
第116回
京の歴食

第116回
京の歴食

『都名所図会』より「洛東名物大仏殿餅」(部分)国際日本文化研究センター蔵
京阪的京都ツウのススメ
第116回 京の歴食
「歴史」とともに味わう京の名物
京都ならではの歴史的なエピソードを持つ、様々な料理やお菓子。
そんな「歴食」を、らくたびの渡部里保さんが紹介します。
京の歴食の基礎知識
其の一、
歴史的なストーリーが楽しめる食べ物を歴食と言います
其の二、
かつて都が置かれ、社寺も多い京都ならではの歴食があります
其の三、
史料や故実を元に再現した食べ物も生まれています
食べ物を通して歴史を体感する歴食
史実を基に再現した食べ物や、誕生秘話などの歴史的なエピソードを持つ食べ物を「歴食」と言います。山口県の山口商工会議所が最初に提唱したこの言葉は、食を通して地域の歴史に触れるという、新たな食の楽しみ方の提案とも言えます。かつて都が置かれていた京都には、様々な食文化が生まれ、歴史的な物語のあるものも数多くあります。
昔と同じ場所で、食と歴史を楽しむ
京都の観光地や名物料理を紹介した江戸時代後期のガイドブック『拾遺都名所図会』には、八坂神社参道の茶屋が、名物の祇園豆腐目当ての人々でにぎわう様子が描かれています。また、老舗和菓子店の歴史をひも解けば、豊臣秀吉が命名した餅菓子などの逸話が残され、ほかにも京都を代表する漬物や弁当にもそれぞれ誕生秘話が伝 わっています。こうした食べ物を昔と同じ場所で味わい、その歴史に思いをはせるのもいいものです。歴史上の人物や出来事にちなむ、京都ならではの歴食を紹介します。
京都 食の物語
歴史上の人物や出来事にゆかりのある、京都ならではの歴食。
今に語り継がれる様々な物語を知ると、その味わいもより一層深まります。
建礼門院の心を慰めたしば漬

土井志ば漬本舗(左京区)
しば漬は平清盛の娘・建礼門院が名付けた京名物。 壇ノ浦の戦いで平家一門が没する中、生き残った建礼門院は、京都北東部の小さな盆地、大原にある尼寺 ・寂光院で余生を送ります。その心を慰めるようにと、村人たちが献上したのが大原特産の赤シソと夏野菜を使った塩漬けでした。建礼門院はこれを喜び、その鮮やかな紫色から「紫葉漬(しばづけ)」と名付けたそうです。
平安時代に日本に伝わった赤シソ。山に囲まれた大原は、ほかの場所から飛来する花粉の影響を受けにくく、今も原品種に近い色や香りの良い赤シソが栽培されています
豊臣秀吉が名付けた長五郎餅

長五郎餅(上京区)
約400年前、北野天満宮の縁日で、河内屋長五郎という老人が売る餅が評判になりました。長五郎は、1587(天正15)年に豊臣秀吉が北野天満宮で開いた大茶会・北野大茶湯にも餅を献上。秀吉はこの餅を大変気に入り「長五郎餅」と命名したと伝わります。現在、毎月25日に開かれる市では、北野天満宮内の茶店でこの餅を味わえます。

室町時代の七軒の茶屋に始まるのが、北野天満宮の東門前にある花街・上七軒。その紋章の「五つ団子」は、北野大茶湯で茶屋が秀吉の休憩所となった際に献上した、みたらし団子に由来すると言われています
江戸時代の書物に描かれた祇園豆腐
八坂神社門前にあった2軒の茶屋では、豆腐を竹串に刺して炭火で焼いた祇園豆腐(田楽豆腐)が名物でした。女性が豆腐を薄切りする早業も話題となり、その様子をひと目見ようとする人々の姿が『拾遺都名所図会』に描かれています。滑稽(こっけい)本『東海道中膝栗毛』でも主人公のふたりが立ち寄って注文した祇園豆腐は、今も参道の茶店・二軒茶屋の品書きに並んでいます。

『拾遺都名所図会』国立国会図書館蔵

二軒茶屋(東山区)
『拾遺都名所図会』と同じ著者が記した『都名所図会』には、方広寺大仏殿前にあった老舗餅店の様子も。1865(慶応元)年創業の和菓子店・甘春堂(東山区)の「大仏餅」は当時の名物菓子を再現したものです
江戸時代の文化人の名にちなむ松花堂弁当

京都吉兆 松花堂店(八幡市)
江戸時代初期、石清水八幡宮の社僧で、文化人としても知られた松花堂昭乗は、農家で種入れとして使われていた内側に十字の仕切りがある四角い箱をたばこ盆として使用していました。昭和に入り、この箱を目にした料亭・吉兆の創業者・湯木貞一は、これを料理の器にすることを考案。昭乗に敬意を払い「松花堂弁当」と命名しました。
平安時代の豪華な宴会料理を再現
平安時代、大臣に任命された貴族の祝宴など、特別な宴席の時に出されたのが大饗(だいきょう)料理です。台盤というテーブルに、高く盛り付けたご飯や、海産物の干物や塩漬けが並び、塩や酢など4種類の調味料で味を付けながら食べました。これを、史実を踏まえながら現代人の口に合うよう再現したのが京料理六盛(左京区)の「創作平安王朝料理」。千年前の食を体験できます。

ナビゲーターらくたび 渡部 里保さん
らくたびは、京都ツアーの企画を行うほか、京都学講座や京都本の執筆など、多彩な京都の魅力を発信しています。
制作:2017年12月

