京都ツウのススメ
第六十六回 京の女流文学
- 其の一、
- 平安時代にかな文字が発達し、女性による執筆活動が盛んになりました
- 其の二、
- 中央貴族によって宮廷に集められた優秀な女性たちが、作家として活躍しました
- 其の三、
- 名作『源氏物語(げんじものがたり)』と『枕草子(まくらのそうし)』は、一条天皇の后のサロンで生まれました
女流文学が生まれた背景
平安時代初め、文章を書く際には中国から伝わり男 性が使用していた漢字が主でしたが、やがてかな文字が発達していきます。漢字より簡単であることから女性が用いるようになり、通い婚という当時の慣習も重なって、夫を待つ間などに日記や物語を書く女性が現れ始めます。また、平安時代中頃から藤原氏ら中央貴族が摂関政治を始め、自分の息子や、天皇に嫁入りさせた娘の教育係として、和歌や漢詩の知識が豊富な女性を集めました。この女性たちは女房として宮仕えをしながら執筆活動を行います。娯楽の少なかった当時、彼女たちの作品は宮廷や貴族の中で評判を呼びました。
活躍する女性作家たち
平安時代中期、藤原道綱母が書いた『蜻蛉(かげろう)日記』を皮切りに、女性による日記文学が登場します。また、一条 天皇の后に教養をつけるため形成されたサロンの女房という立場から貴族の日常を鮮やかに描いた、紫式部の『源氏物語』と清少納言の『枕草子』は、ともに後世にも大きな影響を与えました。紫式部の同僚であった和泉式部や赤染衛門も、優れた文学作品を残しています。
学者であった父の影響で、幼い頃から漢詩文が読める才女でした。
執筆した『源氏物語』の評判が、時の権力者・藤原道長の耳に入り、
その娘で一条天皇の后となった彰子の教育係として仕えました。
主に京都を舞台とした全54巻の長編物語。光源氏を主人公に男女の恋愛を描き、王朝文化最盛期の宮廷貴族たちの
生活を、優雅かつ克明に描いています。
一条天皇の興味を引き彰子の元へ通うようにさせるため、
紫式部は『源氏物語』を書き続けたと言われています
三十六歌仙のひとりであった父・清原元輔の元で幼い頃から和歌や漢文に
親しみ、時の関白・藤原道隆の娘で一条天皇の后である定子に仕えました。
博学で才気にあふれ、打てば響く聡明さは宮中でも評判でした。
定子に仕えた宮中生活を中心に、名所や自然鑑賞などの内容を素材としています。当時の京都における貴族の生活、四季の行事、風物などがうかがえるエッセーです。
『枕草子』は、鴨長明の『方丈記』と吉田兼好の『徒然
草』と並んで、日本三大随筆のひとつとされています
藤原兼家の妻で、結婚生活の様子をつづった『蜻蛉日記』は女性による初の本格的な日記文学で、後の紫式部や清少納言にも影響を与えたと言われます。
小倉百人一首殿堂「時雨殿」蔵
一条天皇の后・彰子に仕えた女房で、同僚の紫式部もその文学的才能を認めたほど。率直で大胆な作風の和歌を多く残し、敦道親王との恋をつづった『和泉式部日記』も残ります。
誠心院蔵
藤原道長の妻・倫子や、その娘の彰子に仕えた女房。道長の栄華を中心に描いた、平安時代の歴史物語『栄花物語』正編の作者とされています。紫式部や和泉式部、清少納言とも親交があり、優れた歌人として評価されていました。
少女時代に『源氏物語』に出会い、文学の世界に強く引かれます。後に後朱雀天皇の娘に仕え、『更級日記』や『夜の寝覚』などを書きました。
菅原孝標女は藤原道綱母の姪にあたり、紫式部も縁者のひとり。文学に秀でた家系から高い教養を持った女性が登場し、互いに影響を与えながら執筆活動をしていたと言えます
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