京都ツウのススメ
第百六十回 御火焚祭(おひたきさい)
京の初冬の風物詩豪快に燃え上がる火に、感謝と願いを込める御火焚祭について、らくたびの谷口真由美さんがご紹介します。
基礎知識
其の一、
- 秋の収穫を神様に感謝し、無病息災などを願う行事です
其の二、
- 燃え盛る火の中に神様を見出し、その威力で御加護を授かります
其の三、
- ミカンやおこしなど御火焚祭にち なんだ食べ物があります
由来は神社によって様々
京都の各神社で11月になると行われる御火焚祭。平安時代から続く宮中行事の新嘗祭(にいなめさい)が江戸時代に民間に広まったという説や、竈(かまど)の神様に感謝するためなど由来は諸説あり、様々な信仰が融合してきました。ご祭神への感謝とご利益を願うといった意味もあります。古来より、火は生活になくてはならないもので、人間は火を使うことができる唯一の生き物。人は燃え上がる火の威力に神様の姿を見出し、神聖なものとしてきました。
昔ながらの神事を伝える
時代が進み、火の代わりにガスや電気が普及しましたが、京都には五山の送り火や愛宕詣り(あたごまいり)など、火に対する信仰が息づいています。御火焚祭もそのひとつで、火焚串(護摩木(ごまき))に願いを書き込み、焚き上げる神事が現代に継承されています。神事の後に神様のお下がりとして配られる御火焚饅頭(おひたきまんじゅう)・ミカン・おこしを食べると、1年の無病息災や火難除けなどのご利益があると言います。
京都にある多くの神社で行われ、
地元住民にとっても大切な年間行事。


昔は各町内でも行われていましたが、現在では神社と一部の寺院のみ。一般的には本殿での儀式・御火焚神事・神楽奉納の3つの神事を行います。神社によっては、釜で沸かした湯を振りかけて参拝者を清める湯立神楽を行うところもあります。ハイライトは、参拝者が願いを書いて奉納した火焚串を、焚き上げて祈願する御火焚神事です。火の力で願いを天に届け、ケガレをはらいます。
京都の人は「おひたきさん」「おしたきさん」「おしたけさん」と呼び親しんで、この神事を大切にしています


火焚串を組み上げた火床に火をつけ、祝詞を上げながら火焚串を投げ入れて焚き上げます。
家内安全」などの願い事と名前を書きます。護摩木と呼ぶところもあります。

火焚串を積み重ねて作る火床は由来によって形が変わり、ふいご型、円柱型、井桁(いげた)などに組み上げます。使わない火床もあり、神前の灯明から火を移します。

〈花山稲荷神社〉 ふいご型
※ふいごとは、火力を強めるための送風装置

〈貴船神社〉円柱型
火焚串を円柱に組み上げます

〈伏見稲荷大社〉
杉の木を井桁に組んで檜葉を乗せます


平安時代、火を焚いてミカンを供え、魑魅魍魎(ちみもうりょう)をはらった「道饗祭(みちあえのまつり)」の名残りと言われています。お下がりのミカンを食べると、1年間は風邪をひかないとされます。

火炎宝珠の焼き印が押された紅白の饅頭。火の用心と厄除け招福の願いが込められています。「おたま」とも呼びます。
御火焚饅頭は、元は餅屋が作るものでした。白には小豆のこし餡を、紅には粒餡を入れる決まりがあります
火の意味を持つ三角形で、新米で作られた米菓子です。ほんのりとした柚子の風味です。
水や火の恵みに感謝
貴船神社(きふねじんじゃ)
〔左京区〕例年11月7日
ロクロヒキリと呼ばれる古代から伝わる火をおこす道具で種火を作り、約1万本の火焚串を円柱に組み上げた護摩壇に火を点けます。

ロクロヒキリ
貴船神社では、ロクロヒキリを使う様子を公開しています
闇夜で行う神秘な神事
由岐神社(ゆきじんじゃ)
〔左京区〕例年11月8日・9日・15日 ※今年は一般参加不可
本殿のほか、境外の石寄社・岩上社・八幡宮社で計3日間、夜に行われます。柴を詰め、御幣を挿した太鼓柴と呼ばれる2基の火床を焚きます。
京都最大級のお焚き上げ
伏見稲荷大社(ふしみいなりたいしゃ)
〔伏見区〕例年11月8日
本殿背後の祭場に3基の火床を設け、神田でとれた稲のワラを燃やした後、全国から寄せられた10数万本の願い事が書かれた火焚串を焚き上げます。
焼きミカンで風邪予防
花山稲荷神社(かざんいなりじんじゃ)
〔山科区〕例年11月の第2日曜 ※今年は一般参加不可
平安時代、三条小鍛冶宗近がこの地にふいごを築き、名刀「小狐丸」を作った故事にちなんだ護摩壇で、残り火で焼いたミカンを持ち帰ります。
火焚串を竈型に組み上げる
車折神社(くるまざきじんじゃ)
〔右京区〕例年11月23日
竈の守護神の奥津彦神・奥津姫を迎え、五穀豊穣を感謝。数千本の火焚串を竈型に組み上げ、四方の焚き口から火を点ける「かまど祓(はらい)」の神事を執行。
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