京都ツウのススメ

第百十二回 京に伝わる恋物語

京都の社寺に伝わるラブストーリー 長い間、都であった京都には様々な逸話が残されています。
その中から、今でも色あせない恋物語をらくたびの田中さんが紹介します。

基礎知識

其の一、

京都には恋にまつわる様々な逸話が残されています

其の二、

長い歴史を持つ社寺は多くの恋物語の舞台になっています

其の三、

恋物語が縁結びのご利益のいわれとなった社寺もあります

京都に伝わる恋物語と社寺

平安時代以降、長きにわたって歴史の中心であった京都には、たくさんの逸話が残っています。中には恋にまつわるものも多く、その恋物語の舞台として古くからある神社やお寺がよく登場します。信仰の場所としてだけでなく、著名な人物が出家し晩年を過ごしたり、身を隠したりする特別な場所であったことなどから、様々な物語が生まれたのでしょう。

語り継がれる恋物語がご利益に

神社やお寺に伝わるご利益は、祭神や本尊のいわれに由来するのが一般的。しかし、中には長く伝えられてきた恋物語に憧れた後世の人々が神社やお寺に参拝を重ねた結果、それが縁結びのご利益として知られるようになったという社寺もあります。貴船神社もそのひとつで、参拝することによって夫と復縁したという和泉式部にあやかろうという参拝者も多いと言 います。今も色あせることのない、いにしえのラブストーリーに触れてみませんか。

恋物語舞台となった
神社お寺

古くから人々に親しまれていた社寺は、恋の舞台でもありました。

1貴船神社(きふねじんじゃ)〈左京区〉

夫の心変わりに悩んだ和泉式部

平安時代にはすでに縁結びの神社として知られていた貴船神社。夫の心変わりに悩んだ和泉式部が復縁を願って神社の結社(ゆいのやしろ)を参拝し、歌を詠んだところ、社殿の中から男性の声で慰めの返歌が聞こえてきました。その後、夫婦仲は円満になったと伝わります。

ここがツウ

本宮で授与されている「結び文」を、結社の結び処に結ぶと願いが叶うそう

2武信稲荷神社(たけのぶいなりじんじゃ)〈中京区〉

坂本龍馬の妻・おりょう

江戸時代末期、そばに牢獄があった武信稲荷神社。坂本龍馬の妻・おりょうの父がその牢獄に入っていたため、龍馬とおりょうは度々境内のエノキの木の上から父の様子をうかがっていました。その後、龍馬と離れ離れになり、龍馬の身を案じたおりょうはふたりでよく訪れた境内へ。エノキの木には龍馬の筆跡で「龍」の字が刻まれており、おりょうは龍馬が生きていることを確信、その後無事再会を果たしました。エノキは「縁の木」とも呼ばれ、木がふたりを結びつけていたのかもしれません。

縁結びの絵馬

縁結びの絵馬。
エノキの幹に手を当てて願うと思いが叶うとか

3安井金比羅宮(やすいこんぴらぐう)〈東山区〉

安井金比羅宮

7世紀、藤原鎌足が創建した藤寺が安井金比羅宮の始まり。平安時代に入って、崇徳上皇が特にかわいがっていた阿波内侍を住まわせました。上皇は、皇位継承を争う保元の乱で敗北。讃岐(現在の香川県)へ流され、この世を去りました。失意の中亡くなった上皇のため、内侍は上皇の肖像を寺に安置。崇徳上皇が、讃岐へ流されてからも、一切の欲を断ち、世の平和と内侍の幸せを祈願されていたことから、縁切りの神様として信仰されるようになりました。

平安王朝復元宮廷鵜飼

ここがツウ

境内にある「縁切り縁結び碑」。祈願すれば、病気・酒・賭け事など、男女の縁を妨げるすべての悪縁を断ち切ってくれるそうです

4隨心院(ずいしんいん)〈山科区〉

小町に思いを寄せる深草少将

平安時代、小野小町が晩年を過ごしたとされる隨心院。小町に思いを寄せる深草少将は「100夜通ったら、あなたの思いのままになります」という小町の言葉を胸に通い続けました。小町はカヤの実を糸に綴って少将が訪れた日を数えていましたが、大雪が降った99日目に少将は凍死。哀れに思った小町はカヤの実をまき、少将の死を悼みました。

小町がまいたカヤの実から芽を出したと伝わるカヤの木

ここがツウ

小町がまいたカヤの実から芽を出したと伝わるカヤの木が現在も寺の周辺に残されています

5滝口寺(たきぐちでら)〈右京区〉

花見の宴で舞う女官・横笛

小倉山を背に立つ滝口寺。平安時代末期、滝口の武士・斎藤時頼が、花見の宴で舞う女官・横笛に一目惚れをします。しかし、身分の違いから、そのことを父に叱責され出家。恋文を心待ちにしていた横笛は、いてもたってもいられず時頼を訪ねますが、時頼はすでに出家の身。ふたりが会うことはありませんでした。出家した時頼が滝口入道と名乗ったことから、寺名も滝口寺に。現在では、本堂にふたりの像が並んで安置されています。

