京都ツウのススメ
第百二十八回 歌舞伎
京都と歌舞伎南座では、例年12月に吉例顔見世興行が行われています。
歌舞伎の歴史や京都ならではのエピソードをらくたびの谷口真由美さんがご紹介します。
基礎知識
其の一、
- 女性芸能者・阿国(おくに)が率いる一座が披露した踊りが歌舞伎の始まりです
其の二、
- 江戸時代から、現在の祇園四条一帯には、多くの芝居小屋がありました
其の三、
- 東西の役者が一堂にそろう吉例顔見世興行は京都の師走の風物詩です
かぶき者に扮した踊りが流行
日本の代表的な伝統芸能のひとつ・歌舞伎。江戸時代初期の史書『当代記(とうだいき)』の 1603(慶長 8)年の項に「出雲国(現在の島根県)の巫女(みこ)と名乗り京に現れた女性・阿国によるかぶき踊りがある」と記述があり、これが現在まで続く歌舞伎の始まりとされています。「かぶき」とは派手な衣装や髪形で京の街を闊歩(かっぽ)した男(=かぶき者)に由来します。そのかぶき者に扮した阿国が舞うかぶき踊りはたちまち話題となりました。
約400年前から続く南座
阿国は五条大橋の東詰や北野社(現在の北野天満宮)でかぶき踊りを披露し、四条河原ではこれをまねた女歌舞伎が行われるようになります。元和年間(1615 ~24年)には今の四条大橋の東側に、幕府により公認された常設の芝居小屋 7カ所が置かれていました。この芝居小屋を起源とする南座は、今秋、大規模なリニューアル工事が完了。東西の役者が顔をそろえる吉例顔見世興行が 3年ぶりに南座で開催されています。
ややこ踊りという舞から始まったと言われるかぶき踊り。
そこに演劇性も加わり、庶民の娯楽のひとつとなっていきます。
北野社(現在の北野天満宮)で舞う阿国。腰に刀をさげて「かぶき者」を演じています。「國女歌舞伎繪詞」(部分) 京都大学附属図書館蔵
- ややこ踊りからかぶき踊りへ
- 安土桃山時代から江戸時代初期にかけての公家の日記『時慶卿記(ときよしきょうき)』には「1600(慶長5)年に、出雲出身を名乗るクニや菊という女性がややこ踊りを舞った」とあります。この一座を阿国の一座だとする説があり、幼い少女が舞うややこ踊りが、後にかぶき踊りに変化したと言われます。
- 形を変えながら発展した歌舞伎
- かぶき踊りに続き、女性芸能者や遊女による女歌舞伎や少年が演じる若衆歌舞伎が生まれますが、いずれも風紀を乱すものとして幕府によって禁止されます。その後、成人男性による野郎歌舞伎が誕生。芝居の要素も加わり、元禄年間(1688~1704年)には庶民の娯楽のひとつとして定着しました。
四条河原のにぎわいは江戸時代から。
京都の街には歌舞伎の歴史が刻まれています。
歌舞伎と四条河原
阿国のかぶき踊りの人気に便乗して生まれたのが女歌舞伎で、1608(慶長13)年に四条河原で行われた興行には、数万人の群衆が集まったと伝わります。その後芝居小屋が並び始め、歌舞伎や人形遣いなどの興行が行われるようになります。
7つの公認芝居小屋
四条通の南北に「芝居」「同」と書かれているのが芝居小屋 「京大絵図」1686(貞亨3)年国立国会図書館デジタルコレクション
元和年間になると、幕府の公認により四条河原の東側に7つの芝居小屋が誕生。火災による焼失や復興などを繰り返し、江戸時代後期には四条通の南北にひとつずつ残るのみとなります。1893(明治26)年に北側の芝居小屋が四条通の拡幅に伴い閉鎖され、唯一残ったのが現在の南座です。
南座の正面大屋根に掲げられている櫓(やぐら)は、元和年間に幕府が認めた芝居小屋であることの証です。
©松竹
坂田藤十郎(とうじゅうろう)と近松門左衛門
初代坂田藤十郎は身分の高い人物が落ちぶれた様を演じる姿が評判になりました 「野良関相撲」 東京都立図書館加賀文庫蔵
元禄年間に最盛期を迎えた歌舞伎は、京都出身で上方歌舞伎の創始者・初代坂田藤十郎(1647~1709年)が活躍し、和事(わごと)という柔らかく優美な芸風を確立させます。また浄瑠璃作者として知られる近松門左衛門(1653~1725年)は歌舞伎の作者としても活躍し、坂田藤十郎は多くの近松作品に主演し、好評を博しました。
初代坂田藤十郎は身分の高い人物が落ちぶれた様を演じる姿が評判になりました 「野良関相撲」 東京都立図書館加賀文庫蔵
京の師走の風物詩・顔見世
元禄年間の頃、役者は11月から1年契約で芝居小屋に出演していたため、11月に新しい顔ぶれを披露したのが顔見世の始まりです。現在毎年12月に行われている、東西の役者が一堂にそろう南座の吉例顔見世興行では、芸舞妓が芸事の勉強のために観劇する花街総見の日もあります。
舞妓の花かんざしは季節にちなんだものが使われ、師走はまねきがモチーフに。贔屓(ひいき)の役者を訪ね、花かんざしの小さなまねきに名前を入れてもらう習慣があります。
撮影協力:金竹堂
大入りを祈願するまねき
吉例顔見世興行中に南座の正面に飾られるのが、役者の名前が書かれた看板・まねきです。大入りを願い、勘亭流という太い書体で隙間なく、ハネが内側になるように書かれます。
まねき書きが行われている左京区の妙傳寺(みょうでんじ)は、当代で15代となる上方歌舞伎の名跡・片岡仁左衛門家の菩提寺です。
