京都ツウのススメ

第百七十一回 京都の通称寺

椿寺[地蔵院]

通称で親しまれる
京都の寺院
京都には通称で呼ばれている寺院がたくさんあり、その由来も様々です。
今回はその通称の背景を「らくたび」の谷口真由美さんがご紹介します。

基礎知識

其の一、

京都には通称で呼ばれている寺院が多くあります

其の二、

通称は京都の人々の寺院への親しみの表れだと考えられます

其の三、

呼び名の由来はいくつかに分類することができます

通称で親しまれる寺院が多数

通称とは正式名称とは異なる呼び名のこと。京都市内には約1,600の寺院がありますが、そのうちの200を超える寺院が通称で呼ばれていると言われます。通称で呼ばれる寺院は、金閣寺[鹿苑寺(ろくおんじ)]や銀閣寺[慈照寺(じしょうじ)]、三十三間堂[蓮華王院(れんげおういん)]などのような大寺院だけでなく、細い路地の奥にある小さな寺院にも多く、古くから京都の人々にとって寺院の存在がとても身近なものだったことがわかります。

由来に見られるいくつかの種類

寺院の通称について見てみると、千本通沿いに立つ千本ゑんま堂[引接寺(いんじょうじ)]のように地名から付けられた通称が多くあります。そのほかにも、まつられている仏様にちなんだものや、その寺院にまつわる史実や言い伝えから生まれたもの、花や文化財にゆかりがあるものなど、いくつかに分類することができます。今回は、通称で親しまれる寺院と、その通称が生まれた背景をご紹介しましょう。

通称寺いろいろ

寺院の通称には様々な由来があります

地名や立地にちなんで…

橋寺(はしでら)[放生院(ほうしょういん)]

宇治駅下車

橋寺(はしでら)[放生院(ほうしょういん)]

604(推古12)年、聖徳太子の発願によって創建。646(大化2)年に宇治橋が架けられた際、境内に宇治川の治水と人々の往来の安全を願う堂塔が建立されたと伝わります。それ以来、宇治橋の守護と管理を任されたことから「橋寺」と呼ばれるようになりました。

ここがツウ

境内に立つ「宇治橋断碑」は7世紀後半のものとされ、日本最古の石碑と言われます。宇治橋架橋の経緯が漢文で刻まれています

境内の草花にちなんで…

椿寺(つばきでら)[地蔵院(じぞういん)]

嵐電(京福電車)北野白梅町駅下車

椿寺(つばきでら)[地蔵院(じぞういん)]

豊臣秀吉が献木したという五色八重散椿が境内に咲くことから「椿寺」と呼ばれます。初代の椿は加藤清正が豊臣秀吉に献上したものとされ、白、赤、ピンク、絞りなどに咲き分けた後、花びらが一片一片散るのが特徴。毎年、多くの花を咲かせます。

ここがツウ

初代の椿は1983(昭和58)年に寿命のため樹齢約400年で枯れてしまい、現在のものは2代目。京都市の天然記念物に指定されています

ご利益にちなんで…

目疾地蔵(めやみじぞう)[仲源寺(ちゅうげんじ)]

祇園四条駅下車

目疾地蔵(めやみじぞう)[仲源寺(ちゅうげんじ)]

1228(安貞2)年、川の管理を担っていた防鴨河使(ぼうかし)の勢多判官中原為兼(せたのはんがんなかはらためかね)が、地蔵菩薩のお告げによって洪水を防ぐことができたことから、その地蔵菩薩を「雨止(あめやみ)地蔵」と名づけ、この地に安置しまつったことが仲源寺の起こりと伝えられています。その後「雨止」が転じて「目疾(めやみ)地蔵」となったとも言われ、眼病平癒のご利益でも知られるようになりました。

仲源寺の通称に関しては諸説あります

ここがツウ

目疾地蔵には、自らの目に眼病をうつして、ある老人の失明を救ったという言い伝えがあり、今でも目疾地蔵の右目を見ると充血しているように見えるとも言われています

伝説にちなんで…

雀寺(すずめでら)[更雀寺(きょうしゃくじ)]

