京都ツウのススメ

第百十五回 曲水の宴

小川のほとりが華やぐ
平安の宴
京都で行われる「曲水の宴」について、らくたびの山村純也さんが紹介します。

基礎知識

其の一、

3月に川で身を清めるという中国の文化が元になっています

其の二、

古墳時代から平安時代中期には宮中の行事として行われました

其の三、

京都では城南宮や上賀茂神社、北野天満宮で行われています

中国から日本へ伝わった禊(みそぎ)の儀式

古代中国では、民衆の間で3月3日に川で水浴びをして身を清め、無病息災を祈る禊の風習がありました。やがてこれが、詩歌を作り川に杯を巡らす宴「曲水」として上流階級の間で行われるようになります。日本には古墳時代に伝わり、奈良時代に書かれた正史『日本書紀』には、485(顕宗天皇元)年3月に宮中儀式として行われたことが記されています。

平安の世に好まれた雅な歌会

平安時代、一時的に行われていない時期がありましたが、嵯峨天皇の時代に再開されて以降、藤原道長ら貴族たちは屋敷でも私的な歌会として盛んに行っていました。その後、戦乱の世になると再び途絶えますが、江戸時代の1737(元文2)年には中御門上皇が京都の仙洞御所で曲水の宴を再興。現在、全国数カ所で行われており、京都では城南宮(4月・11月)、上賀茂神社(4月)、北野天満宮(11月)で一般に公開されています。

現代によみがえる
宮中行事
曲水の宴

美しい平安装束を身にまとった人々が登場する曲水の宴。それぞれの役割を紹介します。

「曲水の宴」の主な流れ

  • 7人の歌人が小川のほとりの席に着くと、白拍子(しらびょうし)が舞を奉納します。
  • 舞が終わると、童子が酒を注いだ杯を羽觴(うしょう)に載せて、小川に流します。
  • この間、歌人らは歌を短冊にしたため、目の前に流れてきた羽觴を取り、酒を飲みます。
  • 全員が歌を書き終えると童子が短冊を集め、神職が歌を詠み上げて神様に奉納します。

城南宮「曲水の宴(きょくすいのうたげ)

毎年4月29日と11月3日に神苑内の平安の庭で開かれます。

城南宮「曲水の宴」

歌人

歌人

7人の男女が小川沿いに座ります。男性は狩衣(かりぎぬ)、女性は小袿(こうちぎ)という雅な平安装束に身を包んでいます

白拍子

白拍子

歌人が歌を詠む間、四季の景色を愛でた今様に合わせて、白拍子が舞を披露します

小川

遣水(やりみず)と呼ばれる曲がりくねった小川

羽觴

羽觴

杯を載せるための、おしどりの姿をした台

童子

童子

水干(すいかん)姿の2人の子供たち。杯を載せた羽觴を川に流します

ここがツウ

城南宮の曲水の宴で用いる羽觴は、京都御所に伝わるものを模したものです

上賀茂神社「賀茂曲水宴(かもきょくすいのえん)

上賀茂神社「賀茂曲水宴」

毎年4月の第2日曜に開催。1182(寿永元)年に神主が15人ほどの歌人を招いて行ったことが起源です。

ここがツウ

賀茂曲水宴では、前年の葵祭に奉仕した斎王代が1年の任務最後の仕事として参列、最初に歌題を発表します

北野天満宮「曲水の宴(きょくすいのえん)

北野天満宮「曲水の宴」

毎年11月3日に開催。昨年、約1100年ぶりに再興されました。

ここがツウ

北野天満宮では、日本古来の精神や中国の新しい学問の両方を兼ね備えるべきという「和魂漢才」を掲げた菅原道真をたたえ、漢詩と和歌を詠みます

京都で今も見られる宮中行事

曲水の宴のほかにも、宮中で行われていた様々な行事が現代に伝わっています。

蹴鞠 [各神社]けまり

約1400年前に中国から伝わり、貴族の男性のたしなみとされ、古くから宮中で盛んに鞠を蹴る会が行われていました。毎年1月4日に下鴨神社で行われる「蹴鞠はじめ」が有名です。

追儺式(節分祭)[各社寺]ついなしき(せつぶんさい)

大みそかの戌の刻(19時〜21時)に宮中で行われていた鬼払いの行事。江戸時代に途絶えますが、各地の社寺や民衆の間では2月の節分行事として今に伝わっています。

葵祭(賀茂祭)[下鴨神社・上賀茂神社]あおいまつり(かもさい)

約1400年前、風水害による凶作が続いた際、賀茂神の怒りを鎮めるために行われた神事が始まり。応仁の乱以降に廃絶しましたが、下鴨神社・上賀茂神社・朝廷・公家・幕府の協力により再興。毎年5月15日に行われています。

乞巧奠 [冷泉家]きっこうてん

7月7日に宮中や貴族の間では、願い事をカジの葉に書き、詩歌・裁縫・染織などの技芸上達を願っていました。京都の元公家・冷泉家では今も行われています。

亥子祭 [護王神社]いのこさい

亥の月・亥の日・亥の刻(21時〜23時)に餅を食べて無病息災を願った宮中の儀式・御玄猪(おげんちょ)に由来する11月の祭り。

制作:2017年11月
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