名場面に登場するのは創業300年余のお茶屋
ベンガラ色の壁や暖簾(のれん)がその歴史を物語る祇園のお茶屋・一力(いちりき)亭は、江戸時代初演の人気演目「仮名手本忠臣蔵」に一力茶屋として登場する老舗です。元の屋号を万屋(よろずや)と言い、「万」という字を「一」と「力」に分けて読ませた劇中の屋号をそのまま掲げ、今も格式を重んじる祇園の伝統文化を守り継いでいます。
- 第百九十六回 南座と歌舞伎
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- 第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
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- 第百七十回 京都とキリスト教
- 第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
- 第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
- 第百六十七回 京の城下町 伏見
- 第百六十六回 京の竹
- 第百六十五回 子供の行事・儀式
- 第百六十四回 文豪と京の味
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- 第百六十回 御火焚祭
- 第百五十九回 鴨川の橋
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- 第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
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- 第百五十三回 京都の南蛮菓子
- 第百五十二回 京の社家(しゃけ)
- 第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
- 第百五十回 京のお雑煮
- 第百四十九回 京の牛肉文化
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- 第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
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- 第百四十二回 京の社寺と動物
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- 第百四十回 冬の食べ物
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- 第百三十八回 京都と様々な物の供養
- 第百三十六回 京都とビール
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- 第百三十二回 皇室ゆかりの建物
- 第百三十一回 京の調味料
- 第百三十回 高瀬川
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- 第百二十八回 歌舞伎
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- 第百二十四回 京の六地蔵めぐり
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- 第百二十一回 京の石仏
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- 第百七回 幻の京都
- 第百六回 京の家紋
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- 第九十二回 京の冬の食習慣
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- 第八十五回 新選組
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- 第六十二回 能・狂言
- 第六十一回 京の伝説
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- 第二十六回 夏越祓
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- 第十六回 京のお盆行事
- 第十五回 京野菜
- 第十四回 京都の路地
- 第十三回 宇治茶
- 第十一回 京菓子の歴史
- 第十回 枯山水庭園の眺め方
- 第九回 京阪沿線 初詣ガイド
- 第八回 顔見世を楽しむ
- 第七回 特別拝観の楽しみ方
- 第六回 京都の着物
- 第五回 仏像の見方
- 第四回 送り火の神秘
- 第三回 祇園祭の楽しみ方
- 第二回 京の名水めぐり
- 第一回 池泉庭園の眺め方