京都ツウのススメ

第九十五回 鴨川

[京都の歴史とともに歩んだ鴨川] 京の人々の暮らしや文化と密接な関係であり続けてきた鴨川の歴史を、らくたびの若村亮さんがひも解きます。

京の鴨川の基礎知識

其の一、
上流域から桂川合流まで約33kmにわたり京都を縦貫する川です
其の二、
平安遷都以前から京都盆地に水の恵みをもたらしてきました
其の三、
京都の歴史の中で鴨川の存在に関係するものが多数あります

鴨川の歴史と恵み

平安遷都のはるか昔から、京都盆地に水の恵みをもたらしてきた鴨川。その名前は上流域を制していた古代の豪族・賀茂氏に由来すると言われています。中国で発展した風水の思想によると、京都は東西南北を司る神獣に守られた「四神相応の地」であり、東の守り神・青龍にあたる鴨川は平安京にとって重要な存在でした。山紫水明の都と形容される京都の「水」の部分を担ってきた鴨川は、漁場として、また生活用水や灌漑(かんがい)用水として、古来より人々の生活に欠かせない存在でした。一方、たびたび氾濫(はんらん)したため、洪水から町を守る堤防の役割をする御土居が造られるなど、防水技術の発展につながったと言われます。

鴨川が生んだ文化

安土桃山時代の頃から、鴨川河畔は芝居小屋や見世物小屋、茶店などでにぎわい、能や歌舞伎の誕生にも影響を与えたと言われています。また、江戸時代には夏に涼をとる憩いの場所として納涼床が登場。そして魚類や鳥類、植物といった生き物と人間の共存の場としても重宝されてきました。このように鴨川と京の人々には密接な関係があり、今も愛され親しまれています。

【鴨川ー歴史ロマンと現在】鴨川(上流域は賀茂川)は桟敷(さじき)ヶ岳を源流とします。出町柳で比叡山系を水脈とする高野川と出会い、桂川に合流するまで京都の中心部を流れます。この、京都の歴史に欠かせない川にまつわるエピソードをご紹介します。

  • 【1】古代の鴨川上流域
  • 【2】上賀茂神社の境内を流れる川
  • 【3】“暴れ川”の名残り
  • 【4】川床という文化
  • 【5】鴨川の水源地にある志明院(しみょういん)
  • 【6】生き物たちのオアシス
  • 【7】合流地点の三角地帯
  • 【8】出雲阿国(いずものおくに)と歌舞伎の誕生
  • 1595(文禄4)年、三条大橋近くの河原で、豊臣秀吉の甥で謀反の罪で切腹した関白・豊臣秀次の一族39人が公開処刑されました。その時鴨川は血の色に染まったと言います
【1】古代の鴨川上流域

5~6世紀頃から日本列島各地にいた豪族・賀茂氏の、京都での領域が現在の賀茂川の上流域にあったため、鴨川の名の由来になったと言われています。

【2】上賀茂神社の境内を流れる川

賀茂川の一部は上賀茂神社楼門前で御物忌(おものい)川と合流して境内を流れ、御手洗(みたらし)川、ならの小川と名を変え、さらに境外へ出ると明神川と呼ばれます。明神川沿いには風情ある社家町が広がり、各家にこの水が引き込まれています。

【3】“暴れ川”の名残り

平安時代、鴨川はたびたび氾濫しました。人々は、これを天に住む龍神の怒りととらえ、三条大橋の北東にある檀王法林寺にまつられた加茂川龍神に祈りを捧げてきました。現在は加茂川龍神立像が本堂に安置されています。

ココがツウ!

現在のように鴨川が穏やかな姿になったのは、1935(昭和10)年6月の大洪水後の河川改修からで、その時の降雨量を上回った1959(昭和34)年の大洪水では大きな被害に至りませんでした

【4】川床という文化

豊臣秀吉が三条大橋を架け替えたことで、鴨川の河原は見世物小屋などでにぎわいます。そこに、裕福な商人が客をもてなすために設けた見物席が納涼床の始まりと言われます。当時の床は、浅瀬や中洲に床几(しょうぎ)を並べたもので「河原の涼み」と呼ばれました。

明治時代の様子
【5】鴨川の水源地にある志明院(しみょういん)

650(白雉元)年に創建され、829(天長6)年に空海によって再興された志明院には、鴨川の水源となる水が湧き出る洞窟があります。歌舞伎十八番「鳴神」の舞台としても有名です。

【6】生き物たちのオアシス

カモメに似たユリカモメという白い鳥が、ロシアのカムチャツカ半島から約3,000 kmを旅して晩秋の鴨川にやって来る風景は鴨川の風物詩のひとつです。また、上流の山間部には天然記念物のオオサンショウウオが住み、雨で川の水量が増すと市内中心部でも見かけることがあります。鴨川には珍しい動物を含め、様々な生き物が生息しています。

【7】合流地点の三角地帯

賀茂川と高野川の合流地点には「鴨川デルタ」と呼ばれる三角地帯があり、市民や観光客の憩いの場になっています。亀の形をした「飛び石」と呼ばれる川面に並ぶ石は、鴨川デルタの象徴です。

ココがツウ!1650(慶安3)年頃に物流用の運河として高瀬川が開削されるまでは、現在の高瀬川から川端通までが鴨川であったとされています

【8】出雲阿国(いずものおくに)と歌舞伎の誕生

四条大橋東詰には「出雲阿国像」が鎮座します。1603(慶長8)年、阿国はここで「かぶき踊り」を披露し、これが歌舞伎の始まりと言われています。

制作:2016年2月
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