京都ツウのススメ
第三十回 京ことば
- 其の一、
- 京ことばは、宮中で用いた「御所(ごしょ)ことば」と商家などで用いた「町方(まちかた)ことば」から成り立っています
- 其の二、
- 独特の発音・アクセントがあり、敬語や遠回しな表現を多用するのが特徴です
- 其の三、
- 京ことばには、都で育まれた文化や暮らしの知恵が息づいています
語り継がれる京ことば
上品で柔らかな口調が耳にやさしい京ことばは、1200余年の歴史に培われた文化です。京ことばの源流は大きく「御所ことば」と「町方ことば」に分かれ、宮中で用いられた御所ことばは、明治維新まで京都御所で話されていました。町方ことばは戦前の旧京都市を中心に話されたことばで、用いる人の職業や居住地によって細かく分類されます。これらが融合して今日の京ことばを形成しています。
京ことばの特徴
京ことばは日本語のなかでも独特の響きを持つと言われています。「てぇ(手)」「めぇ(目)」のように母音を長く発音したり、「ろぉーじ(路地)」「こぉーて(買うて=買って)」などのように頭の音を長く引くため、優雅で穏やかな印象を与えます。また直接的な物言いを避け、遠回しに言う傾向が見られるのも特徴です。こうした京ことばの背景には、長い歴史の中で幾度も権力者の交代を経験した先人たちの、「本音と建前」を使い分ける暮らしの知恵が息づいていると言われています。
室町時代初期から御所に仕えた女官が使い始めたことから「女房ことば」とも言われます。主に衣食住に 関する事柄に用いることが多く、言葉遣いを丁寧にするため頭に「お」を付けたり、語尾に「もじ」などを付けて婉曲的に表現するのが特徴です。
- 「餅(もち)」の意。「お」+餅を意味する古語「搗飯(かちいい)」がなまった「かちん」
- 「会う」の意。「お目にかかる」の「おめ」+「もじ」
身分の高い女性が入寺した尼門跡の大聖寺(京都市上京区)や霊鑑寺(京都市左京区)にはこうした御所ことばが受け継がれています
主に中京ことば・職人ことば・花街ことばなどから成り立っています。
- 地味ではあるが上品の意。質素で堅実なことを表す公道(こうとう)が語源とも
- 「とにかく・ぎりぎり」の意の「かにかく」が語源。「かにここ間に合った」などと言う時に使う
このほかにも京焼・京友禅などの現場で話される“伝統工芸語”や大原などの農村で話される“農業ことば”があります
- 「事多い」の意から花街では事始めの日(12月13日)に芸妓・舞妓があいさつとして使う
- 芸妓・舞妓を送り出す時に所属する置屋(おきや)の女将さんが言うことば。座敷から早く帰られては商売に差し障るため、一般によく言う「おはようおかえりやす(早く帰ってきなさい)」ではなく、「おきばりやす(精出してがんばって)」もしくは「いっといなはい(行ってらっしゃい)」と言いました
花街では仕事がなく暇なことを「お茶をひく」と言ったことから、「お茶」の語を避けて「ぶぶ」や「おぶー」などと言い、お茶漬けを「ぶぶ漬け」「おぶ漬け」と呼びました
- 客を迎える時に言い、花街では「おいでやす」は初めての客に、「おこしやす」は常連に対して使うことが多い。一般には「おこしやす」の方が丁寧な言い方とされている
- 何かを終えてほっとする、気分的に疲れた時に使う
- 食べ物の食感を表し、穏やかな口当たりを指す。また落ち着きのあることを言う場合もある
- 「華あり」を語源とし、主に色合いに対して使う。上品で明るく、晴れやかな様子を言う
- 感謝の意を表すことばで、「大きに(大変、大いに)有り難し」が語源
- 耐え忍ぶ「堪忍」から、「ごめん・許してください」の意で使う
- 恐れ慎むという意の「憚(はばか)る」から、「ご苦労さん・ありがとう」の意
- やかましいという意の「お喧(やかま)し様」+「~どした」で、「お邪魔しました」の意
「ぶぶ漬け」とはお茶漬けの意。客に対して「まあ、ぶぶ漬けでも...」と勧めるのは遠回しに帰宅を促す儀礼的表現。言われた客は真に受けずに「いや、この辺で失礼します」と帰るのが礼儀とされます。
財産をなくすほど衣服にお金をかける京都人気質を表したことば。対して飲食にお金をかける大阪人は「食い倒れ」。また、京の人はよく気を遣うので「気倒れ」とも言われます。
取材協力/京ことばの会 参考文献/「京ことば辞典」(井之口有一・堀井令以知編)、「折々の京ことば」(堀井令以知著)ほか
- 第百九十七回 京都と豆腐
- 第百九十六回 南座と歌舞伎
