京都ツウのススメ

第百五十回 京のお雑煮

正月を祝うお雑煮京都の正月を代表するお雑煮に込められた意味を、らくたびの田中昭美さんが紹介します。

基礎知識

其の一、

始まりは室町時代、婚儀の席の酒の肴(さかな)で、すまし味噌(みそ)で煮たものでした

其の二、

その後、正月を祝う「雑煮祝(ぞうにいわい)」という儀礼が行われるようになりました

其の三、

雑煮に入れる食材やその切り方などにはそれぞれ意味があります

武家の祝い膳から正月を祝う一品に

縁起物の食材を取り入れた雑煮は、室町時代の武家の婚儀やもてなしの席での祝い膳が始まりです。当時は、大豆・麦・塩で作った唐味噌を水で炊き袋でこした「すまし味噌」で、干しアワビや餅などを煮ていました。やがて正月を雑煮で祝う文化が京の社寺で広まり、安土桃山時代には奈良や大坂などの社寺に伝わり、京の商家でも雑煮祝を行うようになりました。江戸時代中期には京の庶民にも広まり、この頃から昆布だしに白味噌仕立ての、現在のような具材の雑煮となりました。

京都のお雑煮は白味噌に丸餅

京都では「元日に白味噌の雑煮を食べないと新年を迎えた気がしない」と言う人もいます。江戸時代の京の商家では、家の主人が朝早くに雑煮を用意し、家族と分かち合って食べることで家族の結束を願っていました。円満の願いを込めた丸餅や、亀甲型に切り長寿を祈る大根などを入れた雑煮は、今も変わることなく、正月料理として受け継がれています。

今年1年、人と争うことなく、何事も丸う収めて暮らせますように

今年1年、人と争うことなく、何事も丸う収めて暮らせますように

お雑煮は神様への捧げもの

お正月にはどの家にも「歳神様」が訪れて、その家を1年間守ってくれると言います。お雑煮は歳神様に捧げるものでもあるため、神様が好むと言われる白色の味噌を使います。そしてお雑煮を食べることは「神人共食(神様と共に食事をすること)によって1年の恩恵を授かる」という習慣が元となっています。

雑煮の語源

様々な具材を煮混ぜたことが「お雑煮」と呼ばれるようになった由来だとされています。平安時代の貴族たちは「烹雑(ほうぞう)」と呼んでいました。「烹」は煮るという意味です。

白味噌

発酵期間が7日から10日と短く、塩も少なめで作るため、まろやかで甘みのある仕上がりに。良い白味噌には砂糖が入っておらず、大豆と米こうじからくる甘さだけ。米をぜいたくに使う白味噌は京都が発祥と言われ、主に貴族が食するものでしたが、江戸時代になると京の庶民も口にするようになりました。

ここがツウ

京都市では、「京都をつなぐ無形文化遺産」制度において、子供たちが京都の料亭から雑煮づくりを学ぶ機会を設けています

白味噌

だし

歳神様に捧げるものであるため、生臭物(なまぐさもの)である魚のだしは使わず、昆布だけでだしを取ります。

若水とをけら火

その年の最初に井戸や川から汲んだ若水(わかみず)と、新年初めての火・をけら火でお雑煮を作っていました。聖なる水とお清めの火で作ることで、お雑煮は人間に活力を与える聖なる食べ物と考えられていました。

ここがツウ

京都では1月4日に行われる鏡開きで、切って焼いた餅と壬生菜(みぶな)を入れたすまし汁を食べると、雑煮祝の終了です

具材とその意味

丸餅

丸餅

餅は伸びることから長寿を願う食べ物です。また「何事も角が立たず丸く収まるように」という円満の願いを込めて丸い形にしています。

頭芋(かしらいも)

頭芋(かしらいも)

里芋の親芋で、切らずに丸ごと入れます。京都では「人の頭に立てるように」とその家の主人と長男だけが食べます。

小芋

小芋

里芋は小芋をたくさん付けて増えることから子だくさんの意味に通じ、子孫繁栄を願います。

大根

大根

「しっかりと根を張って暮らしていけるように」という願いが込められています。丸く切れば円満を、亀甲型に切れば長寿を意味します。

金時人参

金時人参

鮮やかな赤色が魔除けを意味します。丸く輪切りにして円満の願いも込めています。

ここがツウ

雑煮の丸餅は、元日にはひとつ、2日目はふたつ以上、3日目は2日目に食べた数より多く入れて食べる慣わしがあります

盛り付け方

ゆでておいた丸餅、頭芋、小芋、大根を器に入れ、白みそを伸ばしただしを注ぎます。食べる時に糸鰹(糸状にしたカツオの削り節)を盛り付けます。

柳箸(祝い箸)

白木の箸で、一方の端を自分が使い、もう一方は神様が使用されるため、両端が削られています。箸紙に家族の名前を書いておき、正月の3が日はその箸で食事をします。

柳箸(祝い箸)

