京都ツウのススメ

第四十二回 京の門

[見上げてみよう社寺の門] 社寺で出会う「門」には、その大きさや形に様々な特徴があります。長い歴史を経て今も威容を誇る門について、らくたびの若村亮さんがご案内します。

門の基礎知識

其の一、
社寺の門は聖域と俗世間とを分ける境界線です
其の二、
京都には日本の歴史や建築史を代表する様々な門が現存しています
其の三、
豊臣秀吉が築城した伏見城や聚楽第から移築したと伝わる門が多く残っています

結界として設けられた門

京都に平安京が造営された794(延暦13)年。都の入口にあたる正門に羅城門が築かれ、政治の中枢である大内裏の正門として朱雀門が築かれました。敷地の境界を示す「門」は、社寺などでは聖域と俗世間とを分ける境界線として設けられ、神聖な領域への出入り口となる象徴的建物として人々の信仰を集めました。寺は元来、山中に建てられたことからその入り口は「山門」と呼ばれ、禅宗の本山などで見られる2階建ての二重門は、悟りに至る3つの境地を意味する“三解脱門”から「三門」と呼ばれています。

“名門”ひしめく京都

歴史的建築物が点在する京都は、禅宗寺院の三門の中では最大最古の東福寺三門、豊臣秀吉ゆかりの西本願寺唐門や豊国神社唐門、歴史の舞台となった京都御所蛤御門などの“名門”の宝庫です。中でも南禅寺三門・知恩院三門・仁和寺二王門は京都三大門と呼ばれ(諸説あり)、江戸時代初期を代表する建築物として有名です。門をじっくり見上げてみると、建築手法や装飾など時代によって異なる多彩な様式が発見できます。これらの門は社寺の顔としてだけでなく、千余年の歴史の証人としてその重みを静かに伝えています。

[門を鑑賞してみよう] 中央部が弓なりで、左右になだらかに流れる曲線の形状をした唐破風(からはふ)屋根を持つ豊国神社唐門についてご紹介します。

豊国神社「唐門」(国宝) 秀吉好みの豪華な装飾

豊臣秀吉をまつり、「ほうこくさん」の愛称で親しまれる神社。本殿・拝殿の前に立つ唐門は、秀吉が築いた伏見城の遺構と伝えられ、随所に豪華な装飾が施されています。江戸時代初期に活躍した彫刻の名工・左甚五郎作と言われる鯉や鶴など、縁起が良いとされる彫刻が配置されています。

◆境内自由[宝物館] 9時~16時30分 大人300円・高大生200円・小中生100円 ◆075-561-3802 ◆七条駅下車 北東へ徒歩約10分

ココがツウ

造営当初は門全体に黒漆が塗られ、極彩色の彫刻と金箔で飾られていたと伝わります。現在は西本願寺・大徳寺と並び国宝三唐門と呼ばれています

懸魚(げぎょ)

屋根の側面(妻)に取り付け、木の切り口を隠す装飾材。火災を避けるため、屋根に水にちなむ魚の形に似せた飾りを付け火除けのまじないとしました。同社のように唐破風屋根に付いた横に長い懸魚を「兎(う)の毛通し」と呼びます。

懸魚

蟇股(かえるまた)

上部の建造物の重みを支えるため、梁(はり)の上などに設ける山形の部材。カエルが股(また)を広げたような形をしていることからこう呼ばれます。秀吉が愛用した家紋・太閤桐が華麗な透かし彫りになっています。

蟇股

欄間(らんま)

屋根下に設けられた装飾部分。「豊国大明神」の額を挟んで子孫繁栄を表す鶴の木彫りが雌雄一対で配置され、額の裏にはひな鳥が隠されていると言われています。

欄間

ココがツウ

今にも動き出しそうなこの鶴には目がありません。あまりに見事な出来栄えだったため、目を入れると魂が宿り、飛んで行ってしまうと考えられたため、作者の左甚五郎があえて入れなかったと伝わります

桟唐戸(さんからど)

縦横の枠の中に薄い板をはめ込んだ扉。滝を登る鯉の彫刻は、足軽の子から天下人となった秀吉にあやかり、立身出世の関門である「登竜門」を意味します。

桟唐戸

沿線から行く'名門'ガイド

東福寺「三門」(国宝)

現存する日本最古の三門

室町時代に再建された高さ約22mの巨大な門。中国風の建築様式に、日本の伝統的な建築様式を組み合わせた、独特の折衷建築が特徴です。

東福寺「三門」(国宝)

ココがツウ

門の四方にある屋根を支える柱は、修理の際に豊臣秀吉が付け加えたもので、通称「太閤柱」と呼ばれます

西本願寺「唐門」(国宝)

桃山文化を今に伝える極彩色

伏見城からの移築と伝えられ、扉などに施された見事な彫刻を眺めていると、日が暮れるのも忘れてしまうほどであることから別名「日暮門(ひぐらしもん)」とも呼ばれます。

西本願寺「唐門」(国宝)

南禅寺「三門」(重要文化財)

五右衛門伝説の残る門

楼上からは京都市街が一望でき、安土桃山時代の大盗賊・石川五右衛門の「絶景かな」の名ゼリフで知られる歌舞伎演目『楼門五三桐(さんもんごさんのきり)』の舞台としても有名です。

南禅寺「三門」(重要文化財)

平安神宮「楼門(応天門)」(重要文化財)

平安京大内裏の門を復元

かつての平安京大内裏の正庁・朝堂院(ちょうどういん)の應天門を模した朱塗りが美しい2階建ての楼門。10月22日に行われる時代祭の行列の到着地としても有名です。

平安神宮「楼門(応天門)」(重要文化財)

制作:2011年9月
京都ツウ・ウオーク開催レポート

「京の“名門”を振り仰ぐ」~荘厳にたたずむ門を訪ねて~  2011年11月26日(土)開催

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