京都ツウのススメ

第百九十六回 南座と歌舞伎

©松竹

約400年の歴史を持つ南座起源は、鴨川の四条河原に作られた芝居小屋。
およそ400 年にわたって同じ場所で歌舞伎などが上演されている
南座について「らくたび」の谷口真由美さんが紹介します。

基礎知識

其の一、

南座は歌舞伎をはじめ、多彩なジャンルの公演が行われる劇場です

其の二、

江戸時代に建てられた幕府公認の芝居小屋が起源とされています

其の三、

毎年12月の「吉例顔見世興行」は、京都の冬の風物詩です

始まりは約400年前の芝居小屋

京都の四条通に面して堂々とした佇まいを見せる南座。その起源は、江戸時代に四条河原(現在の四条大橋付近)の東に建てられた、幕府公認の7座の芝居小屋のひとつと言われます。当時、京では出雲国(いずものくに)(現島根県)の巫女(みこ)と名乗る女性・阿国(おくに)が、歌舞伎の原型となる「かぶき踊り」を披露して話題になり、これを真似た女歌舞伎の興行が行われた時代と重なります。現在、南座は歴史と伝統を受け継ぐ劇場として、歌舞伎をはじめ多彩なジャンルの公演を行っています。

京都の師走の風物詩

7座の芝居小屋のうち明治時代まで残った1座が後の南座になりました。今使われているのは1929(昭和4)年に竣工した建物です。内部は耐震改修工事が施されていますが、重厚な安土桃山風の外観は竣工当時の姿が保たれています。毎年12月には、東西の歌舞伎俳優が顔をそろえる「吉例顔見世興行」を開催。南座の正面に俳優の名前が書かれたまねき看板が並ぶ光景は、京の冬の風物詩です。

南座と歌舞伎の歴史

南座と歌舞伎の歴史

南座と深い関わりがある歌舞伎の始まりと、南座の歴史を紹介します。

歌舞伎のはじまり 歌舞伎のはじまり

歌舞伎の始祖は、出雲国出身の阿国と言われています。1603(慶長8)年に京にやって来たという記録があり、男装した阿国が披露するかぶき者(奇抜で派手な身なりや行動をする者)の踊りが話題となります。これをまねた女歌舞伎も誕生しました。

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昔、鴨川の河原は今よりも広かったそうです。四条河原や五条河原には芝居小屋が並び、興行地としてにぎわいました。四条河原で1608(慶長13)年に行われた女歌舞伎の興行には数万人が集まったとされます

写真:都名所図会「四条河原夕涼之躰(四条河原)」(一部) 国際日本文化研究センター蔵 都名所図会「四条河原夕涼之躰(四条河原)」(一部)
国際日本文化研究センター蔵

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昔、鴨川の河原は今よりも広かったそうです。四条河原や五条河原には芝居小屋が並び、興行地としてにぎわいました。四条河原で1608(慶長13)年に行われた女歌舞伎の興行には数万人が集まったとされます

幕府公認の芝居小屋 幕府公認の芝居小屋

元和年間(1615 ~ 24年)、京都所司代・板倉勝重が常設の芝居小屋を認め、四条通の南側に3座、北側に2座、大和大路通に2座の計7座が立てられました。

明治時代に今の「南座」のみに 明治時代に今の「南座」のみに

7 座あった芝居小屋は、火事で焼失するなどして次第に減少。文化・文政年間(1804~30年)には、四条通の南北に1座ずつとなりました。明治時代、四条通の拡張で北側の1座が廃座になり、南側の1座のみに。南座と呼ばれるようになったのは、明治時代中期からと言われます。

南座案内

南座案内

南座の見どころを、様々な角度から紹介します。

写真:南座の見どころを、様々な角度から紹介します。

幕府公認の証 櫓(やぐら) 幕府公認の証 櫓(やぐら)

江戸時代、幕府公認の芝居小屋には、その証明として正面に櫓が掲げられていました。現在の南座の屋根の上にも櫓があり、毎年、「吉例顔見世興行」の時期に新調されます。

写真:南座の屋根の上の櫓

京都に師走を告げる まねき看板 京都に師走を告げる まねき看板

「吉例顔見世興行」を前に、南座の正面には、俳優の名前と紋が記されたまねき看板が飾られます。まねき看板は、長さが約1m80cm、幅が約30cmのヒノキの一枚板。縁起の良い勘亭流(かんていりゅう)という太い文字で、大入り満員になるように願いを込めて隙間なく書かれています。

写真:まねき看板

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南座の正面玄関にある大提灯も、「吉例顔見世興行」に合わせて毎年新調されます。江戸時代から続く京提灯の老舗・小嶋商店(東山区)が、骨組となる竹を組み上げ、厚めの和紙を張り付ける伝統の地張り式という製法で作ります

写真:南座の正面玄関にある大提灯

かつての芝居小屋から受け継ぐ 唐破風(からはふ)の屋根 かつての芝居小屋から受け継ぐ 唐破風(からはふ)の屋根

舞台の上には唐破風という屋根が架けられています。これは昔、芝居が屋外で行われ、舞台の上に屋根があったことの名残りです。また、客席は桟敷(さじき)席という一部の席にのみ屋根があり、多くの観客は屋根のない地面(芝生)に座って鑑賞したことから「芝居」という言葉が生まれたと言われています。

写真:唐破風の屋根

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桟敷席はかつての芝居小屋にもあった特別な観覧席です。12月の「吉例顔見世興行」では、正装した芸妓・舞妓が桟敷席で観劇する花街総見があります

和洋が融合 モダンな意匠 和洋が融合 モダンな意匠

建物正面の重厚な大屋根や、客席の折り上げ格天井(ごうてんじょう)には日本の伝統的な建築様式が見られます。玄関やロビーには、昭和初期から使われているモダンな照明があり、和洋が調和した格調高い空間も見どころのひとつです。

写真:建物正面玄関

もうひとつの楽しみ 幕間のお弁当

幕間のお弁当

「幕の内弁当」が芝居の幕と幕の合間(幕のうち)に食べることから名付けられたように、観劇の楽しみのひとつが弁当。南座でも、観劇の合間に食べられる弁当が販売されているほか、予約制で南座まで弁当を届けてくれる飲食店もあります。

制作:2024年12月
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第五十一回 錦市場
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第四十三回 京都と映画
第四十二回 京の門
第四十一回 おばんざい
第四十回 京の焼きもの
第三十九回 京の七不思議
第三十八回 京の作庭家
第三十七回 室町文化
第三十六回 京都御所
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第三十四回 節分祭
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第三十二回 京の狛犬
第三十一回 伏見の酒
第三十回 京ことば
第二十九回 京の文明開化
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第二十六回 夏越祓
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第十八回 時代祭
第十七回 京の近代建築
第十六回 京のお盆行事
第十五回 京野菜
第十四回 京都の路地
第十三回 宇治茶
第十一回 京菓子の歴史
第十回 枯山水庭園の眺め方
第九回 京阪沿線 初詣ガイド
第八回 顔見世を楽しむ
第七回 特別拝観の楽しみ方
第六回 京都の着物
第五回 仏像の見方
第四回 送り火の神秘
第三回 祇園祭の楽しみ方
第二回 京の名水めぐり
第一回 池泉庭園の眺め方