京都ツウのススメ
第百五十二回 京の社家(しゃけ)
神社に仕えた社家とその屋敷上賀茂では、代々神社に仕えた家柄である社家が門前に屋敷を構えました。社家やその屋敷について、らくらびの谷口真由美さんが解説します。
基礎知識
其の一、
- 代々神社に仕えてきた世襲制の家柄を社家と言います
其の二、
- 京都の上賀茂神社近くには社家の屋敷が集まった社家町があります
其の三、
- 社家町は上賀茂神社から流れる明神川沿いに形成されました
明神川沿いに広がる社家町
社家とは、代々神社に仕えてきた世襲制の家柄のことです。社家が住まいを構えた屋敷町は「社家町」と言われ、京都では上賀茂神社の南東側に社家の人々が暮らした屋敷が残されています。上賀茂神社の境内から流れる明神川沿いに立ち並ぶ社家の中には、この明神川の水を取り入れた庭園もあります。清らかな水を流すことで邸内と心身を清浄に保ち、神様に奉仕したと考えられます。
上賀茂の歴史に触れられる町並み
上賀茂の社家町は室町時代に形成され、17世紀後半には200戸ほどがあったと言われています。1871(明治4)年に社家の世襲制が廃止され、屋敷も徐々に減少。現在残る社家の屋敷は所有者が変わったところも含め、30戸ほどとなりました。明神川に架かる小橋や、敷地を囲む土塀、土塀越しに見える屋敷の樹木などが落ち着いた雰囲気を醸し出すこの辺りは国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定。京都でもここでしか見ることのできない貴重な景観となっています。
清らかな流れに沿って、
静かな町並みが広がっています。
社家の歴史
社家とは
神社に代々仕えてきた世襲制の家柄で、上賀茂神社では「賀茂県主(あがたぬし)」を名乗る一族が奉仕しました。また神主などを務めた七家を「賀茂七家」と言います。
社家町の形成
上賀茂に社家の町並みが作られたのは室町時代と言われ、社家と農家が混在していました。17世紀後半には人口2,800人余りの大きな門前集落が形成されていたそうです。
建物の特徴
屋敷は上賀茂神社の鳥居よりも高くならないよう、平屋や低めの2階建てに設計されたそうです。敷地が土塀に囲まれていることもあり、通りからは屋敷全体の姿を見ることができません。
かつて、社家町は下鴨神社の周辺にもありました。その1軒である旧浅田家住宅を改修した「鴨社資料館 秀穂舎(しゅうすいしゃ)」では、社家の日常生活を復元した常設展示などを見ることができます
境内の清流が明神川に
上賀茂神社の境内を流れる御手洗川(みたらしがわ)と御物忌川(おものいがわ)は合流して「ならの小川」となり、境内を出た後、東方向への流れが「明神川」となります。社家町はこの川に沿って広がっています。
本殿の東から流れる御物忌川
明神川の水を敷地内に引き込んだ屋敷もあります。清らかな水は、庭園に使われたほか心身を清めるみそぎにも用いられました
クスノキは社家町のシンボル
明神川がやや南東へと流れを変える所には、上賀茂神社の末社・藤木社がまつられています。社殿の後方に見えるクスノキは樹齢約500年と言われる巨木。そばには社家の人の集会所がありました。
清浄に保たれた川
屋敷の庭を潤した水は清らかなまま明神川へ戻され、その後下流の農業用水にも使われました。その一方、屋敷の生活用水として使われた水は川には戻さず、敷地内の専用の井戸に流し明神川の清浄を保ちました。
京野菜の「すぐき菜」は、安土桃山時代に上賀茂の社家が栽培を始めたと言われています。また、すぐきと塩から作られる特産の漬物「すぐき漬け」は、江戸時代には初夏の贈答品として社家から公家などに贈られていたそうです
社家の屋敷の特徴
社家の屋敷は土塀に囲まれ、入口に門があります。また主屋の壁には、柱などを縦横に組み合わせた装飾が見られるのも特徴です。玄関は、客人のための玄関・式台と、内玄関のふたつが設けられました。
見学できる社家の屋敷
井関家住宅
かつて上賀茂神社に仕えていた井関家の屋敷は、内玄関の鴨居が鳥居のような形になっているなど社家ならではの造り。通りから見える望楼は明治時代に増築されたもの。事前予約で見学可。
梅辻家住宅
賀茂七家で唯一現存する屋敷。伝統的な社家の建物に、移築したと伝わる御所の学問所が付け加えられています。年1〜2回特別公開されるほか、事前予約で見学可。
梅辻家住宅
- 第百九十五回 京都の巨木
- 第百九十四回 京都と将棋(しょうぎ)
- 第百九十三回 秋の京菓子
- 第百九十二回 京都の植物
- 第百九十一回 京都の風習
- 第百九十回 幻の巨椋池(おぐらいけ)
- 第百八十九回 京都と魚
- 第百八十八回 京都とお花見
- 第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
- 第百八十六回 京都の地ソース
- 第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
- 第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
- 第百八十三回 京都の坪庭(つぼにわ)
- 第百八十二回 どこまで分かる?京ことば
- 第百八十一回 京都の中華料理
- 第百八十回 琵琶湖疏水と京都
- 第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
- 第百七十八回 京都と徳川家
- 第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
- 第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
- 第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
- 第百七十四回 京の難読地名
- 第百七十三回 京の縁日
- 第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
- 第百七十一回 京都の通称寺
- 第百七十回 京都とキリスト教
- 第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
- 第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
- 第百六十七回 京の城下町 伏見
- 第百六十六回 京の竹
- 第百六十五回 子供の行事・儀式
- 第百六十四回 文豪と京の味
