京都ツウのススメ

第百九十一回 京都の風習

京の暮らしに根付いた風習 伝統行事や、京町家、季節のお菓子などに見られる京都の風習について「らくたび」の若村亮さんがご案内します。

基礎知識

其の一、

風習とは、地域に長く伝わる生活や行事などの習わしです

其の二、

京都には有形無形様々な風習が受け継がれています

其の三、

京町家やお盆の行事、伝統的な和菓子に関する風習もあります

町家の台所に見られる風習

それぞれの地域で、人々の間で長く受け継がれ、伝統的に行われている生活様式や行事を風習と言います。長い歴史がある京都の暮らしの中にもたくさん見ることができます。そのひとつが、火伏せ[火難除け]・防火のご利益を願うお札です。家庭の台所や飲食店の厨房にまつられている「阿多古祀符火迺要慎(あたごしふひのようじん)」というお札は、愛宕(あたご)山に立つ愛宕神社[右京区]で授与されるもの。京都の人々が小さい頃からお参りをする風習があり、「愛宕さん」と親しまれる火伏せの神様のお札です。

街の中で見掛けるものも

京都の風習は街なかでも目にすることができます。家やビルなどの敷地の北東角に小石が敷き詰められているのは、災難がやってくるとされる方角を封じる「鬼門封じ」です。町家の屋根の上には、家の守り神である鍾馗(しょうき)さんが置かれています。そのほか、決まった時季に食べる和菓子やお盆に行われる行事にも、京都ならではの風習が見られます。

京都の様々な風習

台所に火迺要慎の護符

家の台所や飲食店の厨房には「阿多古祀符火迺要慎」と書かれたお札がよくまつられています。火伏せにご利益があると信仰を集める愛宕神社のお札です。7月31日夜から8月1日早朝にかけて参拝する「千日詣り」では、千日分のご利益を受けられると言われることから、多くの人が参拝します。

※2024年の千日詣りは7月23日(火)から8月1日(木)の昼間のみ

ここがツウ

子供が3歳までに愛宕神社をお参りすると一生火の難に遭わないとされる「三歳詣で」という風習もあります

ここがツウ

子供が3歳までに愛宕神社をお参りすると一生火の難に遭わないとされる「三歳詣で」という風習もあります

夏越祓(なごしのはらえ)の日に
水無月(みなづき)を食べる

毎年6月末、神社では夏越祓が行われます。これは半年の穢れを払い、残り半年の無病息災を祈る神事です。この日に食べるのが水無月という和菓子です。ういろうの三角の形は氷を模したもので、上に乗った小豆には邪気を払う力があるとされます。

ここがツウ

宮中では、旧暦6月1日に「氷の節句」を行い、夏の間の健康を願って氷を口にしました。氷は都の周辺の氷室(ひむろ)で作られ保管されたもの。庶民には貴重だったため、氷を模した水無月を食べるようになったと伝わります

北東に鬼門封じ

家やビルが立つ敷地の北東角に、小さな白い石が四角く敷き詰められていることがあります。これは、鬼が出入りする方角・鬼門とされる北東を封じたもの。北東に「難を転じる」と言われる南天の木を植えることもあります。平安京でも、風水の教えを元に、災難がやってくるという都の北東の方角に鬼門封じとして社寺が建てられていました。

(い)の日に火入れ

昔の暦では月や日を十二支で表したことに由来し、暖房の火入れは亥の月[旧暦10月]の最初の亥の日に行うと良いと言われます。古代中国では、この世の万物は「木・火・土・金・水」からなるとされ、十二支の「亥」は水に当たり、火を鎮めると考えられたことが元になっています。また、厄除けや子孫繁栄を願い、この日に食べる和菓子がイノシシの子に似せた亥の子餅です。

嫁入りの時、戻橋は渡らない

堀川に架かる一条通の橋が戻橋[上京区]です。嫁入りの際は戻ることのないように、ここを渡るのを避けると言われます。戻橋の名前は、父の死を知った僧が、この橋の上で神仏に祈願したところ、父が一時的に生き返ったという平安時代の伝説に由来します。

屋根に鍾馗(しょうき)さん

町家の屋根には、鍾馗さんが置かれています。寺院の屋根の鬼瓦にはじかれた邪気が、自分の家に降り掛からないようにまつったもの。近所の家よりも後に鍾馗さんを置く場合、鍾馗さん同士がにらみ合わないような位置に置くという心遣いが見られます。瓦製の鍾馗さんは京都発祥とされます。

酒の盃に「大の字」を映して飲み干す

五山の送り火は、お盆に迎えた先祖の霊[お精霊(しょらい)さん]を、冥途に送り届ける行事。8月16日の夜、「大文字山」など五山に送り火が灯ります。酒の盃に「大の字」を映して飲み干すと、無病息災で過ごせると伝わります。

ここがツウ

火床で燃え残った消し炭を、半紙に包んで玄関に吊るし、厄除けや盗難除けのお守りにする風習もあります

8月1日の風習

月の始めの日を朔日(さくじつ)と言い、8月1日は「八朔(はっさく)の日」です。旧暦の八朔は早稲が実る頃で「田の実(たのみ)の節」とも言われます。「田の実」が「頼み」に通じるとして、京都の商家では得意先などへあいさつに回るようになりました。京都の花街でも、この日に芸妓・舞妓が黒紋付き姿でお茶屋などにあいさつ回りをします。

制作:2024年7月
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第四十八回 京友禅
第四十七回 京のひな祭り
第四十六回 京料理
第四十五回 京の町家〈内観編〉
第四十四回 京の町家〈外観編〉
第四十三回 京都と映画
第四十二回 京の門
第四十一回 おばんざい
第四十回 京の焼きもの
第三十九回 京の七不思議
第三十八回 京の作庭家
第三十七回 室町文化
第三十六回 京都御所
第三十五回 京の通り
第三十四回 節分祭
第三十三回 京の七福神
第三十二回 京の狛犬
第三十一回 伏見の酒
第三十回 京ことば
第二十九回 京の文明開化
第二十八回 京の魔界
第二十七回 京の納涼床
第二十六回 夏越祓
第二十五回 葵祭
第二十四回 京の絵師
第二十三回 涅槃会
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第二十一回 京の幕末
第二十回 京の梵鐘
第十九回 京のお豆腐
第十八回 時代祭
第十七回 京の近代建築
第十六回 京のお盆行事
第十五回 京野菜
第十四回 京都の路地
第十三回 宇治茶
第十一回 京菓子の歴史
第十回 枯山水庭園の眺め方
第九回 京阪沿線 初詣ガイド
第八回 顔見世を楽しむ
第七回 特別拝観の楽しみ方
第六回 京都の着物
第五回 仏像の見方
第四回 送り火の神秘
第三回 祇園祭の楽しみ方
第二回 京の名水めぐり
第一回 池泉庭園の眺め方