- 第百九十五回 京都の巨木
- 第百九十四回 京都と将棋(しょうぎ)
- 第百九十三回 秋の京菓子
- 第百九十二回 京都の植物
- 第百九十一回 京都の風習
- 第百九十回 幻の巨椋池(おぐらいけ)
- 第百八十九回 京都と魚
- 第百八十八回 京都とお花見
- 第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
- 第百八十六回 京都の地ソース
- 第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
- 第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
- 第百八十三回 京都の坪庭(つぼにわ)
- 第百八十二回 どこまで分かる?京ことば
- 第百八十一回 京都の中華料理
- 第百八十回 琵琶湖疏水と京都
- 第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
- 第百七十八回 京都と徳川家
- 第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
- 第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
- 第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
- 第百七十四回 京の難読地名
- 第百七十三回 京の縁日
- 第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
- 第百七十一回 京都の通称寺
- 第百七十回 京都とキリスト教
- 第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
- 第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
- 第百六十七回 京の城下町 伏見
- 第百六十六回 京の竹
- 第百六十五回 子供の行事・儀式
- 第百六十四回 文豪と京の味
- 第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
- 第百六十二回 京都のフォークソング
- 第百六十一回 京と虎、寅
- 第百六十回 御火焚祭
- 第百五十九回 鴨川の橋
- 第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
- 第百五十七回 京都とスポーツ
- 第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
- 第百五十五回 京都の喫茶店
- 第百五十四回 京の刃物
- 第百五十三回 京都の南蛮菓子
- 第百五十二回 京の社家(しゃけ)
- 第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
- 第百五十回 京のお雑煮
- 第百四十九回 京の牛肉文化
- 第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
- 第百四十七回 明治の京都画壇
- 第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
- 第百四十五回 ヴォーリズ建築
- 第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
- 第百四十三回 京の人形
- 第百四十二回 京の社寺と動物
- 第百四十一回 鳥居(とりい)
- 第百四十回 冬の食べ物
- 第百三十九回 能・狂言と京都
- 第百三十八回 京都と様々な物の供養
- 第百三十六回 京都とビール
- 第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
- 第百三十四回 精進料理
- 第百三十三回 明治時代の京の町
- 第百三十二回 皇室ゆかりの建物
- 第百三十一回 京の調味料
- 第百三十回 高瀬川
- 第百二十九回 蹴鞠
- 第百二十八回 歌舞伎
- 第百二十七回 京都に残るお屋敷
- 第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