- 第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
- 第百六十二回 京都のフォークソング
- 第百六十一回 京と虎、寅
- 第百六十回 御火焚祭
- 第百五十九回 鴨川の橋
- 第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
- 第百五十七回 京都とスポーツ
- 第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
- 第百五十五回 京都の喫茶店
- 第百五十四回 京の刃物
- 第百五十三回 京都の南蛮菓子
- 第百五十二回 京の社家(しゃけ)
- 第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
- 第百五十回 京のお雑煮
- 第百四十九回 京の牛肉文化
- 第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
- 第百四十七回 明治の京都画壇
- 第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
- 第百四十五回 ヴォーリズ建築
- 第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
- 第百四十三回 京の人形
- 第百四十二回 京の社寺と動物
- 第百四十一回 鳥居(とりい)
- 第百四十回 冬の食べ物
- 第百三十九回 能・狂言と京都
- 第百三十八回 京都と様々な物の供養
- 第百三十六回 京都とビール
- 第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
- 第百三十四回 精進料理
- 第百三十三回 明治時代の京の町
- 第百三十二回 皇室ゆかりの建物
- 第百三十一回 京の調味料
- 第百三十回 高瀬川
- 第百二十九回 蹴鞠
- 第百二十八回 歌舞伎
- 第百二十七回 京都に残るお屋敷
- 第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
- 第百二十五回 京の学校
- 第百二十四回 京の六地蔵めぐり
- 第百二十三回 京の七不思議<通り編>
- 第百二十二回 京都とフランス
- 第百二十一回 京の石仏
- 第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
- 第百十九回 生き物由来の地名
- 第百十八回 京都の路面電車
- 第百十七回 神様への願いを込めて奉納
- 第百十六回 京の歴食
- 第百十五回 曲水の宴
- 第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
- 第百十三回 パンと京都
- 第百十二回 京に伝わる恋物語
- 第百十一回 鵜飼(うかい)
- 第百十回 扇子(せんす)
- 第百九回 京の社寺と山
- 第百八回 春の京菓子
- 第百七回 幻の京都
- 第百六回 京の家紋
- 第百五回 京の門前菓子
- 第百四回 京の通り名
- 第百三回 御土居(おどい)
- 第百二回 文学に描かれた京都
- 第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
- 第百回 夏の京野菜
- 第九十九回 若冲と近世日本画
- 第九十八回 京の鍾馗さん
- 第九十七回 言いまわし・ことわざ
- 第九十六回 京の仏師
- 第九十五回 鴨川
- 第九十四回 京の梅
- 第九十三回 ご朱印
- 第九十二回 京の冬の食習慣
- 第九十一回 京の庭園
- 第九十回 琳派(りんぱ)
- 第八十九回 京の麩(ふ)
- 第八十八回 妖怪紀行
- 第八十七回 夏の京菓子
- 第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
- 第八十五回 新選組
- 第八十四回 京のお弁当
- 第八十三回 京都の湯
- 第八十二回 京の禅寺
- 第八十一回 京の落語
- 第八十回 義士ゆかりの地・山科
- 第七十九回 京の紅葉
- 第七十八回 京の漫画
- 第七十七回 京の井戸
- 第七十六回 京のお地蔵さん
- 第七十五回 京の名僧
- 第七十四回 京の別邸
- 第七十三回 糺(ただす)の森
- 第七十二回 京舞
- 第七十一回 香道
- 第七十回 天神さん
- 第六十九回 平安京
- 第六十八回 冬の京野菜
- 第六十七回 茶の湯(茶道)
- 第六十六回 京の女流文学
- 第六十五回 京の銭湯
- 第六十四回 京の離宮
- 第六十三回 京の町名
- 第六十二回 能・狂言
- 第六十一回 京の伝説
- 第六十回 京狩野派
- 第五十九回 京寿司
- 第五十八回 京のしきたり
- 第五十七回 百人一首
- 第五十六回 京の年末
- 第五十五回 いけばな
- 第五十四回 京の城
- 第五十三回 観月行事
- 第五十二回 京の塔
- 第五十一回 錦市場
- 第五十回 京の暖簾
- 第四十九回 大原女
- 第四十八回 京友禅
- 第四十七回 京のひな祭り
- 第四十六回 京料理
- 第四十五回 京の町家〈内観編〉
- 第四十四回 京の町家〈外観編〉
- 第四十三回 京都と映画
- 第四十二回 京の門
- 第四十一回 おばんざい
- 第四十回 京の焼きもの
- 第三十九回 京の七不思議
- 第三十八回 京の作庭家
- 第三十七回 室町文化
- 第三十六回 京都御所
- 第三十五回 京の通り
- 第三十四回 節分祭
- 第三十三回 京の七福神
- 第三十二回 京の狛犬
- 第三十一回 伏見の酒
- 第三十回 京ことば
- 第二十九回 京の文明開化
- 第二十八回 京の魔界
- 第二十七回 京の納涼床
- 第二十六回 夏越祓
- 第二十五回 葵祭
- 第二十四回 京の絵師
- 第二十三回 涅槃会
- 第二十二回 京のお漬物
- 第二十一回 京の幕末
- 第二十回 京の梵鐘
- 第十九回 京のお豆腐
- 第十八回 時代祭
- 第十七回 京の近代建築
- 第十六回 京のお盆行事
- 第十五回 京野菜
- 第十四回 京都の路地
- 第十三回 宇治茶
- 第十一回 京菓子の歴史
- 第十回 枯山水庭園の眺め方
- 第九回 京阪沿線 初詣ガイド
- 第八回 顔見世を楽しむ
- 第七回 特別拝観の楽しみ方
- 第六回 京都の着物
- 第五回 仏像の見方
- 第四回 送り火の神秘
- 第三回 祇園祭の楽しみ方
- 第二回 京の名水めぐり
- 第一回 池泉庭園の眺め方