京都ツウのススメ
第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
京に伝わる年末の風物詩 年末の行事の中でも、京都の冬の風物詩にもなっている煤払いについて、らくたびの若村 亮さんがご紹介します。
基礎知識
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其の一、
- 年末の大掃除は煤払いと言い、平安時代の宮中行事がはじまりとされています
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其の二、
- 煤払いは1年のうちにたまった厄を払うという意味がありました
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其の三、
- 東本願寺と西本願寺の煤払いは京の年末の風物詩にもなっています
年末の大掃除は、伝統ある一大行事
日本では年末の大掃除は“煤払い”と言い、寺院や神社では12月の行事として残っています。煤払いの歴史は大変古く、平安時代にまでさかのぼります。その頃の京都では宮中行事として大掃除が行われていて、それが煤払いの始まりと言われています。当時は厄払いの意味を込めて宮中を掃除して清める大切な行事のひとつでした。平安時代中期にまとめられた『延喜式(えんぎしき)』という法律の書物には、煤払いと同じ意味の“煤掃き”という言葉が記されています。
東本願寺と西本願寺の煤払い
かまどにたまった煤や、行灯(あんどん)の火から出た煤を掃除したことから煤払い・煤掃きなどと言いましたが、元々は新しい年の歳神様を迎えるための準備など、宗教的な意味が含まれていました。京都で最も有名なものは、東本願寺と西本願寺で行われる煤払いです。舞い上がるほこりを大きな団扇(うちわ)であおぐ様子は、年末の風物詩として伝わっています。
東本願寺と西本願寺の煤払いは、京都で最もよく知られる年末恒例の行事で、
阿弥陀堂と御影堂のほこりを払ってきれいにする大規模な清掃を言います。
今回は、東本願寺の「お煤払い」を詳しくひも解きます。
始まったのはいつから?
最も古い記録は1580(天正8)年の『本願寺作法之次第』という書物です。「すすはき(煤掃き)は十二月二十日、古よりかわらず御入り候」と書かれていることから、第8代門首蓮如上人以前より煤払いが行われていたと推察されています。
煤払いは、正月事始めの日として最も縁起が良いとされた12月13日に行われるのが一般的です。一方、東本願寺の「お煤払い」は12月20日で、日程も含め宮中行事にならったと考えられています
掃除する場所
阿弥陀堂〈401畳〉、御影堂(ごえいどう)〈927畳〉を僧侶・門徒・一般の申込者が一緒に掃除します。内陣の畳から始め、外陣・参詣席へと場所を移動しながら畳を叩きます。
両堂内では前日の19日にお煤払いの準備が行われ、内陣の須弥壇(しゅみだん)の周りに紙帳(かみとばり)が吊るされます。お煤払い終了後の御規式で、この帳に「寿」となぞられます
独特な道具
大団扇と畳叩きをする竹の棒を使います。大団扇は全長2m程もあり、竹の棒は約1mの長さで、叩きやすく持ちやすいように端から15cm位の所で曲げられています。
作業の流れ
- 1集合
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9時に約150人が集合。1941(昭和16)年にお煤払いを行うために結成された団体・尾張清浄講と全国の門徒、僧侶、職員、一般の申込者が参加し、開会式の後に作業が始まります。
- 2畳叩き(たたみたたき)
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「はじめ」の合図で一斉に叩き始め、横1列に並んでひとりあたり横2畳を担当。縦2畳ほど進み「やめ」の合図で叩くのを止めます。これを堂内の端まで行います。
- 3ほこりのあおぎ出し
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畳を叩くことで舞い上がるほこりを、叩く人の後方からお堂の外へ向けて、尾張清浄講の人々が大団扇であおぎます。畳叩きが終わったら掃き掃除を行い、固く絞った雑巾で畳を拭き上げます。
- 4御規式(おきしき)
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お煤払いを終えた後、御堂の荘厳〈飾り〉を整えて、新たに日々のお給仕〈お供えなど〉を始めるための儀式・御規式があります。門首が藁(わら)を付けた長い竹で、内陣に張られた紙帳に「寿」の文字をなぞります。阿弥陀堂で行った後、御影堂でも行い、最後に閉会式をしてお煤払いは終了します。
煤払いは、宗教的な年中行事
そもそも煤払いは単なる掃除ではなく、宗教的な意味合いの強い行事でした。
- 八坂神社
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八坂神社の煤払いは、毎年12月21日の8時から。「煤払式」という祭典で本殿の内々陣を清めた後に、神職・職員によって境内の大掃除が行われます。神様を迎えるための行事であり、神社で執り行われる祭り・神祭りの始めとなる儀式です。(非公開)
- 京町家など
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古い京町家や商家では、現在も大掃除を「煤払い」と言うことがあります。ホウキやハタキを使い、昔ながらの方法で大掃除を行います。
各家庭の年末の大掃除でも神棚を拭き清めて神具を新調します。これは神道における煤払いと同じ意味があり、神様をお迎えし、まつる準備だとされています
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