京都ツウのススメ
第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
花街最高位の麗しき太夫島原太夫は、どんな女性たちで何をしているのか、らくたびの谷口真由美さんが紹介します。
基礎知識
其の一、
- 太夫は、知識・品格・遊芸すべてにおいて優れた花街の女性のことです
其の二、
- 江戸時代は、名妓と称された太夫たちが女性たちの憧れの存在でした
其の三、
- 現在も社寺行事などの太夫道中で、その姿を見ることができます
諸芸に通じた最上級の存在
太夫のいる花街・島原は、1589(天正17)年に豊臣秀吉に公許され、最初は柳町(柳馬場二条)にあり、後に六条三筋町、そして島原へと移転。この花街で最高位にあったのが太夫です。もともと、能楽や歌舞伎の舞台で秀でた人を能太夫と呼び、舞に優れていた人を舞太夫と呼んだことが始まりとされます。容姿に優れているだけでなく、歌舞音曲の芸はもとより、茶・花・和歌・俳諧など、あらゆる教養を身に付けた文化人でもありました。
上品で教養があり、当時の女性の憧れに
島原には名妓と呼ばれた太夫が大勢いました。八千代太夫・吉野太夫・大橋太夫などがいて、特に 2代目吉野太夫は希代の名妓と言われ、夕霧太夫・高尾太夫とともに「寛永三名妓」と称されました。現在の島原にはかつてのような遊宴の場はありませんが、太夫の技芸などは伝承されていて、京都の社寺の行事などで、豪華な衣装をまとって練り歩く太夫道中や舞などを見ることができます。
なかなか見かける機会の少ない太夫は、
昔も今も特別な存在です。
太夫とは?
優れた技能や教養を持ち、最高位とされた花街の女性のこと。置屋(おきや)に所属し、宴会場である揚屋(あげや)に派遣されていました。皇族や公家の相手をしたことから、かつては正五位の地位を与えられていました。現在の島原では、花扇太夫・如月太夫・薄雲太夫が置屋である輪違屋(わちがいや)に在籍し、活躍しています。
太夫になるには?
舞はもちろん、茶道や三味線・琵琶などの和楽器、地唄・常盤津などの唄、書道、香道、華道、詩歌俳句、囲碁や貝合わせなどの古典的遊びなど、諸芸や教養を身に付けることが必要です。
どんなことをしている?
貴族や京屋敷の大名、文化人らの接待が中心。宴席で舞を披露するほか、楽器の演奏、茶の湯や詩歌の接待などをしていました。現在では、輪違屋のお座敷のほか、京都の社寺などで太夫道中の披露や舞の奉納などを行っています。
漢学者・頼山陽(らいさんよう)などが、郷里の母親を呼び寄せて接待させたこともあり、太夫が文化人であったことがうかがえます。
【 太夫道中 】
置屋から揚屋に向かう時に、先頭に禿を歩かせ、太夫に長柄傘をかざした男性などが行列を作って歩きました。
【 化粧・髪型 】
白塗りの水化粧で下唇に口紅を塗り、お歯黒を付け、眉は引きません。鬘(かつら)を被らず、自毛で「男元禄(立兵庫)」「長船」「勝山」などの日本髪を結います。
【 衣装 】
衣装の重さは約45kg。帯は前で「心」の字を表す5角形に結んでいます。太夫道中では、高下駄を履き、内八文字を描きながら歩きます。
【 禿(かむろ) 】
太夫の身の回りの雑用をする10歳前後の少女。背中には仕える太夫の名前を記しています。
特に名高いのが、寛永年間(1624〜44年)の2代目𠮷野太夫です。器量が良く、諸芸は達人の域にあった才色兼備の女性で、当時の女性たちにとっても憧れの存在だったと言われています。
太夫の名前は『源氏物語』の54帖の巻名や登場人物から付けられます
2代目吉野太夫(常照寺蔵)
吉野太夫と常照寺[北区]
2代目の𠮷野太夫は、開山の日乾上人に帰依し、たびたび訪れ、通称・赤門、または吉野門と呼ばれる山門を寄進したと言います。参道の桜はのちに𠮷野太夫をしのんで植えられました。墓もあるため、毎年4月に行われる𠮷野太夫花供養[今年は11/15(日)に延期]では、島原の太夫数名による太夫道中や奉納舞などが行われます。
柳町から六条三筋町、そして現在地へと移転した花街
島原大門 [下京区]
島原の東の入り口にあたり、高麗門形式の正門が残っています。
「島原」とは通称で、正式な地名は西新屋敷。現在の地への移転騒動が九州・島原の乱の混乱ぶりに似ている事からこの呼び名になったと言われます
輪違屋[下京区]
元禄年間(1688〜1704年)に創業した置屋。1872(明治5)年からお茶屋を兼業。今も太夫を抱えて営業を続けています。
角屋(すみや)もてなしの文化美術館 [下京区]
かつての揚屋で、江戸時代中期には俳壇ができるなど、京都文化の中心的役割を担っていました。唯一現存する揚屋建築であることから、現在は美術館として毎年3/15〜7/18・9/15〜12/15に公開しています。[今期は4/1(水)以降に開館予定]
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