叡山電車 京都精華大前駅下車

雀寺(すずめでら)[更雀寺(きょうしゃくじ)]

平安時代、歌人の藤原実方(さねかた)は同じく歌人の藤原行成(ゆきなり)と口論になり、勢い余って行成の冠を投げ捨ててしまいました。実方は左遷を命じられ、そのまま奥州(現在の東北地方)で亡くなりました。実方の死が京に伝わったちょうどその頃、雀寺の住職の夢枕に実方と名乗るスズメが現れ、京が恋しかったと言いました。翌日、境内に1羽の雀が死んでおり、住職は塚を立てて静かに葬りました。以来、寺は雀寺と呼ばれるようになったそうです。

歴史にちなんで…

不焼寺(やけずのてら)[本隆寺(ほんりゅうじ)]

出町柳駅からバス

不焼寺(やけずのてら)[本隆寺(ほんりゅうじ)]

1730(享保15)年に起こった「西陣焼け」。京都の西陣一帯を焼く大火事でしたが、本隆寺は焼けずに残ったことからこう呼ばれるようになりました。言い伝えでは、西陣焼けの時、本堂にまつられていた鬼子母人像が女性に姿を変えて現れ、本堂前の井戸水をお堂にかけたところ、たちまち火は消えたそうです。現在、本隆寺では、鬼子母人像が描かれた火難除けのお札が授与されています。

本堂は現在修復工事中

通称に思いを馳せて通称寺を巡ろう 通称に思いを馳せて通称寺を巡ろう

京都では、通称で親しまれる寺院が宗派の違いを超えて集い「通称寺の会」を結成しています。バインダー形式の公式ガイドブックがあり、通称の由来などを知りながら参拝することができます。椿寺や目疾地蔵など会参加の寺院で購入することができます。

