京都ツウのススメ
第百三十四回 精進料理
限られた食材で手間を惜しまず作る精進料理寺院の食事から生まれた精進料理についてらくたびの谷口真由美さんがご紹介します。
基礎知識
其の一、
- 仏教の教えに基づき調理される料理を精進料理と言います
其の二、
- 食材には野菜や麩ふ、湯葉や豆腐など、動物性以外のものが使われます
其の三、
- 京都には寺院御用達の精進料理専門の仕出し店もあります
仏教の教えから生まれた精進料理
精進料理は、仏教の戒律に基づいた料理です。仏教では動物の殺生が禁じられているため、肉や魚は使用しません。鎌倉時代、中国・宋で禅宗を学んだ日本人の僧は、禅の教えとともに揚げたり煮たりするなど、様々な調理法を持ち帰りました。また食材に敬意を払って無駄なく使い切るという心構えや、音を立てて食べないといった食の作法も日本に伝えました。これは「食事を作ることも食べることも修行のひとつ」という教えによるものです。現在の日本の精進料理は、こうした調理法や作法を元に発展したものと言われています。
今では京都の食文化のひとつに
寺院が多い京都には、法要や儀式の際の料理を任される精進料理店があります。明治時代に開業した仕出し店の矢尾治(やおじ)もそのひとつで、旬の野菜や豆腐、湯葉などを用い滋味豊かな料理を提供しています。精進料理は料理店のほか寺院内の食事処や宿坊などでも食べることができ、京都の食文化のひとつとして定着しています。
淡泊な食材を使いながら、味付けや食感に
メリハリを利かせた献立の一例です。
朱塗りの器が用いられるのは、仏教の教えを色で表した五色のうち、赤が血や命の色で、仏教の修行に励む「精進」を意味しているからと言われます。
①猪口(ちょく)
和え物や酢の物が入ります。野菜を豆腐、ゴマ、酢などで和えた白酢(しらす)和えはさっぱりした味わいです。
②木皿(きざら)
料理を何品か盛り合わせた八寸のように、田楽、煮物、生湯葉などの料理が5品もしくは7品盛り付けられます。
③平椀(ひらわん)
メイン料理に位置付けられます。ゆり根、ギンナン、キクラゲなどを平湯葉で巻き、精進だしで炊いたふくさ包みです。
すりおろしたヤマイモや豆腐に、皮に見立てた海苔(のり)を付けて揚げ焼きした「ウナギのかば焼き」など、肉や魚のような“もどき料理”も作られます。
④木皿(きざら)
向かって右の木皿には先付のような軽めの料理が盛り付けられます。精進料理の定番であるゴマ豆腐が出されることもあります。
⑤飯椀(めしわん)
旬の野菜が炊き込まれたご飯で、白ご飯の場合もあります。
⑥汁椀(しるわん)
焼き豆腐になめこ、カラシなどを添えた味噌(みそ)汁。すまし汁になることもあります。
⑦菜器(さいき)
漬物が盛られ、食後は一切れ残しておいたたくあんなどの漬物でお茶が注がれた飯椀を丁寧に洗います。お茶を飲み干し、最後に食べるのも作法のひとつです。
寺を開いた僧(開山)の命日に営まれる開山忌の際、特別な料理を供える寺院もあります。建仁寺(東山区)では、泥地の中の亀に見立て、味噌汁にナスを入れた「泥亀汁(どんがめじる)」が用意されます。開山の栄西禅師が好んだと伝わる料理です
黄檗宗の萬福寺(宇治市)では、開山である隠元禅師が中国から伝えた精進料理「普茶(ふちゃ)料理」を味わえます。ひとつの卓を4人で囲み、大皿に盛り付けられた料理を一緒に食べます
魚介を使わない精進だし
だしは昆布からとるほか、シイタケや大豆、かんぴょうなど、旨味のある食材を加えることもあります。
使ってはいけない野菜
五葷(ごくん)と言われる、ニンニクやネギなど臭気の強い5種類の野菜は、僧侶の修行や布教の妨げになるとして使われません。
大豆やゴマがタンパク源
豆腐や湯葉の材料となる大豆や、胡麻豆腐に使われるゴマが、肉や魚に代わる重要なタンパク源となっています。
食事の前に唱える言葉
食事の前には、食材や料理を作ってくれた人への感謝の言葉や、食事に対する心掛けを唱えます。
東福寺(東山区)の開山である聖一国師は、水力によって石臼を回し茶や穀物を粉末にする製粉装置の設計図を宋から持ち帰り、麺など新しい食材の普及に寄与したと言われています
撮影協力:矢尾治
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