ここがツウ

滝口寺には、南北朝時代に活躍した武将・新田義貞と妻の悲しくも激しい愛の物語も伝えられています

制作:2017年8月
バックナンバー
第百九十三回 秋の京菓子
第百九十二回 京都の植物
第百九十一回 京都の風習
第百九十回 幻の巨椋池(おぐらいけ)
第百八十九回 京都と魚
第百八十八回 京都とお花見
第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
第百八十六回 京都の地ソース
第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
第百八十三回 京都の坪庭(つぼにわ)
第百八十二回 どこまで分かる?京ことば
第百八十一回 京都の中華料理
第百八十回 琵琶湖疏水と京都
第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
第百七十八回 京都と徳川家
第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
第百七十四回 京の難読地名
第百七十三回 京の縁日
第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
第百七十一回 京都の通称寺
第百七十回 京都とキリスト教
第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
第百六十七回 京の城下町 伏見
第百六十六回 京の竹
第百六十五回 子供の行事・儀式
第百六十四回 文豪と京の味
第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
第百六十二回 京都のフォークソング
第百六十一回 京と虎、寅
第百六十回 御火焚祭
第百五十九回 鴨川の橋
第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
第百五十七回 京都とスポーツ
第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
第百五十五回 京都の喫茶店
第百五十四回 京の刃物
第百五十三回 京都の南蛮菓子
第百五十二回 京の社家(しゃけ)
第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
第百五十回 京のお雑煮
第百四十九回 京の牛肉文化
第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
第百四十七回 明治の京都画壇
第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
第百四十五回 ヴォーリズ建築
第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
第百四十三回 京の人形
第百四十二回 京の社寺と動物
第百四十一回 鳥居(とりい)
第百四十回 冬の食べ物
第百三十九回 能・狂言と京都
第百三十八回 京都と様々な物の供養
第百三十六回 京都とビール
第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
第百三十四回 精進料理
第百三十三回 明治時代の京の町
第百三十二回 皇室ゆかりの建物
第百三十一回 京の調味料
第百三十回 高瀬川
第百二十九回 蹴鞠
第百二十八回 歌舞伎
第百二十七回 京都に残るお屋敷
第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
第百二十五回 京の学校
第百二十四回 京の六地蔵めぐり
第百二十三回 京の七不思議<通り編>
第百二十二回 京都とフランス
第百二十一回 京の石仏
第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
第百十九回 生き物由来の地名
第百十八回 京都の路面電車
第百十七回 神様への願いを込めて奉納
第百十六回 京の歴食
第百十五回 曲水の宴
第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
第百十三回 パンと京都
第百十二回 京に伝わる恋物語
第百十一回 鵜飼(うかい)
第百十回 扇子(せんす)
第百九回 京の社寺と山
第百八回 春の京菓子
第百七回 幻の京都
第百六回 京の家紋
第百五回 京の門前菓子
第百四回 京の通り名
第百三回 御土居(おどい)
第百二回 文学に描かれた京都
第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
第百回 夏の京野菜
第九十九回 若冲と近世日本画
第九十八回 京の鍾馗さん
第九十七回 言いまわし・ことわざ
第九十六回 京の仏師
第九十五回 鴨川
第九十四回 京の梅
第九十三回 ご朱印
第九十二回 京の冬の食習慣
第九十一回 京の庭園
第九十回 琳派(りんぱ)
第八十九回 京の麩(ふ)
第八十八回 妖怪紀行
第八十七回 夏の京菓子
第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
第八十五回 新選組
第八十四回 京のお弁当
第八十三回 京都の湯
第八十二回 京の禅寺
第八十一回 京の落語
第八十回 義士ゆかりの地・山科
第七十九回 京の紅葉
第七十八回 京の漫画
第七十七回 京の井戸
第七十六回 京のお地蔵さん
第七十五回 京の名僧
第七十四回 京の別邸
第七十三回 糺(ただす)の森
第七十二回 京舞
第七十一回 香道
第七十回 天神さん
第六十九回 平安京
第六十八回 冬の京野菜
第六十七回 茶の湯(茶道)
第六十六回 京の女流文学
第六十五回 京の銭湯
第六十四回 京の離宮
第六十三回 京の町名
第六十二回 能・狂言
第六十一回 京の伝説
第六十回 京狩野派
第五十九回 京寿司
第五十八回 京のしきたり
第五十七回 百人一首
第五十六回 京の年末
第五十五回 いけばな
第五十四回 京の城
第五十三回 観月行事
第五十二回 京の塔
第五十一回 錦市場
第五十回 京の暖簾
第四十九回 大原女
第四十八回 京友禅
第四十七回 京のひな祭り
第四十六回 京料理
第四十五回 京の町家〈内観編〉
第四十四回 京の町家〈外観編〉
第四十三回 京都と映画
第四十二回 京の門
第四十一回 おばんざい
第四十回 京の焼きもの
第三十九回 京の七不思議
第三十八回 京の作庭家
第三十七回 室町文化
第三十六回 京都御所
第三十五回 京の通り
第三十四回 節分祭
第三十三回 京の七福神
第三十二回 京の狛犬
第三十一回 伏見の酒
第三十回 京ことば
第二十九回 京の文明開化
第二十八回 京の魔界
第二十七回 京の納涼床
第二十六回 夏越祓
第二十五回 葵祭
第二十四回 京の絵師
第二十三回 涅槃会
第二十二回 京のお漬物
第二十一回 京の幕末
第二十回 京の梵鐘
第十九回 京のお豆腐
第十八回 時代祭
第十七回 京の近代建築
第十六回 京のお盆行事
第十五回 京野菜
第十四回 京都の路地
第十三回 宇治茶
第十一回 京菓子の歴史
第十回 枯山水庭園の眺め方
第九回 京阪沿線 初詣ガイド
第八回 顔見世を楽しむ
第七回 特別拝観の楽しみ方
第六回 京都の着物
第五回 仏像の見方
第四回 送り火の神秘
第三回 祇園祭の楽しみ方
第二回 京の名水めぐり
第一回 池泉庭園の眺め方