京都ツウのススメ
第八十四回 京のお弁当
- 其の一、
- 平安時代、干したご飯などの保存食を持ち運んだものがお弁当の原型です
- 其の二、
- 江戸時代、京都の風習から行楽弁当や仕出し弁当が誕生しました
- 其の三、
- 昭和初期に、懐石料理を取り入れた松花堂弁当が作られました
京都の食文化とお弁当
平安時代、貴族は旅をする際、握り飯やお米を天日干しにした長期保存食の干飯(ほしいい)を持ち運んでいました。これがお弁当の原型と言われています。安土桃山時代には、花見や茶会の席で重箱などの容器に酒肴(しゅこう)料理を詰めたお弁当が登場し、豊臣秀吉が醍醐で催した花見の折に持ち込んだのが「花見弁当」のはしりとされます。江戸時代に入ると、民衆の間にもお弁当を食べる習慣が広まっていきました。その後、石清水八幡宮の社僧・松花堂昭乗の名前からとった「松花堂弁当」や、京都独自の風習である「仕出し弁当」など、各地でその土地の名産や食文化を取り入れた様々なお弁当が生まれました。
京都の松花堂弁当・江戸の幕の内弁当
松花堂弁当は、昭和初期に名料亭・吉兆の創業者である湯木貞一が、昭乗の愛用していたたばこ盆を改良して懐石料理を詰め、茶会の席で振る舞ったことで誕生しました。一方、幕の内弁当のルーツは江戸の芝居見物。室町時代に確立した和食の基本となる本膳料理が芝居茶屋で提供されるようになり、休憩時間である幕間(まくあい)に食べたことが始まりとされ、起源は異なります。
江戸時代初期、書画家で茶人でもあった松花堂昭乗は、内側が十字に仕切られた農家の種入れ用の器に着想を得て、絵の具入れや茶会用のたばこ盆を作りました。約300年後の1933(昭和8)年頃、昭乗が住んだ庵・松花堂遺跡(現在の松花堂庭園)でこの器を見つけた吉兆の創業者・湯木貞一はこれを料理の器とすることを思い付き、当時隆盛であった大規模な茶会にふさわしいお弁当として松花堂弁当が考案されたのです。
松花堂弁当の盛り付けは、懐石料理の流れをくんでいます。一般的には、右奥に向付、左奥は焼き物、左手前は煮物、右手前はご飯となります。

八幡市立松花堂庭園・美術館
- ●9時~16時30分(受付)月曜(5/4を除く)・5/7(木)休業 ※料金はお問い合わせください
- ●075-981-0010 ●京都府八幡市八幡女郎花43
- ●樟葉駅・八幡市駅からバス 大芝・松花堂前下車すぐ
松花堂弁当は、内側に仕切りがあり、縁が高く、蓋のある弁当箱を用います。仕切りには温かいものと冷たいものを分けたり、味やにおいが移らないようにしたりする役目があります。懐石料理の基本である一汁三菜が表現され、略式懐石とも呼ばれています。


桜を愛でる花見文化は平安時代からありました。安土桃山時代の1598(慶長3)年の春、豊臣秀吉は絢爛豪華な宴をするために、数度の下見をしてから京都・醍醐寺に700本の桜を植えたと伝わります。そこで盛大な宴を開き、その時に持ち込んだ料理が花見弁当の始まりとされています。また、武家や公家などの上流階級の人たちは、豪華な装飾が施された漆器の重箱に料理を詰め合わせ、客人たちに振る舞っていたそうです。その後、屋外で開かれた茶会などの文化と結び付き、江戸時代には花見弁当が民衆にも定着していきました。
江戸時代中期には、花見や舟遊びなどの行楽用弁当の詰め方を記した教本も出版されました
京都では、お客さまをおもてなしする際には家庭料理を出さず、仕出し屋から取り寄せる風習があります。プロの料理を食べてもらうことが客人への礼儀だと考えているからです。そして、仕出し料理を重箱に詰めてお弁当の形態にしたことから、仕出し弁当が広まりました。

都の食文化を詰め込んだ弁当箱は、移りゆく時代とともに、様々な形に変化してきました。安土桃山時代に生まれた漆器の弁当箱には、季節の風物が蒔絵や螺鈿(らでん)細工できらびやかに描かれていました。観劇用、花見や蛍狩り用など、風流な遊び心を弁当箱にも表現していたようです。
京都の麸専門店・半兵衛麸には、江戸時代の花見用弁当箱などを展示するお辮當箱(べんとうばこ)博物館が併設されています。
お辮當箱博物館
- ●9時~17時 ●075-525-0008
- ●京都市東山区上人町433
- ●清水五条駅下車 南東へすぐ
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