制作:2021年1月
バックナンバー
第百九十三回 秋の京菓子
第百九十二回 京都の植物
第百九十一回 京都の風習
第百九十回 幻の巨椋池(おぐらいけ)
第百八十九回 京都と魚
第百八十八回 京都とお花見
第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
第百八十六回 京都の地ソース
第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
第百八十三回 京都の坪庭(つぼにわ)
第百八十二回 どこまで分かる?京ことば
第百八十一回 京都の中華料理
第百八十回 琵琶湖疏水と京都
第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
第百七十八回 京都と徳川家
第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
第百七十四回 京の難読地名
第百七十三回 京の縁日
第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
第百七十一回 京都の通称寺
第百七十回 京都とキリスト教
第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
第百六十七回 京の城下町 伏見
第百六十六回 京の竹
第百六十五回 子供の行事・儀式
第百六十四回 文豪と京の味
第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
第百六十二回 京都のフォークソング
第百六十一回 京と虎、寅
第百六十回 御火焚祭
第百五十九回 鴨川の橋
第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
第百五十七回 京都とスポーツ
第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
第百五十五回 京都の喫茶店
第百五十四回 京の刃物
第百五十三回 京都の南蛮菓子
第百五十二回 京の社家(しゃけ)
第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
第百五十回 京のお雑煮
第百四十九回 京の牛肉文化
第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
第百四十七回 明治の京都画壇
第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
第百四十五回 ヴォーリズ建築
第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
第百四十三回 京の人形
第百四十二回 京の社寺と動物
第百四十一回 鳥居(とりい)
第百四十回 冬の食べ物
第百三十九回 能・狂言と京都
第百三十八回 京都と様々な物の供養
第百三十六回 京都とビール
第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
第百三十四回 精進料理
第百三十三回 明治時代の京の町
第百三十二回 皇室ゆかりの建物
第百三十一回 京の調味料
第百三十回 高瀬川
第百二十九回 蹴鞠
第百二十八回 歌舞伎
第百二十七回 京都に残るお屋敷
第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
第百二十五回 京の学校
第百二十四回 京の六地蔵めぐり
第百二十三回 京の七不思議<通り編>
第百二十二回 京都とフランス
第百二十一回 京の石仏
第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
第百十九回 生き物由来の地名
第百十八回 京都の路面電車
第百十七回 神様への願いを込めて奉納
第百十六回 京の歴食
第百十五回 曲水の宴
第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
第百十三回 パンと京都
第百十二回 京に伝わる恋物語
第百十一回 鵜飼(うかい)
第百十回 扇子(せんす)
第百九回 京の社寺と山
第百八回 春の京菓子
第百七回 幻の京都
第百六回 京の家紋
第百五回 京の門前菓子
第百四回 京の通り名
第百三回 御土居(おどい)
第百二回 文学に描かれた京都
第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
第百回 夏の京野菜
第九十九回 若冲と近世日本画
第九十八回 京の鍾馗さん
第九十七回 言いまわし・ことわざ
第九十六回 京の仏師
第九十五回 鴨川
第九十四回 京の梅
第九十三回 ご朱印
第九十二回 京の冬の食習慣
第九十一回 京の庭園
第九十回 琳派(りんぱ)
第八十九回 京の麩(ふ)
第八十八回 妖怪紀行
第八十七回 夏の京菓子
第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
第八十五回 新選組
第八十四回 京のお弁当
第八十三回 京都の湯
第八十二回 京の禅寺
第八十一回 京の落語
第八十回 義士ゆかりの地・山科
第七十九回 京の紅葉
第七十八回 京の漫画
第七十七回 京の井戸
第七十六回 京のお地蔵さん
第七十五回 京の名僧
第七十四回 京の別邸
第七十三回 糺(ただす)の森
第七十二回 京舞
第七十一回 香道
第七十回 天神さん
第六十九回 平安京
第六十八回 冬の京野菜
第六十七回 茶の湯(茶道)
第六十六回 京の女流文学
第六十五回 京の銭湯
第六十四回 京の離宮
第六十三回 京の町名
第六十二回 能・狂言
第六十一回 京の伝説
第六十回 京狩野派
第五十九回 京寿司
第五十八回 京のしきたり
第五十七回 百人一首
第五十六回 京の年末
第五十五回 いけばな
第五十四回 京の城
第五十三回 観月行事
第五十二回 京の塔
第五十一回 錦市場
第五十回 京の暖簾
第四十九回 大原女
第四十八回 京友禅
第四十七回 京のひな祭り
第四十六回 京料理
第四十五回 京の町家〈内観編〉
第四十四回 京の町家〈外観編〉
第四十三回 京都と映画
第四十二回 京の門
第四十一回 おばんざい
第四十回 京の焼きもの
第三十九回 京の七不思議
第三十八回 京の作庭家
第三十七回 室町文化
第三十六回 京都御所
第三十五回 京の通り
第三十四回 節分祭
第三十三回 京の七福神
第三十二回 京の狛犬
第三十一回 伏見の酒
第三十回 京ことば
第二十九回 京の文明開化
第二十八回 京の魔界
第二十七回 京の納涼床
第二十六回 夏越祓
第二十五回 葵祭
第二十四回 京の絵師
第二十三回 涅槃会
第二十二回 京のお漬物
第二十一回 京の幕末
第二十回 京の梵鐘
第十九回 京のお豆腐
第十八回 時代祭
第十七回 京の近代建築
第十六回 京のお盆行事
第十五回 京野菜
第十四回 京都の路地
第十三回 宇治茶
第十一回 京菓子の歴史
第十回 枯山水庭園の眺め方
第九回 京阪沿線 初詣ガイド
第八回 顔見世を楽しむ
第七回 特別拝観の楽しみ方
第六回 京都の着物
第五回 仏像の見方
第四回 送り火の神秘
第三回 祇園祭の楽しみ方
第二回 京の名水めぐり
第一回 池泉庭園の眺め方