京都ツウのススメ

第十九回 京のお豆腐

[清らかな名水に育まれた 京のお豆腐]つやめくような白さ、滑らかなのど越し・・・。京都、と言えば思い浮かべる人も多い名物のひとつ「豆腐」。京の食文化に欠かせない豆腐の歴史を、らくたびの光川貴浩さんがひも解きます。

京のお豆腐の基礎知識

其の一、
精進料理に取り入れられ、禅寺を中心に広がりました
其の二、
良質な地下水に恵まれた京都では、まろやかな味わいの豆腐が作られてきました
其の三、
唄(うた)や小説にも取り上げられています

精進料理として発展

奈良時代に中国から日本へ伝わったとされる豆腐は、社寺の供物(くもつ)や貴族の食べ物として、大変高価な食材でした。鎌倉時代になると、京都を中心に禅文化が隆盛。肉や魚を口にできない僧侶たちにとって、豆腐は貴重なたんぱく源だったため、精進料理に盛んに取り入れられ、おいしい豆腐作りが発達しました。京都の豆腐は、こうした社寺との深い関わりの中で育まれていきました。

ココがツウ江戸時代に出版された『精進料理献立集』に収録されている、献立の多くが豆腐料理だったと言います

京の名水が豆腐を作る

豆腐の大半は水でできています。だからこそ、昔から良質な水がわき出る京都は、豆腐作りに適した土地でした。東、西、北の三方を山に囲まれた地形は、長い年月をかけて豊富な地下水を蓄積。また、硬度が低く鉄分が少ないその特質が、豆腐の味をより一層まろやかにしました。今も町を歩けば、伝統の味を守り続ける昔ながらの豆腐店に出合えます。

ココがツウ京都の豆腐店の多くが、今も良質な井戸水(地下水)を使っています

歴史を彩る京の名物豆腐 今でこそ、庶民の食材として親しまれる豆腐。その歴史をたどれば、みそを塗って焼いた豆腐田楽や澄まし粉を使った嵯峨豆腐に出合います。

中村楼の祇園豆腐

祇園豆腐(田楽)

「祇園豆腐(田楽)/700円」は、塗の器でいただきます

ココがツウ江戸時代には見物客の目の前で披露した豆腐切りの早業が人気を呼びました

豆腐が庶民へ広まったのは江戸時代。八坂神社の参道にある茶店「二軒茶屋」(現・中村楼)で出された豆腐田楽の「祇園豆腐」が人気となり、豆腐を料理して味わうことが広まりました。現在も中村楼で味わえる祇園豆腐は、白みそ・みりん・酒・卵黄などを5~6時間かけて湯せんしながら練り、ゆでて裏ごししたほうれん草の葉と木の芽を加えたものを、木綿豆腐に塗って焼いています。豆腐の素朴な味と手間暇かけたみその風味が絶妙です。

唄「京の四季」に登場

江戸時代・文久年間(1862~64年頃)前後の唄「京の四季」。京都の景色が次々と登場する歌詞の中に、二股の串を差した田楽豆腐を武士の姿になぞらえた、祇園豆腐の名があり、当時の人気ぶりがうかがえます。

中村楼
二軒茶屋 中村楼

約450年前に、八坂神社門前の茶店として創業。以後、料亭へと発展し京料理を提供。料亭の雅な風情と茶店の気軽さと、両方を楽しむことのできるお店です。

  • 料亭:11時30分~14時(L.O.) 17時~19時(L.O.)
    茶店:11時30分~18時
    木曜(祝日を除く)休業
  • 075-561-0016
  • 祇園四条駅下車 南東へ徒歩約10分

森嘉の嵯峨豆腐

白豆腐(2丁分入り)/400円

ツルリと滑らかな京豆腐。このイメージを世間に定着させたのが、戦後に誕生した嵯峨豆腐。戦前は、凝固剤としてにがりを使って作る、硬めの木綿豆腐が一般的でした。しかし、凝固剤に澄まし粉(硫酸カルシウム)を使うこの豆腐は、コシが強く軟らかいのに崩れない絶妙の舌触り。これが京都の人々に受け入れられ、広く愛されるようになりました。

小説にも登場する豆腐

文豪・川端康成の『古都』の中で、森嘉の嵯峨豆腐が取り上げられています。

娘の千重子が、ひるごろに来た。「おとうさん、森嘉の湯豆腐をおあがりやすか。買うてきました」「ああ、おおきに……。森嘉の豆腐もうれしいけど、千重子の来たのはもっとうれしい。(略)」(『古都』より)

森嘉
嵯峨豆腐 森嘉

安政年間(1854~60年)創業。作りたての豆腐を目の前でパックして販売しています。豆腐の他、ゆりね・ぎんなんなどがたっぷりの「飛竜頭(ひろうす)/200円」も人気です。

  • 8時~18時 水曜(祝日は翌日)休業、火曜不定休
  • 075-872-3955
  • 嵐電(京福)嵐山駅下車 北へ徒歩約15分
こんな京の豆腐も 厳しい審査によって選ばれた京ブランド認定豆腐

京都府食品産業協会が認定する京ブランド食品。原材料・製法・品質にこだわり国産大豆を100%使用するなど、大豆本来のうまみを引き出した京ならではの豆腐を認定しています。
※取り扱い店についてはホームページをご覧ください

京都府豆腐油揚商工組合

制作:2009年10月
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第三十六回 京都御所
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第三十二回 京の狛犬
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第二十四回 京の絵師
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第十一回 京菓子の歴史
第十回 枯山水庭園の眺め方
第九回 京阪沿線 初詣ガイド
第八回 顔見世を楽しむ
第七回 特別拝観の楽しみ方
第六回 京都の着物
第五回 仏像の見方
第四回 送り火の神秘
第三回 祇園祭の楽しみ方
第二回 京の名水めぐり
第一回 池泉庭園の眺め方