北蟹屋町・南蟹屋町があります。
戌亥町(いぬいちょう)〔上京区〕
上京の北西(戌亥の方角)にあることから。
雁金町(かりがねちょう)〔中京区〕
雁(かり)が飛び立ったことから「雁金ノ井」と呼ばれる井戸が町の北側にあったため。
鶏鉾町(にわとりぼこちょう)〔下京区〕
古代中国・尭(ぎょう)の時代は非常に平和で、政治に不満があれば叩くようにと置かれた太鼓も鳴らされることはなく、ニワトリが巣を作るほどだったという故事にちなむ祇園祭の鶏鉾(にわとりほこ)。この鉾を維持保存していることからこの町名に。
※由来には諸説あります
虎石町(とらいしちょう) 〔中京区〕
浄土真宗の宗祖・親鸞がかつて住んでいた寺の庭に、虎に似た石があったことによります。
その後、石は豊臣秀吉によって二条城、伏見城へと移され、深草の宝塔寺に運ばれたと伝わります
亀木町(かめきちょう)〔上京区〕
元は聚楽第の庭園があった場所で、そこに巨大な亀の噴水があったことが町名の由来です。
百足屋町(むかでやちょう)〔中京区〕
ムカデの足の多さが客足が多いこと、つまり商売繁盛を意味することから縁起の良い生き物とされています。そのことにあやかって屋号とした豪商「むかでや」が町名の由来です。
京都には百足屋町が2つあります。呉服の町と建具の町、どちらも商店が並ぶ通りにあり、客足が増えるよう期待したものと思われます
青龍町(せいりゅうちょう)〔上京区〕
京都御所の東に当たることから、東西南北を守護する霊獣・四神の青龍から名付けたと言われています。
鷹匠町(たかじょうちょう)〔伏見区〕
伏見城の城下町造成によって元々あった村が強制移転。代わりに各大名の鷹匠が住む町が造られました。
蛸薬師町(たこやくしちょう)〔中京区〕
かつてこの辺りにあった永福寺の僧・善光が、病気の母親に好物のタコを食べさせようと、仏教の戒めに背いてタコを買いました。それを町の人に見られ、問い詰められて本尊に助けを求めると、タコが光を放つ8つの経典に変わり、その光で母親の病気が治ったという話が伝わっています。このことから本尊は蛸薬師如来と呼ばれ、町名にもなったそうです。
現在、永福寺は新京極通に移され、蛸薬師堂として親しまれています。ご本尊前には、左手でなでると全ての病気が治るという「なで蛸」の木像が置かれています
※由来には諸説あります
- 第百九十三回 秋の京菓子
- 第百九十二回 京都の植物
- 第百九十一回 京都の風習
- 第百九十回 幻の巨椋池(おぐらいけ)
- 第百八十九回 京都と魚
- 第百八十八回 京都とお花見
- 第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
- 第百八十六回 京都の地ソース
- 第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
- 第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
- 第百八十三回 京都の坪庭(つぼにわ)
- 第百八十二回 どこまで分かる?京ことば
- 第百八十一回 京都の中華料理
- 第百八十回 琵琶湖疏水と京都
- 第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
- 第百七十八回 京都と徳川家
- 第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
- 第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
- 第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
- 第百七十四回 京の難読地名
- 第百七十三回 京の縁日
- 第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
- 第百七十一回 京都の通称寺
- 第百七十回 京都とキリスト教
- 第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
- 第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
- 第百六十七回 京の城下町 伏見
- 第百六十六回 京の竹
- 第百六十五回 子供の行事・儀式
- 第百六十四回 文豪と京の味
- 第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
- 第百六十二回 京都のフォークソング
- 第百六十一回 京と虎、寅
- 第百六十回 御火焚祭
- 第百五十九回 鴨川の橋
- 第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
- 第百五十七回 京都とスポーツ
- 第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
- 第百五十五回 京都の喫茶店
- 第百五十四回 京の刃物
- 第百五十三回 京都の南蛮菓子
- 第百五十二回 京の社家(しゃけ)
- 第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
- 第百五十回 京のお雑煮
- 第百四十九回 京の牛肉文化
- 第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
- 第百四十七回 明治の京都画壇
