京都ツウのススメ

第四十三回 京都と映画

[“日本のハリウッド”と呼ばれた映画の町・京都] かつて太秦を中心に、時代劇映画の黄金期を築いた京都。日本の映画文化をリードした京の映画産業について、らくたびの山村純也さんがご紹介します。

京の映画産業の基礎知識

其の一、
1897(明治30)年、日本初の映画の試写実験が行われました
其の二、
京都市右京区太秦を中心に撮影所が置かれ“日本のハリウッド”と呼ばれました
其の三、
現在も東映・松竹の撮影所があり、映画やドラマを世に送り出しています

近代京都で産声を上げた日本映画

京都が“日本映画のふるさと”と呼ばれるのを、ご存知でしょうか? 近代化が進む明治時代の京都に、フランスで発明されたシネマトグラフ(カメラ付き映写機)を持ち込んだのは地元出身の実業家・稲畑勝太郎でした。稲畑は、1897(明治30)年、四条河原町にほど近い京都電燈株式会社の庭で、日本初の活動写真(無声映画)の試写実験に成功。1901(明治34)年には、後に“日本映画の父”と呼ばれる牧野省三が経営していた演芸小屋「千本座」が京都初の映画上映館として運営されるようになり、映画は次第に人々の娯楽として定着していきました。

日本映画史を見守り続ける京の町

1903(明治36)年、稲畑から興行権を譲り受けた横田万寿之助・永之助兄弟により、後に日活の前身となる横田商会が誕生。1923(大正12)年に関東大震災が起こると、東京から多くの撮影所が京都に移転し、映画製作の一大拠点となりました。社寺など歴史的建造物が多く、ロケ地に恵まれていたことなどから、昭和のトーキー(発声映画)時代になると時代劇をはじめ数々の傑作が生み出され、黄金期を迎えます。その隆盛ぶりは“日本のハリウッド”と称されるほどでした。

[京の映画小史] 日本の映画産業発祥の地としてその発展を支えてきた京都。現在に至るまでの足跡をたどってみましょう。

[草創期]試写実験から始まった京の映画産業

劇映画の本格製作に乗り出した横田兄弟は、京都初の撮影所を二条城近くに建設。映画製作の指揮には牧野省三があたりました。牧野は真如堂でロケを行い、日本初の国内製作映画『本能寺合戦』(1908年)を上映。尾上松之助をはじめ多くのスター俳優を輩出し“日本映画の父”と呼ばれました。

ココがツウ

シネマトグラフによる試写実験では、初回は電圧が合わずに失敗しましたが、その後島津製作所の技師と京都電燈が協力して変圧器を作り、映画の上映に成功しました

  • (1)1910(明治43)年に横田商会が開設した二条城撮影所(二条城西南角あたり)の跡。約2年で閉鎖されるまでの間、牧野&尾上松之助のコンビでなどが撮影されました
  • (2)等持院撮影所は、日活から独立した牧野が1921(大正10)年に等持院に構えた京都唯一のお寺の中の撮影所。境内に「マキノ省三先生像」が立ち、往時をしのばせます

[黄金期]“日本のハリウッド”と呼ばれた映画製作の拠点・太秦

1926(大正15)年、俳優・阪東妻三郎が太秦に初めて撮影所を開設(現・東映京都撮影所のあたり)。最盛期には20を超える撮影所が稼動し、時代劇を中心に毎週1作品ペースで作られました。1951(昭和26)年には、大映京都撮影所で撮影された黒澤明監督の『羅生門』(1950年)が、ベネチア国際映画祭でグランプリを受賞。日本映画は黄金期を迎えていました。

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当時の太秦は竹やぶに覆われた集落でしたが、安くて広い土地が確保できたことと、時代劇のセット作りに欠かせない材木屋が多かったことから撮影所が密集しました

  • (3)撮影所の建設ですみかを追われたキツネやタヌキを供養するために、1928(昭和3)年に日活関係者が創建した通称・三吉(さんきち)稲荷
  • (4)大映京都撮影所跡地(太秦中学校校門北側)のグランプリ広場。『羅生門』がグランプリを受賞した際の金獅子のレプリカ(右)が設置されています

[現在]今も現役日本映画を支える“映画の町”

太秦には現在も東映・松竹の撮影所があり、映画やテレビの撮影が連日行われています。1975(昭和50)年には“時代劇の復興”をかけて東映太秦映画村が開村。近年はシネマフェスティバルなども開催され、新たな映画文化を発信しています。

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京都文化博物館のフィルムシアターでは、日本の古典・名作映画を中心に、解説付きの無声映画上映などのプログラムが組まれることもあり、映画の多彩な京都の魅力を発信しています。町ならではの趣向が凝らされています

  • (5)東映京都撮影所の一部を一般公開した東映太秦映画村は、時代劇の世界が体感できる日本初の映画テーマパーク。貴重な映画資料なども保存
  • (6)太秦の活性化を目指し、2006年から京都太秦シネマフェスティバルが行われ、映画上映だけでなくロケ地巡りなど様々なイベントが開催されています
制作:2011年10月
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