- 第百二十五回 京の学校
- 第百二十四回 京の六地蔵めぐり
- 第百二十三回 京の七不思議<通り編>
- 第百二十二回 京都とフランス
- 第百二十一回 京の石仏
- 第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
- 第百十九回 生き物由来の地名
- 第百十八回 京都の路面電車
- 第百十七回 神様への願いを込めて奉納
- 第百十六回 京の歴食
- 第百十五回 曲水の宴
- 第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
- 第百十三回 パンと京都
- 第百十二回 京に伝わる恋物語
- 第百十一回 鵜飼(うかい)
- 第百十回 扇子(せんす)
- 第百九回 京の社寺と山
- 第百八回 春の京菓子
- 第百七回 幻の京都
- 第百六回 京の家紋
- 第百五回 京の門前菓子
- 第百四回 京の通り名
- 第百三回 御土居(おどい)
- 第百二回 文学に描かれた京都
- 第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
- 第百回 夏の京野菜
- 第九十九回 若冲と近世日本画
- 第九十八回 京の鍾馗さん
- 第九十七回 言いまわし・ことわざ
- 第九十六回 京の仏師
- 第九十五回 鴨川
- 第九十四回 京の梅
- 第九十三回 ご朱印
- 第九十二回 京の冬の食習慣
- 第九十一回 京の庭園
- 第九十回 琳派(りんぱ)
- 第八十九回 京の麩(ふ)
- 第八十八回 妖怪紀行
- 第八十七回 夏の京菓子
- 第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
- 第八十五回 新選組
- 第八十四回 京のお弁当
- 第八十三回 京都の湯
- 第八十二回 京の禅寺
- 第八十一回 京の落語
- 第八十回 義士ゆかりの地・山科
- 第七十九回 京の紅葉
- 第七十八回 京の漫画
- 第七十七回 京の井戸
- 第七十六回 京のお地蔵さん
- 第七十五回 京の名僧
- 第七十四回 京の別邸
- 第七十三回 糺(ただす)の森
- 第七十二回 京舞
- 第七十一回 香道
- 第七十回 天神さん
- 第六十九回 平安京
- 第六十八回 冬の京野菜
- 第六十七回 茶の湯(茶道)
- 第六十六回 京の女流文学
- 第六十五回 京の銭湯
- 第六十四回 京の離宮
- 第六十三回 京の町名
- 第六十二回 能・狂言
- 第六十一回 京の伝説
- 第六十回 京狩野派
- 第五十九回 京寿司
- 第五十八回 京のしきたり
- 第五十七回 百人一首
- 第五十六回 京の年末
- 第五十五回 いけばな
- 第五十四回 京の城
- 第五十三回 観月行事
- 第五十二回 京の塔
- 第五十一回 錦市場
- 第五十回 京の暖簾
- 第四十九回 大原女
- 第四十八回 京友禅
- 第四十七回 京のひな祭り
- 第四十六回 京料理
- 第四十五回 京の町家〈内観編〉
- 第四十四回 京の町家〈外観編〉
- 第四十三回 京都と映画
- 第四十二回 京の門
- 第四十一回 おばんざい
- 第四十回 京の焼きもの
- 第三十九回 京の七不思議
- 第三十八回 京の作庭家
- 第三十七回 室町文化
- 第三十六回 京都御所
- 第三十五回 京の通り
- 第三十四回 節分祭
- 第三十三回 京の七福神
- 第三十二回 京の狛犬
- 第三十一回 伏見の酒
- 第三十回 京ことば
- 第二十九回 京の文明開化
- 第二十八回 京の魔界
- 第二十七回 京の納涼床
- 第二十六回 夏越祓
- 第二十五回 葵祭
- 第二十四回 京の絵師
- 第二十三回 涅槃会
- 第二十二回 京のお漬物
- 第二十一回 京の幕末
- 第二十回 京の梵鐘
- 第十九回 京のお豆腐
- 第十八回 時代祭
- 第十七回 京の近代建築
- 第十六回 京のお盆行事
- 第十五回 京野菜
- 第十四回 京都の路地
- 第十三回 宇治茶
- 第十一回 京菓子の歴史
- 第十回 枯山水庭園の眺め方
- 第九回 京阪沿線 初詣ガイド
- 第八回 顔見世を楽しむ
- 第七回 特別拝観の楽しみ方
- 第六回 京都の着物
- 第五回 仏像の見方
- 第四回 送り火の神秘
- 第三回 祇園祭の楽しみ方
- 第二回 京の名水めぐり
- 第一回 池泉庭園の眺め方