京都ツウのススメ
第百三十六回 京都とビール
醸造職人らが生んだ京都のビール府営醸造所の研究から始まった京都のビール。 明治時代から現代までの歴史を、らくたびの谷口真由美さんとともに振り返ります。
基礎知識
其の一、
- 京都では、明治時代に京都舎密局(せいみきょく)でビールの製造が始まりました
其の二、
- 明治時代中期、全国で複数のビール会社・銘柄が生まれました
其の三、
- 大正時代以降、市内各所でビアホールやビアレストランが開業しました
「音羽の滝」の水でビール醸造
京都でビール作りが始まったのは1877(明治10)年。理化学の研究・普及のための府営機関・京都舎密局が、清水寺境内にある音羽の滝を使った「京都舎密局麦酒醸造所」を設立、ビール醸造の研究を始めました。1883~ 87(明治16~20)年には、舎密局の講義を受けた多くの酒造業者がビール会社を立ち上げ、「扇ビール」「盛ビール」など様々な銘柄のビールが誕生します。しかし、いずれも大阪麦酒会社(現・アサヒビール)の台頭により姿を消します。
日常に浸透しビアホールも登場
明治時代後半には日本中でビールが製造されるようになり、やがて大正時代にはビアホールブームが到来。京都では西洋料理店・矢尾政(やおまさ)(現・東華菜館)がビアレストランを開業し、昭和時代には京都タワーの屋上などでビアガーデンが開かれるようになります。1995年頃からは、日本酒の老舗酒造メーカーなどから京都産クラフトビールが登場。また、現在は産官学19団体により、素材作りから醸造まですべてを京都府内で行う「京都産 100%ビールプロジェクト」が発足し、商品化を目指しています。
〜ビールの誕生から現代まで〜
京都におけるビールの歴史は清水寺から
明治時代、清水寺にある音羽の滝の名水がビール作りに適しているとされ、境内に京都舎密局麦酒醸造所を建設、ビール醸造が始まりました。舎密局の閉鎖によって、4年足らずで製造も終了。その後、ここで講習を受けた人々が後にビール作りを始めます。
1877(明治10)年の明治天皇行幸の際、京都舎密局麦酒醸造所の「扇印麦酒」が献上されました
京都舎密局麦酒醸造所
京都府立京都学・歴彩館 京の記憶アーカイブ蔵
京都舎密局麦酒醸造所のラベル(田中芳男・博物学コレクション『捃捨帖十六』東京大学総合図書館蔵を改変)
明治時代にビールが誕生
当時は麦を原材料に、麹(こうじ)を使って日本酒のように醸造したことから「麦酒(むぎざけ)」と呼ばれ、やがて民間でも始まったビール作り。1887(明治20)年頃には全国でビール会社が誕生し、京都では「扇ビール」「盛ビール」「井筒ビール」「九重ビール」「兜ビール」「日の丸ビール」といった銘柄が登場します。ところが、大阪麦酒が質・量ともに上回るビールを製造・販売して関西エリアを圧倒したことから、1891(明治24)年頃には廃業してしまいました。
関西初のビール麦栽培地は京都
1889(明治22)年頃、川岡村(現・西京区)の農民たちによって、関西地区で初めてビール醸造用の大麦・ゴールデンメロン種の栽培が始まります。「川岡村ゴールデンメロン大麦作人組合」を立ち上げ、1896(明治29)年には大阪麦酒と直接契約を結びました。
企業と農家が初めて契約を結んだ偉業を讃えた「興産紀功之碑」(西京区)
農家が企業と契約栽培を始めた日本初のケースで、その後、全国のモデルになりました
ビアホールが続々登場!
京都・岡崎で開かれた第4回内国勧業博覧会の会場内で大阪麦酒が設けた販売所が、日本初のビアホールと言われています。その後、大正~昭和時代には一般向けのビアホールがブームとなります。1926(大正15)年に西洋料理店・矢尾政が、スパニッシュ・バロック様式の洋館をビアレストランとしてオープンし、やがて京都タワーの屋上などでも、ビアガーデンがスタート。今もこれらの場所では夏にビアガーデンを開催しています。
第4回内国勧業博覧会の様子。中央が大阪麦酒の販売所
1965(昭和40)年開業当時の京都タワービアガーデン
矢尾政時代の東華菜館
現代のクラフトビール
近年、香りや味が個性的なクラフトビール作りが全国的に盛んです。良質な水に恵まれ、技術にこ だわる職人の町・京都のクラフトビールは日本中で高評価。2018年には、麦芽・ホップ・酵母の 生産や醸造など、すべてを京都府内で作る「京都産100%ビールプロジェクト」が立ち上がり、 2020年の完成・販売を目指しています。
「京都産100%ビールプロジェクト」では、2019年2月から2020年4月までに計3回、クラフトビールの試作品を発表。限られたビアパブなどで飲むことができます
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- 第二回 京の名水めぐり
- 第一回 池泉庭園の眺め方