京都ツウのススメ

第百九十五回 京都の巨木

京の街や人々を見守ってきた巨木立派な姿を仰ぎ見るだけで神聖さを感じる巨木には、
それぞれに由緒やご利益が秘められています。
京都の巨木を、らくたびの森明子さんがご紹介します。

基礎知識

其の一、

京都の社寺に昔から生育する樹木には、巨木となって残るものがあります

其の二、

神社では巨木や老木を、神様が降臨し宿るとされる「御神木(ごしんぼく)」としています

其の三、

巨木の中には、伝説やご利益があると言われる木もあります

街なかの社寺で見られる巨木

京都には、数百年前に建てられた古い神社や寺院がたくさんあり、その中には幹の周囲が3mを超えるような巨木が境内に残る社寺もあります。神社ではゆかりのある巨木やその地に自生していた老木を、神様が宿る「御神木」として大切にしています。御神木には注連縄(しめなわ)がかけられており、神聖なものとされています。中でも高さが約53mもあるという由岐(ゆき)神社の大杉など、巨木にかけられる注連縄は、御神木の神々しさを際立たせています。

ご利益や伝説があるという巨木も

巨木には、太い幹から8本に分かれて幹が広がる珍しい姿が、末広がりを連想し縁起が良いとされるクロガネモチや、1788(天明8)年に京の都を襲った「天明(てんめい)の大火」で人々を守ったというイチョウなど、ご利益や伝説を持つものがあります。また、巨木が何本も生育している下鴨神社[賀茂御祖(かもみおや)神社]の「糺(ただす)の森」は、今も太古の自然を感じる原生林として知られています。

社寺の巨木

京都の社寺には大きな木や老木が多く、神様が宿る御神木や崇高な存在として大切にされています。何百年もの長い年月、京の歴史を見守ってきた巨木の荘厳な姿、ご利益や伝説などを見てみましょう。

名木大クスノキ 名木大クスノキ

親鸞聖人しんらんしょうにんお手植えの大クスノキ

円山公園から平安神宮へと続く神宮道沿いにある、白い塀の前に大クスノキが3本並ぶ光景は、青蓮院のシンボルになっています。青蓮院は親鸞聖人が出家して僧侶になった寺院で、大クスノキは親鸞聖人が植えたと伝わります。

  • 種類:クスノキ
  • 樹齢:推定約800年
  • 幹周:約6m・高さ:約26m

写真:親鸞聖人お手植えの大クスノキ

ここがツウ

青蓮院の大クスノキは、文豪・川端康成と日本画の巨匠・東山魁夷が認めた巨木。川端の薦めで東山は、この木を題材に「年経る樹」という絵を描きました

写真:青蓮院の大クスノキ

火伏せのイチョウ 火伏せのイチョウ

水を噴いて人々を救った伝説の木

1582( 天正10 )年の本能寺の変の後、元の本能寺から移されたと伝わるイチョウ。「天明の大火」で市中が猛火に襲われた時、水を噴き出し人々を救ったという伝説が残ります。

  • 種類:イチョウ
  • 樹齢:伝承 400 年以上
  • 幹周:約3.9m・高さ:約18.4m

写真:火伏せのイチョウ

ここがツウ

同じ種類の樹木でも、言い伝えやご利益が異なります。「御金(みかね)神社」[中京区]の御神木のイチョウは、葉形が「末広がり」、黄色い葉が「金運」を表し縁起が良いとされます

写真:「御金(みかね)神社」[中京区]の御神木のイチョウ

御神木 もちの木 御神木 もちの木

1本の幹から8本の幹が広がる

天に向かって手を広げたような珍しい樹形が、縁起が良いとされています。もちの木の前にある霊石「岩神(いわがみ)さん」をさすった手で、体の悪いところをなでると治るとの言い伝えも。

  • 種類:クロガネモチ
  • 樹齢:約400年
  • 幹周:約2.4m・高さ:約11m

写真:御神木 もちの木

御神木 大杉 御神木 大杉

地元の人から「大杉さん」と呼ばれ、親しまれる御神木

本殿へと続く石段横の大杉は、別名を願掛け杉と言います。「一心に願えば、願い事がかなう」とされ、大杉の下にある「大杉社」にお参りし祈願する習わしです。大杉の分身として、樹皮で作った御守りが授与されています。

  • 種類:スギ
  • 樹齢:約800年
  • 幹周:約6.4m・高さ:約53m

写真:御神木 大杉

写真:樹皮で作った御守り

下鴨神社「糺の森」の巨木

太古の原生林が残ると言われる下鴨神社の「糺の森」。歴史を経てきた巨木を探しつつ、古の森の姿に思いを馳せながら歩いてみませんか?

かつて糺の森には、主にムクノキ・ケヤキ・エノキなどの落葉広葉樹で構成される「山城原野(やましろげんや)」が広がっていました。この一帯には現在も山城原野の樹種が自生しているため、「太古の自然を遺す森」と言われています。

写真:下鴨神社「糺の森」の巨木

ここがツウ

下鴨神社の南口鳥居前の御手洗(みたらし)に御神水を注ぐでこぼこした樋(とい)は、「糺の森の主」と呼ばれていた樹齢約600年のケヤキの一部が使われています

写真:下鴨神社の南口鳥居前の御手洗に御神水を注ぐでこぼこした樋

制作:2024年11月
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第百九十五回 京都の巨木
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第百九十三回 秋の京菓子
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第百九十一回 京都の風習
第百九十回 幻の巨椋池(おぐらいけ)
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第百八十八回 京都とお花見
第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
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第四十五回 京の町家〈内観編〉
第四十四回 京の町家〈外観編〉
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第四十二回 京の門
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第四十回 京の焼きもの
第三十九回 京の七不思議
第三十八回 京の作庭家
第三十七回 室町文化
第三十六回 京都御所
第三十五回 京の通り
第三十四回 節分祭
第三十三回 京の七福神
第三十二回 京の狛犬
第三十一回 伏見の酒
第三十回 京ことば
第二十九回 京の文明開化
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第二十六回 夏越祓
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第二十四回 京の絵師
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第十八回 時代祭
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第十六回 京のお盆行事
第十五回 京野菜
第十四回 京都の路地
第十三回 宇治茶
第十一回 京菓子の歴史
第十回 枯山水庭園の眺め方
第九回 京阪沿線 初詣ガイド
第八回 顔見世を楽しむ
第七回 特別拝観の楽しみ方
第六回 京都の着物
第五回 仏像の見方
第四回 送り火の神秘
第三回 祇園祭の楽しみ方
第二回 京の名水めぐり
第一回 池泉庭園の眺め方