京の通称寺
制作:2022年11月
バックナンバー
第百九十四回 京都と将棋(しょうぎ)
第百九十三回 秋の京菓子
第百九十二回 京都の植物
第百九十一回 京都の風習
第百九十回 幻の巨椋池(おぐらいけ)
第百八十九回 京都と魚
第百八十八回 京都とお花見
第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
第百八十六回 京都の地ソース
第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
第百八十三回 京都の坪庭(つぼにわ)
第百八十二回 どこまで分かる?京ことば
第百八十一回 京都の中華料理
第百八十回 琵琶湖疏水と京都
第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
第百七十八回 京都と徳川家
第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
第百七十四回 京の難読地名
第百七十三回 京の縁日
第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
第百七十一回 京都の通称寺
第百七十回 京都とキリスト教
第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
第百六十七回 京の城下町 伏見
第百六十六回 京の竹
第百六十五回 子供の行事・儀式
第百六十四回 文豪と京の味
第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
第百六十二回 京都のフォークソング
第百六十一回 京と虎、寅
第百六十回 御火焚祭
第百五十九回 鴨川の橋
第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
第百五十七回 京都とスポーツ
第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
第百五十五回 京都の喫茶店
第百五十四回 京の刃物
第百五十三回 京都の南蛮菓子
第百五十二回 京の社家(しゃけ)
第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
第百五十回 京のお雑煮
第百四十九回 京の牛肉文化
第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
第百四十七回 明治の京都画壇
第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
第百四十五回 ヴォーリズ建築
第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
第百四十三回 京の人形
第百四十二回 京の社寺と動物
第百四十一回 鳥居(とりい)
第百四十回 冬の食べ物
第百三十九回 能・狂言と京都
第百三十八回 京都と様々な物の供養
第百三十六回 京都とビール
第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
第百三十四回 精進料理
第百三十三回 明治時代の京の町
第百三十二回 皇室ゆかりの建物
第百三十一回 京の調味料
第百三十回 高瀬川
第百二十九回 蹴鞠
第百二十八回 歌舞伎
第百二十七回 京都に残るお屋敷
第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
第百二十五回 京の学校
第百二十四回 京の六地蔵めぐり
第百二十三回 京の七不思議<通り編>
第百二十二回 京都とフランス
第百二十一回 京の石仏
第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
第百十九回 生き物由来の地名
第百十八回 京都の路面電車
第百十七回 神様への願いを込めて奉納
第百十六回 京の歴食
第百十五回 曲水の宴
第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
第百十三回 パンと京都
第百十二回 京に伝わる恋物語
第百十一回 鵜飼(うかい)
第百十回 扇子(せんす)
第百九回 京の社寺と山
第百八回 春の京菓子
第百七回 幻の京都
第百六回 京の家紋
第百五回 京の門前菓子
第百四回 京の通り名
第百三回 御土居(おどい)
第百二回 文学に描かれた京都
第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
第百回 夏の京野菜
第九十九回 若冲と近世日本画
第九十八回 京の鍾馗さん
第九十七回 言いまわし・ことわざ
第九十六回 京の仏師
第九十五回 鴨川
第九十四回 京の梅
第九十三回 ご朱印
第九十二回 京の冬の食習慣
第九十一回 京の庭園
第九十回 琳派(りんぱ)
第八十九回 京の麩(ふ)
第八十八回 妖怪紀行
第八十七回 夏の京菓子
第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
第八十五回 新選組
第八十四回 京のお弁当
第八十三回 京都の湯
第八十二回 京の禅寺
第八十一回 京の落語
第八十回 義士ゆかりの地・山科
第七十九回 京の紅葉
第七十八回 京の漫画
第七十七回 京の井戸
第七十六回 京のお地蔵さん
第七十五回 京の名僧
第七十四回 京の別邸
第七十三回 糺(ただす)の森
第七十二回 京舞
第七十一回 香道
第七十回 天神さん
第六十九回 平安京
第六十八回 冬の京野菜
第六十七回 茶の湯(茶道)
第六十六回 京の女流文学
第六十五回 京の銭湯
第六十四回 京の離宮
第六十三回 京の町名
第六十二回 能・狂言
第六十一回 京の伝説
第六十回 京狩野派
第五十九回 京寿司
第五十八回 京のしきたり
第五十七回 百人一首
第五十六回 京の年末
第五十五回 いけばな
第五十四回 京の城
第五十三回 観月行事
第五十二回 京の塔
第五十一回 錦市場
第五十回 京の暖簾
第四十九回 大原女
第四十八回 京友禅
第四十七回 京のひな祭り
第四十六回 京料理
第四十五回 京の町家〈内観編〉
第四十四回 京の町家〈外観編〉
第四十三回 京都と映画
第四十二回 京の門
第四十一回 おばんざい
第四十回 京の焼きもの
第三十九回 京の七不思議
第三十八回 京の作庭家
第三十七回 室町文化
第三十六回 京都御所
第三十五回 京の通り
第三十四回 節分祭
第三十三回 京の七福神
第三十二回 京の狛犬
第三十一回 伏見の酒
第三十回 京ことば
第二十九回 京の文明開化
第二十八回 京の魔界
第二十七回 京の納涼床
第二十六回 夏越祓
第二十五回 葵祭
第二十四回 京の絵師
第二十三回 涅槃会
第二十二回 京のお漬物
第二十一回 京の幕末
第二十回 京の梵鐘
第十九回 京のお豆腐
第十八回 時代祭
第十七回 京の近代建築
第十六回 京のお盆行事
第十五回 京野菜
第十四回 京都の路地
第十三回 宇治茶
第十一回 京菓子の歴史
第十回 枯山水庭園の眺め方
第九回 京阪沿線 初詣ガイド
第八回 顔見世を楽しむ
第七回 特別拝観の楽しみ方
第六回 京都の着物
第五回 仏像の見方
第四回 送り火の神秘
第三回 祇園祭の楽しみ方
第二回 京の名水めぐり
第一回 池泉庭園の眺め方