京都ツウのススメ

第百八回 春の京菓子

[都の春を彩る京菓子] 季節を写し、細やかな手技で作られる京都の和菓子。美しい和菓子の世界をらくたびの森明子さんが紹介します。

基礎知識

其の一、
京菓子は、茶の湯とともに発展し、江戸時代に開花しました
其の二、
お茶席で出される京菓子は、色や形、名前などで季節を表します
其の三、
春は桜餅をはじめ、桜をモチーフにしたお菓子が多く登場します

茶の湯の大成と京菓子の進化

鎌倉時代に「点心」という間食の習慣が中国から伝わり、この時に食べられていた羊羹(ようかん)や饅頭(まんじゅう)などが京菓子の源流と言われています。室町時代の茶の湯の発展に伴い京菓子も進歩し、江戸時代に大成しました。お茶席で出される菓子には主菓子(おもがし)(生菓子)と干菓子の2種類があり、これらは季節や茶会のテーマに合わせて作られたため、色や形、表現方法などは様々。京菓子は洗練されたセンスで人々を魅了し、またその製菓技術も国内最高レベルのもので、他の地域での菓子作りに影響を与えました。

春を楽しむ京菓子の世界

春の京菓子の代表とも言われる「桜餅」は、1683(天和3)年には京都の御菓子司桔梗屋が作っていたという記録が残っています。道明寺粉で作った餅を使うことから「道明寺」とも呼ばれています。春を表す京菓子の中でも桜をモチーフにしたものは多く、その意匠は店によっても千差万別。上生菓子や羊羹、干菓子など洗練された京菓子は、春を楽しむ人々の気持ちを盛り上げてくれます。

[繊細な意匠で愛でる京の春]京菓子は、花鳥風月や景色を写し、日本らしい風雅な感性を表現しています。桜をはじめ、春をモチーフにした生菓子と干菓子を紹介します。

生菓子(なまがし)

餡(あん)を用いた水分の多いお菓子。
練り切りや羊羹、饅頭などがあります

甘春堂「宴」

満開の桜の下で、平安時代の人々が歌会を繰り広げる様子を表した練り切り

「こなし」は京菓子独特の素材で、白のこし餡にもち粉、小麦粉などを混ぜて蒸し上げたものです

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上生菓子(じょうなまがし)

元は宮中などに納めたり、特別な時にあつらえた献上菓子のことで、繊細な細工が特徴。「こなし」や「練り切り」というやわらかな生地を手やヘラで成形し、季節の草花などを表現します。練り切り餡をそぼろ状にして使う「きんとん」は、色で風情を表現します。

末富「都の春」

白とピンク、緑で表すのは桜と柳。京都を彩る春景色を優しい色で仕上げたきんとんです

鶴屋寿「嵐山 さ久ら餅」

葉は塩漬けにすることで香りが立ちます。鶴屋寿では伊豆大島の大島桜の若葉を使用

餅菓子(もちがし)

餅菓子には大福やおはぎのような庶民的なものから、花びら餅、かしわ餅、亥の子餅など季節や行事に作られる特別なものもあります。桜餅は、もち米を粗挽きした道明寺粉で作った餅でこし餡を包み、塩漬けした桜の若葉で挟みます。

塩漬けにした桜の葉は、巻き付けるのではなく、上下から2枚の葉で挟むのが基本形

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羊羹(ようかん)

元は中国の羹(あつもの=羊の肉の汁物)のこと。日本では肉を食べる習慣がなかったため、小豆を小麦粉などと混ぜて蒸したものを動物の肉に見立てていました。江戸時代から寒天が使われるようになり、今のような甘い練り羊羹に。

俵屋吉富「京逍遥 花のみち」(手前)/「京逍遥 風そよぐ」(奥)

花のみちは、若葉色と桜色の羊羹を合わせ、春を巧みに表現。ピンクに染まった道明寺粉が桜の花びらのよう

干菓子(ひがし)

水分が少なく、日持ちのする乾いたお菓子。
有平糖(あるへいとう)、生(き)砂糖、煎餅、落雁、州浜(すはま)などがあります

紫野源水「桜の有平糖」

ガラス細工のように透明で繊細。5枚の薄ピンクの花弁と黄色の雄しべ、若葉をリアルに再現しています

有平糖(あるへいとう)

南蛮菓子の一種で、砂糖を煮詰めて飴のように固めたもの。京都の伝統的な製法で、やわらかいうちに細工を施すため、職人の熟練の技を要します。

二条若狭屋「京の色」

数種類の落雁で季節を表したお菓子。春は桜や蝶、舞妓、ツクシなどがかたどられます

落雁(らくがん)

砂糖と寒梅粉、片栗粉などを練り、型に詰めて抜き取り、1日以上乾燥させたものを打物(うちもの)・押物(おしもの)と言い、落雁はそのひとつ。

干菓子の木型や意匠は、京都から各地に広まったと言われています

ここがツウ

制作:2017年4月
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