京都ツウのススメ
第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
江戸時代のガイドブックに見る京都京都の名所図会が生まれた背景やそこで描かれているものについて、らくたびの山村純也さんがご紹介します。
基礎知識
其の一、
- 文章と挿絵で名所を紹介した江戸時代のガイドブックを『名所図会』と言います
其の二、
- 京都を取り上げた『都(みやこ)名所図会』はベストセラーとなり、続編も発行されました
其の三、
- 行事や特産品、人々の生活も描かれ、当時の京都の様子を知ることができます
京都の見どころを文章と挿絵で紹介
都として繁栄していた京都は、庶民にも人気の観光地でした。江戸時代には三重県の伊勢神宮にお参りをした人が、京都に足を延ばし観光することもありました。そんな京都の見どころをまとめたガイドブックが 1780(安永 9)年に発刊された『都名所図会』です。それまでにも京都の歴史や地理を紹介する本はありましたが、詳細な挿絵が豊富な『都名所図会』は 4,000部以上も発行され、当時としては異例のベストセラーになりました。
今と昔の姿を見比べる楽しみも
全6巻の『都名所図会』には、今も観光地として人気の高い東福寺や清水寺などの社寺や景勝地、名物などが紹介されています。今は失われてしまった建造物もあり、昔の姿を知る手掛かりとなります。著者は俳人・秋里籬島(あきさとりとう)で、続編である1787(天明 7)年発行の『拾遺(しゅうい)都名所図会』や、1799(寛政 11)年発行の『都林泉(りんせん)名勝図会』も執筆。挿絵には、旅人や京都に暮らす人々の生活も描かれ、江戸時代と現在を見比べる楽しみもあります。
豊富な文章と挿絵
誌面は文章と挿絵で構成されています。『都名所図会』や『拾遺都名所図会』で、空から斜めに見下ろしたような鳥瞰図(ちょうかんず)を中心とした挿絵を描いたのは、大坂生まれの浮世絵師・竹原春朝斎(しゅんちょうさい)です。
各地の名所図会が発行
『都名所図会』が人気を集めたことから、その後、京都の続編のほか、様々な著者や絵師により奈良・近江・伊勢・江戸などの各地を取り上げた名所図会が発行されるようになりました。
『都名所図会』は6巻それぞれにタイトルがあります。第1巻「平安城首」、第2巻「平安城尾」では京都中心部の名所を紹介。第3巻以降は、順に「左青龍」「右白虎」「前朱雀」「後玄武」と、中国の風水思想に基づいて平安京の東西南北を司ったという神獣(四神)の名が付けられた各地域の名所が紹介されています
(右)都名所図会(左)拾遺都名所図会
都名所図会「五條橋」より
『都名所図会』や『拾遺都名所図会』に描かれた京都の姿を紹介します。
昔から紅葉の名所
東福寺
堂々とした伽藍(がらん)の配置は今とほぼ同じです。通天橋から紅葉を楽しむ人の姿も見られます。文章では、開山の聖一(しょういち)国師や本尊について触れているほか、通天橋の架かる渓谷にはカエデが多く、秋には紅葉の名所になると書かれています。
都名所図会「東福寺」
親孝行の思いから考案
深草のうちわ
江戸時代初期の僧・元政(げんせい)上人は、瑞光寺(伏見区)の開祖です。「自分の両親をあおいであげたい」という思いから考案したうちわが、やがて深草の名物になりました。うちわを求める客でにぎわう店先が描かれています。
拾遺都名所図会
「深草の里 団屋店(うちわやみせ)」(部分)
オランダ人も味わった
祇園豆腐
江戸幕府が鎖国政策を行う中、交易を認められていたのがオランダです。長崎から江戸へ向かう途中で京都に立ち寄ったオランダ人が、祇園の名物・祇園豆腐を出す二軒茶屋を訪れた様子が描かれています。
拾遺都名所図会「祇園二軒茶屋」(部分)
豊臣秀吉の壮大な構想
大仏殿
安土桃山時代、豊臣秀吉は方広寺(ほうこうじ)を建立し、奈良・東大寺に匹敵するような巨大な大仏殿を築きました。焼失と再建が繰り返され、1973(昭和48)年の火災で焼失。現在は、「国家安康」「君臣豊楽」の文字が刻まれ、豊臣家が滅びるきっかけとなった釣鐘だけが残っています。
都名所図会「大仏殿」
方広寺門前には、名物「大仏餅」を販売する店がありました。図会では、味が良く、煮てもとろけず、あぶると香ばしいと紹介されていました
三条大橋は東海道の起点(終点)であることから、周辺には旅人のための宿が多くありました。宿の人が旅人を呼び込む姿を描いたこの絵には、「教業坊(きょうぎょうぼう)の橋のほとり」と書かれ、鴨川の東側の川端三条界隈だと言われています
拾遺都名所図会「宿屋の夕刻」
※画像はすべて国際日本文化研究センター蔵
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