京都ツウのススメ
第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
中国で生まれ京に伝わった精進料理宇治の萬福寺を開いた中国僧・隠元禅師により日本にもたらされた中国風の精進料理「普茶料理」について、らくたびの谷口真由美さんが紹介します。
基礎知識
其の一、
- 普茶料理は中国の禅宗寺院で生まれた精進料理です
其の二、
- 宇治・萬福寺(まんぷくじ)など黄檗宗(おうばくしゅう)の寺院に伝えられています
其の三、
- 献立や食事の作法には、中国風精進料理の特色が見られます
宇治・萬福寺の開祖が伝えた普茶料理
仏教の教えから生まれた精進料理は、京料理の原点のひとつとして定着しています。萬福寺などの黄檗宗寺院に伝わる精進料理は普茶料理と呼ばれ、料理を大皿に盛り付けるなど、中国風の特色が色濃く残されています。もともとは法要などを終えた後、関係者一同で茶をいただく茶礼(されい)という儀式の後に振る舞われた料理。黄檗宗の祖で萬福寺を開いた中国僧の隠元隆琦(いんげんりゅうき)禅師により、江戸時代初期に伝えられました。
盛り付けや調理法も中国風
普茶料理は、4人で1卓を囲み大皿に盛り付けた料理を平等に取り分けて食べるのが作法とされています。煮物・揚げ物などをひと皿に盛り付けた筝羹(シュンカン)や、天ぷら風の油茲(ユジ)など、中国風の献立があるのも特徴のひとつ。萬福寺のほか、伊達政宗の屋敷跡に建立された海宝寺(かいほうじ)(伏見区)や萬福寺の六代住職千呆(せんがい)禅師が開いた閑臥庵(かんがあん)(北区)などの黄檗宗の寺院には、今も普茶料理が伝わり、その味を楽しむことができます。
中国・明朝時代末期の臨済宗を代表する僧で、日本の禅僧らからの度重なる求めに応じて、1654(承応3)年、63歳の時に弟子を伴って来日。隠元禅師は、普茶料理のほかに建築、煎茶など当時の中国文化も日本に伝えました。インゲン豆・スイカ・レンコン・孟宗竹(タケノコ)などを食べる習慣も、隠元禅師によりもたらされたと言われています。
隠元禅師は、後水尾天皇や徳川幕府の崇敬を受け、1661(寛文元)年、後水尾天皇の母の別荘地跡がある宇治に、日本の黄檗宗の大本山となる寺を創建。隠元禅師が中国福建省で住職を務めていた寺と同じ、「黄檗山萬福寺」と名付けました
普茶とは「普(あまね)く=広く、もれなく」「大衆と茶を供にする」という意味の禅の言葉に由来しています。
身分や立場で座る席を区別することなく、テーブルを囲む4人が平等に同じものを食べます。仲良く和気あいあいとした雰囲気の中で、料理を残さずいただきます。
普茶料理の味付けは、甘味・酸味・鹹味(かんみ※塩味のこと)・苦味・辛味の五味に、素材の持ち味を生かす味である淡味を加えた「六味」が基本と言われます。また、炒め物や揚げ物にゴマ油を使うのも特徴のひとつです。
様々な調理法や美しい盛り付けに特徴があります。
(シュンカン)
旬の野菜や乾物などを使った料理を、大皿に彩り良く盛り付けたもの。煮物・蒸し物・揚げ物・焼き物などのほかに、口直しとして甘酸っぱい寿司を盛り合わせることもあります。
筝羹として出される料理のひとつが『もどき料理』。精進料理では使えない魚介の料理に似せたものです。裏ごしした豆腐と海苔で作るウナギの「蒲焼きもどき」や、半月状に切った長イモで作る「かまぼこもどき」などがあります
(ウンペン)
調理の際に余った野菜の切れ端などを刻んで炒め、葛(くず)でとろみを付けたもの。食材のすべてを無駄なく使っていただくという、仏教の教えに基づいた普茶料理の代表的な料理です。
(マフ)
ゴマ豆腐の元祖と言われる料理。煎った後すった白ゴマと葛粉、調味料を合わせて火にかけ、じっくり練り上げて作る、手間ひまのかかった1品です。
(スメ)
昆布でだしをとったすまし汁。代表的なものは、裏ごしした豆腐や大和イモを揚げて作った「唐揚げ」が入った唐揚げ汁です。
(ユジ)
食材や衣に下味を付けて揚げた料理。野菜だけでなく、コンニャクや饅頭、梅干しなどを揚げたものもあります。梅干しは、塩抜き後に甘露煮にして味を含ませ、衣を付けて揚げたものです。
煮物や揚げ物などに煮汁や餡をかけた巻繊(ケンチャン)や、和え物の浸菜(シンツァイ)、甘味の水果(スイゴ)、ご飯ものの飯子(ハンツウ)などがあります。飯子や寿免は、行堂(ヒンタン)と呼ばれる木の桶に盛られます。
隠元禅師は、茶葉を釜で炒る唐茶(からちゃ)の製法も日本に伝え、後に黄檗僧・高遊外売茶翁(こうゆうがいばいさおう)が、茶葉を湯で煎じて飲む煎茶道を広めました。萬福寺には売茶翁をまつる売茶堂があります。
萬福寺など黄檗宗の寺院では、大きな行事や法要の際の仏前への供物を上供(シャンコン)と言います。野菜などの5色の供物に、隠元禅師の好物の油揚げを加えた6種が供えられます。
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