京都ツウのススメ

第三十九回 京の七不思議

[千の都に残された'フシギ'を訪ねて]京都のお寺や神社には様々な「七不思議」が伝わるのをご存じですか?長い歴史の中で語り継がれてきた七不思議をらくたびの森明子さんがご案内します。

京の七不思議の基礎知識

其の一、
場所・人物にまつわる謎めいた逸話・伝説を「七不思議」と呼びます
其の二、
京都では歴史的な場所・人物が登場する七不思議が数多く残っています
其の三、
平安時代と江戸時代に、多くの七不思議が生まれました

京都の七不思議

日本では、昔から不思議な事柄を七つ取り合わせて「七不思議」と呼ぶ習わしがありました。平安京以来、都として栄えてきた京都にも、社寺などに様々な七不思議が伝わっており、その多くは平安時代と江戸時代に誕生したと言われています。中には、歴史的事実とも言えるような、具体的な事柄が登場する七不思議も多く語り伝えられてきています。

恐れや迷信から生まれた七不思議

昔の人々は、霊的なものに対する恐れや関心を強く持っていました。疫病や戦から逃れるために造営された平安京には、都の四方に様々な魔除けを配するほどでした。また、江戸時代には、徳川家に滅ぼされた豊臣家の怨霊が恐れられ、かつて豊臣秀吉が京都を囲むように作った防壁・御土居(おどい)の周辺には数々の逸話が生まれました。理解しがたいことが起きると、そこから様々な迷信が生まれ、京都各地で「七不思議」が語り継がれてきたと考えられています。

[知恩院の七不思議]手始めに、京都でよく知られる「知恩院の七不思議」をたどってみましょう。

知恩院境内

白木の棺(しらきのひつぎ)

三門の楼上内部に置かれていた“開けずの棺”。三門建築の予算が超過した責任をとって命を絶った大工の親方夫妻の菩提を弔うため、親方自作と伝わる木像が納められています。

左甚五郎の忘れ傘(ひだりじんごろうのわすれがさ)

御影堂の軒裏にある骨だけになった唐傘。本堂建立に加わった建築彫刻の名人・左甚五郎が、魔除けのために置いたものと伝わります。他にも御影堂の建築によりすみかを失った白キツネが、知恩院の僧に新しいすみかを作ってもらい、そのお礼に傘を置いて知恩院を守ることを約束した、という説もあります。このキツネをまつった社が境内の濡髪(ぬれがみ)大明神です。

ココがツウ

傘は雨が降る時にさすもので、水と縁があることから、火災から守るものとして信じられていました

鶯張りの廊下(うぐいすばりのろうか)

御影堂から小方丈に至る約550mある廊下を歩くと、ウグイスが「ホーケキョ」と鳴くような音が出ます。静かに歩こうとするほど音を立てるので「忍び返し」とも言われ、当時の大工が侵入者を防ぐための警報装置として造ったと言われています。

ココがツウ

鶯張りの廊下の音は「法聞けよ」と聞こえるとも言われます。つまり「法(ホー)を聞け(ケキョ)」という仏教の教えとされ、これが知恩院の廊下が「長さも音色も日本一」とされる由縁です

抜け雀(ぬけすずめ)

大方丈菊の間にある狩野信政筆のふすま絵。数羽の雀が描かれていましたが、あまりの見事さに、ある日雀が生命を授かって飛び去ってしまったと伝わります。黒っぽく見える部分がその跡と言われています。

三方正面真向の猫(さんぽうしょうめんまむきのねこ)

大方丈の杉戸に描かれた猫は、どこから見てもこちらを向いて子猫を守っているように見えます。親が子を思う心のように、仏の慈悲はすべてに及ぶことを表しています。

大杓子(おおしゃくし)

大方丈入り口の廊下の梁(はり)になぜか置かれた、長さ2.5m・重さ約30kgもある巨大な杓子。杓子はご飯をよそう(すくう)物であることに掛け、仏の「すくい」が大きいことを表わしていると伝わります。

瓜生石(うりゅうせき)

黒門への登り口にある巨石。誰も植えていないのに、この石から瓜(うり)のツルが伸び、実をつけたとの伝説からこの名が付きました。知恩院建立前からあり、いん石が落ちた跡という説も。

ココがツウ

知恩院は、二条城が落城した際の第二の城として備えられていたという説から、この石を掘ると、二条城まで続く抜け道があると伝わります

その他の七不思議

清水寺

平安時代以前より信仰されてきた清水寺には、弁慶が使っていたと言われる「弁慶の鉄の下駄と錫杖(しゃくじょう)」、首が360度回る「首振地蔵」、阿吽(あうん)ではなく2体とも口を開けた「二体の阿形の狛犬」など、たくさんの不思議が伝えられています。

首振地蔵

下鴨神社

京都の古豪・賀茂氏ゆかりの下鴨神社。二つの木が途中で一つに合体した「連理の賢木(れんりのさかき)」、底から玉のような泡がわいて浮き上がる「御手洗(みたらし)川の泡」などの七不思議が伝わっています。

連理の賢木

「白木の棺」は特別公開時のみ見学可能、「抜け雀」「三方正面真向の猫」「大杓子」は御影堂・集会堂の修理工事中につき、現在見学できません。

制作:2011年6月
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