京都ツウのススメ
第百二十五回 京の学校
地域の人々も支えた
京都の小学校明治時代初期の京都には、全国でもいち早く小学校が開校しました。
その歴史的な背景をらくたびの山村純也さんが紹介します。
基礎知識
其の一、
- 1869(明治2)年、日本初の学区制小学校が京都に開設されました
其の二、
- 学区の単位は、住民の自治組織である町組(ちょうぐみ)(番組[ばんぐみ])です
其の三、
- 小学校の創設・維持費用を負担するなど、地域の人々が支えました
京都の復興は教育から
京都には江戸時代から寺子屋などの教育施設があり、子供に読み書きやそろばんを教えていました。しかし経済的な理由から通えない子供もいたため、幕末になると教育者や有力な商人などの間から「すべての子供が通える教育施設が必要」という声が上がります。明治時代に入ると、幕末の混乱による衰退からの復興を目指した京都府は、様々な政策に取り組みます。そのひとつが教育で、町衆の声も反映させ小学校建設に着手しました。
町組(番組)ごとに小学校が誕生
当時、京都の市中には室町時代の自警団に由来する自治組織「町組」がありました。1869(明治 2)年、京都府はこれを再編成して「番組」とし、番組ごとにひとつの小学校を開校することを決定。学校には役所・消防・交番などの機能を持たせ、地域住民も学校の創設・維持費用を負担することになりました。こうして同年、全国に先駆けて 64の小学校が京都に誕生しました。地域ぐるみで子供を育てる伝統は今に受け継がれています。
小学校が生まれた理由には、京都ならではの背景がありました。
教育者らの熱意
幕末、寺子屋で教えていた西谷良圃(りょうほ)らの有志は教育の重要性を説き、すべての子供が通える学校の必要性を奉行所に訴えますが、当時は受け入れられませんでした。
京都府も推進
1868(明治元)年に発足した京都府は、西谷らが提出した小学校建設構想を具体的に進めていきました。府は、町衆の意見をもとに小学校に町組の集会所を併設することも計画しました。
町組の再編成
天文年間(1532~55年)に自治組織である町組が生まれました。1869(明治2)年には京都府が、規模が均等になるよう再編成し、上京に33組、下京に32組の町組が誕生。2組でひとつの小学校を開いたところなどもあり、同年末までに64校が開校しました。
町組には番号が付けられ「番組」と呼ばれたことから、当時の小学校を「番組小学校」と呼びました。開校当初の校名はすべて「上京(下京)○番組小学校」でした
校舎や学校名、地域の支えなどについて紹介します。
小学校は
コミュニティーセンター
小学校設立前に、京都府は校舎の基本図面を製作しました。1階には男女別の筆道場(教室)と交番が、2階には地域住民も利用できる講堂や役所の機能を持つ部屋が置かれ、地域のコミュニティーセンター的な役割を兼ねていたことがわかります。
地域を見守った望火楼(ぼうかろう)
児童数の増加に伴い、どの小学校も開校後数年で改築や移転建て替えをしました。その際、設置されたのが「望火楼」(=火の見やぐら)。小学校は地域防災の役割も果たしました。
東山区の元有済(ゆうさい)小学校の屋上には、下京二十四番組小学校の望火楼があります。元番組小学校の望火楼として現存する唯一のものです
学校を支えた住民による寄付「竈金」(かまどきん)
小学校の建設費用は、京都府からの貸付金や住民の寄付などで賄われました。また、完成後に必要となる小学校の維持費は、その一部をそれぞれの町組の住民が負担。これが竈金と言われる制度で、すべての家が半年ごとに金1分(現在の2,500円相当)を負担しました。地域住民が小学校の運営を支えたことがうかがえます。
授業では日本画も勉強
1871(明治4)年、京都府は習字、算術など4科目を学ぶ独自のカリキュラムを定め、1887(明治20)年以降は図画で日本画を学ぶように。染め物、織物など伝統産業を基盤とする京都では、日本画の知識が必要とされたのです。
校名の由来は様々
1874(明治7)年頃から、小学校に“通称名”が登場します。地域名に由来する西陣小学校、平安京の町の区画名に由来する淳風(じゅんぷう)小学校など、様々な通称名がありました。
日彰(にっしょう)・成徳(せいとく)・立誠(りっせい)など、中国の古い本・漢籍に由来する小学校名も。第2代京都府知事の槇村正直によって命名されました
文化施設として今も活躍中の校舎
京都国際マンガミュージアムは、元龍池(たついけ)小学校の校舎を利用しています。ほかにも、元明倫(めいりん)小学校は京都芸術センターとして、元開智(かいち)小学校は京都市学校歴史博物館として活用されています。
資料提供:京都市学校歴史博物館、京都国際マンガミュージアム
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