京都ツウのススメ
第五十六回 京の年末
- 其の一、
- 12月初旬、お寺では厳しい冬に備えて中風除け(ちゅうふうよけ)の行事が行われます
- 其の二、
- 12月13日は「事始め」(ことはじめ)と呼ばれ、歳徳神(としとくじん)を迎えるための正月準備を始める日です
- 其の三、
- 錦市場や社寺で開かれる市(いち)で、正月飾りなどの迎春用品をそろえる家庭が多くあります
街の年末行事
11月下旬、四条大橋近くの南座に顔見世興行の出演者が書かれた「まねき」が上がると、京都の街に年末ムードが漂い始めます。12月8日前後に寺院で行われるのが「大根(だいこ)だき」。祈祷後に大鍋で煮込まれた大根を食べ、中風除けを祈願します。そして13日は「事始め」と呼ばれ、この日から正月の準備を始めるのが京都の習わしです。
京の人々の正月準備
12月も中旬になると、寺院ではお堂や本尊を奇麗にする「煤払い(すすはらい)」や「お身拭い(おみぬぐい)式」などが行われます。燃料がまきであった時代の名残で、旧家では台所の梁(はり)に登り、煤払い(大掃除)をします。これは、正月には歳徳神という1年の豊作を約束する神様がやって来ると信じられているためで、家を美しくすることは神様を迎えるための大切な準備なのです。家を清めた後は、正月飾りやおせち料理の材料などを買いに行きます。これらを“京の台所”と言われる錦市場のほか、東寺や北野天満宮などの社寺に立つ市で買い求める家庭がまだまだ多くあります。そうして迎えた大みそかの夜、八坂神社で邪気を払う「をけら火」をいただいて無病息災を祈りながら、新しい年を迎えるのです。
歳徳神は「としとくさん」として親しまれ、〝徳〟が〝得〟に通じることから縁起が良いとされています。歳徳神はその年の恵方にいると考えられるため、歳徳神の神棚は毎年向きが変わります
大みそかの19時30分頃から元日の早朝にかけて無病息災を祈って八坂神社で行われる行事です。「をけら」とはキク科の薬草の名前。たくと強い匂いがすることから、これを御神火とともにたき上げた「をけら火」は邪気を払うとされています。この火を火種にして雑煮を炊いて食べると、1年を健やかに過ごせるとされており、参拝者は吉兆縄に火をともし、火が消えないように縄をくるくると回しながら帰路につきます。境内で明け方まで授与される「をけら酒」は、「をけら」を使った珍しいお屠蘇(とそ)のことです。
「をけら」は漢方薬にも使われ胃や腸に薬効があるとされています。これを調整した「をけら酒」は、身体に良いお酒として珍重されています
参拝者が願いを書いて奉納する木。木は境内の燈籠(とうろう)の「をけら火」に入れられ、夜通したかれます。
吉兆縄に移した「をけら火」は、神に供える灯明にも使われます。縄は、火が消えにくいよう竹の繊維で作られています。
をけら詣り[八坂神社]
- ●12/31(月)19時30分頃~翌5時
- ●075-561-6155
- ●web.kyoto-inet.or.jp/org/yasaka
- ●祇園四条駅下車 東へ徒歩約5分
※電車内に「をけら火」を持ち込むことはできません
東寺、北野天満宮の12月の市は「終い弘法」「終い天神」と呼ばれ、葉ボタンや、干支(えと)にちなんだ飾りなどの迎春用品が並び、それらを求める人でにぎわいをみせます。
北野天満宮では、12月13日の事始めから大福梅(おおふくうめ)が授与されます(有料)。京都では、元日の朝にこの梅を白湯に入れて飲み、無病息災を祈ります
古くは、本家や目上の人へ鏡餅を持ってあいさつに行く風習がありました。現在では祇園などの花街で、芸事の師匠宅やお茶屋を訪れ、1年のお礼と新年のあいさつをする芸妓や舞妓の姿が見られます。
東本願寺では、御影堂で煤払いが行われます。堂内にたまった1年分のほこりを巨大なうちわであおいで払い出す様子は、冬の京の情景です。
※非公開
12月初旬、上京区の千本釈迦堂や右京区の了徳寺では「大根だき」が行われます。昔、作物のとれない冬は栄養不足になりがちだったため、保存のきく根菜などを食べることで、冬を健康に過ごそうという工夫だったようです。中京区の矢田寺では、12月23日に「かぼちゃ供養」が行われ、参拝者にカボチャの煮物が振る舞われます。
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