- 第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
- 第百四十五回 ヴォーリズ建築
- 第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
- 第百四十三回 京の人形
- 第百四十二回 京の社寺と動物
- 第百四十一回 鳥居(とりい)
- 第百四十回 冬の食べ物
- 第百三十九回 能・狂言と京都
- 第百三十八回 京都と様々な物の供養
- 第百三十六回 京都とビール
- 第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
- 第百三十四回 精進料理
- 第百三十三回 明治時代の京の町
- 第百三十二回 皇室ゆかりの建物
- 第百三十一回 京の調味料
- 第百三十回 高瀬川
- 第百二十九回 蹴鞠
- 第百二十八回 歌舞伎
- 第百二十七回 京都に残るお屋敷
- 第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
- 第百二十五回 京の学校
- 第百二十四回 京の六地蔵めぐり
- 第百二十三回 京の七不思議<通り編>
- 第百二十二回 京都とフランス
- 第百二十一回 京の石仏
- 第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
- 第百十九回 生き物由来の地名
- 第百十八回 京都の路面電車
- 第百十七回 神様への願いを込めて奉納
- 第百十六回 京の歴食
- 第百十五回 曲水の宴
- 第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
- 第百十三回 パンと京都
- 第百十二回 京に伝わる恋物語
- 第百十一回 鵜飼(うかい)
- 第百十回 扇子(せんす)
- 第百九回 京の社寺と山
- 第百八回 春の京菓子
- 第百七回 幻の京都
- 第百六回 京の家紋
- 第百五回 京の門前菓子
- 第百四回 京の通り名
- 第百三回 御土居(おどい)
- 第百二回 文学に描かれた京都
- 第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
- 第百回 夏の京野菜
- 第九十九回 若冲と近世日本画
- 第九十八回 京の鍾馗さん
- 第九十七回 言いまわし・ことわざ
- 第九十六回 京の仏師
- 第九十五回 鴨川
- 第九十四回 京の梅
- 第九十三回 ご朱印
- 第九十二回 京の冬の食習慣
- 第九十一回 京の庭園
- 第九十回 琳派(りんぱ)
- 第八十九回 京の麩(ふ)
- 第八十八回 妖怪紀行
- 第八十七回 夏の京菓子
- 第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
- 第八十五回 新選組
- 第八十四回 京のお弁当
- 第八十三回 京都の湯
- 第八十二回 京の禅寺
- 第八十一回 京の落語
- 第八十回 義士ゆかりの地・山科
- 第七十九回 京の紅葉
- 第七十八回 京の漫画
- 第七十七回 京の井戸
- 第七十六回 京のお地蔵さん
- 第七十五回 京の名僧
- 第七十四回 京の別邸
- 第七十三回 糺(ただす)の森
- 第七十二回 京舞
- 第七十一回 香道
- 第七十回 天神さん
- 第六十九回 平安京
- 第六十八回 冬の京野菜
- 第六十七回 茶の湯(茶道)
- 第六十六回 京の女流文学
- 第六十五回 京の銭湯
- 第六十四回 京の離宮
- 第六十三回 京の町名
- 第六十二回 能・狂言
- 第六十一回 京の伝説
- 第六十回 京狩野派
- 第五十九回 京寿司
- 第五十八回 京のしきたり
- 第五十七回 百人一首
- 第五十六回 京の年末
- 第五十五回 いけばな
- 第五十四回 京の城
- 第五十三回 観月行事
- 第五十二回 京の塔
- 第五十一回 錦市場
- 第五十回 京の暖簾
- 第四十九回 大原女
- 第四十八回 京友禅
- 第四十七回 京のひな祭り
- 第四十六回 京料理
- 第四十五回 京の町家〈内観編〉
- 第四十四回 京の町家〈外観編〉
- 第四十三回 京都と映画
- 第四十二回 京の門
- 第四十一回 おばんざい
- 第四十回 京の焼きもの
- 第三十九回 京の七不思議
- 第三十八回 京の作庭家
- 第三十七回 室町文化
- 第三十六回 京都御所
- 第三十五回 京の通り
- 第三十四回 節分祭
- 第三十三回 京の七福神
- 第三十二回 京の狛犬
- 第三十一回 伏見の酒
- 第三十回 京ことば
- 第二十九回 京の文明開化
- 第二十八回 京の魔界
- 第二十七回 京の納涼床
- 第二十六回 夏越祓
- 第二十五回 葵祭
- 第二十四回 京の絵師
- 第二十三回 涅槃会
- 第二十二回 京のお漬物
- 第二十一回 京の幕末
- 第二十回 京の梵鐘
- 第十九回 京のお豆腐
- 第十八回 時代祭
- 第十七回 京の近代建築
- 第十六回 京のお盆行事
- 第十五回 京野菜
- 第十四回 京都の路地
- 第十三回 宇治茶
- 第十一回 京菓子の歴史
- 第十回 枯山水庭園の眺め方
- 第九回 京阪沿線 初詣ガイド
- 第八回 顔見世を楽しむ
- 第七回 特別拝観の楽しみ方
- 第六回 京都の着物
- 第五回 仏像の見方
- 第四回 送り火の神秘
- 第三回 祇園祭の楽しみ方
- 第二回 京の名水めぐり
- 第一回 池泉庭園の眺め方