京都ツウのススメ
第百三十回 高瀬川
江戸時代の舟運を支えた高瀬川およそ400年前、舟運によって開削をされた高瀬川の歴史について、
らくたびの若村亮さんが案内します。
基礎知識
其の一、
- 高瀬川は江戸時代に開削された人工の運河です
其の二、
- 実業家の角倉了以(すみのくらりょうい)・素庵(そあん)親子によって造られました
其の三、
- 大正時代に役目を終えるまで京と大坂の物資運搬を支えていました
きっかけは方広寺大仏殿の再建
1608(慶長 13)年に始まった方広寺大仏殿の再建工事の際、豪商・角倉了以が資材運搬を担当しました。当時の鴨川は暴れ川で、川の水運を利用した運搬は難航。そこで、了以は運河の開削を幕府に願い出て、1611 ~ 14(慶長 16~ 19)年に完成したのが高瀬川です。水深約30cmの浅い川で、二条大橋の西畔の水取り口から鴨川の水を引き込んで南下し、最後は伏見港を通って宇治川に合流する約 10kmの運河でした。
物資の運搬で京と大坂を結んだ川
大坂から三十石船で届けられた荷物は伏見港で高瀬舟に積み替えられます。ここから綱でつながれた複数の舟を曳(ひ)き子と呼ばれる人たちが引き、川を上り下りしていました。鉄道の開通などにより、1920(大正 9)年に高瀬川は水運の役割を終え、以降は舟が行き来する姿は見られなくなりました。現在、川沿いには様々な飲食店が立ち並び、季節のイベント時にはライトアップされて多くの人々が散策を楽しむなど、京の名所として親しまれています。
高瀬舟が活躍した時代の高瀬川を紹介。
「拾遺都名所図会」
国際日本文化研究センター蔵
江戸時代の高瀬川
午前中は京への上り便、午後は伏見へ向かう下り便の一方通行でした。川沿いでは、曳き子たちが「ほーい、ほい」という掛け声とともに舟を綱で引いていました。
高瀬船
長さ約13m、幅約2mの底が浅く平らな浅川専門の舟。最大15石(約2.25t)の荷を積むことができました。この舟を用いたため高瀬川という名が付いたという説があります。最盛時には約200もの高瀬舟、約700人の曳き子がいたと言います。
主に物資の運搬用に使われていた高瀬舟でしたが、伏見稲荷大社の初午詣に出かける人々や島流しの罪人やを運ぶこともありました。
水の堰(せ)き止め石
高瀬川に並ぶ、一辺15cmほどの3個の石。中央の石は「H」型、ほかの2個は「コ」型で、高瀬川の水量が不足している時にはこの石に木の板をはめ込んで水位を調節していました。
舟(ふな)入(い)り
高瀬舟の荷物の積み降ろしと舟の方向転換をする場所を舟入りと呼び、当時は二条~四条間に9カ所ありました。現在は「一之舟入」のみが史跡として残され、ほかは石碑が立てられています。また角倉家は川沿いに複数の邸宅を持ち、高瀬川の管理をしていました。
同業者町
舟入りの周辺には、高瀬舟から降ろした物資を扱う問屋が置かれ、やがて材木商などの商人・職人らが同業者が集まる町を形成しました。材木町、樵木町(こりきちょう)、石屋町、米屋町、船頭町など高瀬舟に由来した町名が付けられ、現在も残されています。
高瀬川ができた当時は、人ひとり通れる程度の小道だった樵木町通。高瀬川の舟運により、材木問屋や材木商が軒を連ねるようになったことから、享保年間(1716~36年)に木屋町通と呼ばれるようになりました
角倉了以
足利将軍家や天龍寺に医者として仕えた先祖を持ち、金融業と造り酒屋を営み、屋号を角倉とした吉田家。4代目として生まれた了以は息子の素庵とともに朱印船貿易で財を成し、豪商となりました。私財を投じ、丹波~嵯峨や二条~伏見の産業水路を開削することで京~大坂間の水運流通路を開き、京都はもとより関西の経済や文化の発展に大きく貢献した人物です。戦国~江戸時代の商業のシステムを作り上げたとも称されています。
角倉家は、江戸時代初期の京で、呉服商の茶屋家、金座・銀座を設けて貨幣の鋳造により巨富を築いた後藤家と並び、“京の三長者”と呼ばれていました。俗謡では「茶屋のべべ着て、後藤の駕籠(かご)で、花の咲いたる嵐山、角倉船に乗りながら、主と一緒に見てみたい」と歌われていました
瑞泉寺(ずいせんじ)
豊臣秀吉の命により切腹させられた豊臣秀次の首を納めた石びつと、三条大橋のそばの河原で処刑された側室と子供たち39人を埋めた塚が、高瀬川の開削工事中に発見されました。塚が荒れ果てていたのを哀れんだ了以が供養のために建てたのが瑞泉寺です。
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