京都ツウのススメ

第百七十四回 京の難読地名

京大繪圖:新撰増補 部分
国際日本文化研究センター蔵

名前の由来に隠れた京の歴史京都の町では不思議な地名・町名がそこかしこに見られます。読み方と由来について、らくたびの森明子さんがご紹介します。

基礎知識

其の一、

京都には歴史や伝説などに由来する地名・町名が数多く残っています

其の二、

古くから呼び続けられるうちに、読み方が変化したものもあります

其の三、

土地のいわれや社寺などを由来とする個性的な名称も生まれました

地名をたどれば歴史が見えてくる

歴史を重んじる京都では、昔ながらの地名・町名を大切にしています。そのため、変更されることはほとんどなく、古くは平安時代から呼び名が変わらない地名もあります。普段何気なく使っている名称は、名付けられた時代や由来などが様々で、その背景に隠れている歴史や伝説、言い伝えなどを探ってみるのも京都散策の醍醐味のひとつです。

古くからある難読な地名も多数

例えば、五条大橋南西にある都市町(といちちょう)は、平安遷都の翌年、東市・西市のふたつの市座(常設市場)が開設され、市比賣(いちひめ)神社の御旅所(おたびしょ)があったことが由来になりました。左京区の曼殊院(まんしゅいん)と修学院離宮の間から比叡山へと向かう山道・雲母坂(きららざか)は、「都から見ると、この坂から雲が生じているように見える」ということが由来として有名です。サイカチの大木があったことに由来する上京区の皀莢町(さいかちちょう)、名水の井戸「佐女牛井(さめがい)」を由来とする醒ヶ井(さめがい)通など、ほかにもたくさんある難読名称や個性的な名称。京都を歩く際には、地名・町名にも目を向けて楽しんでみては。

読みが難しい 難読地名

帷子ノ辻

かたびらのつじ(右京区)

嵐電(京福電車)の駅名でもあるこの地名の由来は、洛中から嵯峨・太秦(うずまさ)・常盤(ときわ)など北側へと続く道だけで片側一方への道しかなかったことから「片ひら→かたびら」と名付けられた説や、嵯峨天皇の妻・檀林(だんりん)皇后の葬送の際、棺に被せていた帷子が風にあおられて舞い落ちた場所である説があります。

柊野

ひらぎの(北区)

上賀茂神社の北、賀茂川左岸付近の地名。昔、ヒイラギが生い茂っていたことに由来すると言います。

不明門通

あけずどおり(下京区)

烏丸通と東洞院通の間にある、塩小路通から松原通までの道。南から進むと、平等寺(因幡薬師)に突き当たり、常に門が閉ざされていたことから通りの名前に。

不明門通

ここがツウ

当時、平等院が門を閉ざしていた理由は、源平争乱の際、寺のすぐ南の東五条院に高倉天皇の邸宅があったことに配慮して門を開けなかったからと言われています。現在は毎日開いています

御陵

みささぎ(山科区)、ごりょう(西京区)

地下鉄東西線の御陵(みささぎ)駅で知られるこの地名は、第38代天智天皇の墓・山科陵があることが由来と伝わっています。西京区にも「御陵」という地名があり、こちらは“ごりょう”。桓武天皇の母・高野新笠(たかののにいがさ)の墓があるからとされます。

笋町

たかんなちょう(中京区)

四条烏丸の北には、京都で最も難読町名として名高い笋町があります。笋とはタケノコの古い呼び方で、祇園祭の孟宗山(もうそうやま)(孟宗という人が、病気の母親のために真冬の雪の中でタケノコを掘り当てたという中国の故事にちなむ)の鉾町であることが由来です。

インパクト大 個性的な町名

悪王子町

あくおうじちょう(下京区)

悪王子とは力強いという意味。昔、スサノオノミコトの荒魂(あらみたま)をまつる悪王子社があったことに由来します。

ここがツウ

悪王子社は、最初は四条烏丸南東の「元悪王子町」にありました。その後、五条烏丸北の「悪王子町」に移され、さらに数回移転して現在は八坂神社境内に置かれています

悪王子町

元悪王子町に立つ碑

閻魔前町

えんままえちょう(上京区)

千本ゑんま堂の通称で知られる引接寺(いんじょうじ)。その名の通り、閻魔法王を本尊とする寺の門前にあることが町名の由来です。

天使突抜

てんしつきぬけ(下京区)

天使とは五條天神宮のことを指し、昔から「お天使さん」と呼ばれています。豊臣秀吉による都の都市改造において、境内を突き抜ける南北の道が造られました。京の人々は、「お天使さん」を突き抜けて造ったその道を「天使突抜通」と呼び、現在は町名にもなっています。

天使突抜

ここがツウ

東中筋通を挟んだ、北は松原通から南は花屋町通までが、天使突抜一丁目~四丁目。当時の境内の広大さが分かります

二帖半敷町

にじょうはんじきちょう(上京区)

四条烏丸の南にあるこの町名の由来のひとつは、かつてここにあった五条寺を、住職がふたりの弟子に半分ずつ分けて与えたという説。五条を五畳になぞらえ、半分に分けた→二畳半→二帖半敷となりました。もうひとつの説は、五畳の広さの家を、兄と弟のふたりで分けたというもの。どちらも「五畳を半分に分けた」という点で一致しています。

菅大臣町

かんだいじんちょう(上京区)

西洞院通と高辻通の北東にある菅原道真生誕の地で、町全体が菅原家の邸宅跡の一部。ゆかりの神社もあり、仏光寺通を挟んで、北にある北菅大臣社は紅梅殿とも菅原御所とも呼ばれた場所。南の菅大臣社は道真の白梅殿跡に創建されました。

※由来には諸説あります

制作:2023年2月
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