京都ツウのススメ

第百二回 文学に描かれた京都

[京都を舞台にした文学の世界] 平安時代の古典文学に始まり現代文学まで、京都を舞台にした作品は数多くあります。京都ゆかりの文学の世界をらくたびの若村亮さんが案内します。

文学に描かれた京都の基礎知識

其の一、
平安時代の文学作品は、貴族の暮らしを描いたものがほとんどでした
其の二、
京都を舞台にした物語には、魅力ある名所や行事などが多数登場します
其の三、
京都生まれや京都の大学出身の作家によって多くの名作が誕生しています

名作に登場する京都

京都に都が置かれた平安時代、紫式部の「源氏物語」や清少納言の「枕草子」に代表されるように、平安京の貴族社会を描いた文学が誕生しました。その後登場する京都を舞台にした文学作品には、各時代の町並みや暮らし、娯楽、伝統行事などに加え、美しい四季が情緒豊かに表現されています。また、歴史やミステリー、純文学など様々なジャンルにおいて京都が舞台となる作品が発表され、その中には時代や性別問わず支持され続ける名作がいくつもあります。

作家たちを魅了する京都

京都は社寺や年中行事など作品の舞台や題材となる要素が多く、文豪・川端康成も、京都の暮らしと四季の移ろいを好み、下鴨に家を借りて執筆したと言われています。また、京都の大学へ進学した他府県出身の作家が、学生時代の経験が執筆活動に影響を与えていると語っており、京都は想像力をかき立てる場所のようです。実在する京都の店や名所、行事などを書いた内容が読者の心を引きつけています。

[京都・文学散歩] 物語とともに京都の様々な名所を楽しみましょう。

京都を舞台にした小説の中から、地元の人に読んで欲しいと思うものを、書店スタッフと読者の投票で決定する「京都本大賞」。過去には森見登美彦著「聖なる怠け者の冒険」が受賞

純文学【1】[古都]川端康成(かわばたやすなり) 著 新潮社文庫

老舗呉服商のひとり娘が、偶然村で見かけた自分とそっくりな娘と、祇園祭の夜に再び出会います。自分たちが双子の姉妹だと知り、互いに心を通わせ、親しみを感じますが同じ屋根の下で暮らせないふたり。そんな姿が幼なじみとの恋愛を通じて切なく描かれています。

双子の姉妹が祇園祭での再会シーン

著者が執筆期間中の記憶をなくしてしまうほどの精神状態で書き上げた作品。自身の思い入れも強く、交流のあった佐々木酒造の酒に作品名を進呈しました

青春物語【2】[鴨川ホルモー]万城目学(まきめまなぶ) 著 角川文庫

2浪して京都大学へ入り、怪しげなサークルから勧誘された主人公。その中にいた女の子に一目ぼれして入部するも、そこはオニたちを操り戦わせる「ホルモー」という競技をする一風変わったサークルでした。個性あふれる仲間たちを中心とした大学生活を描いた青春ファンタジー小説。京都市内の大学や吉田神社、鴨川デルタなどが登場します。

主人公たちが所属するサークルの儀式が行われた吉田神社

主人公が葵祭で牛車を引く場面がありますが、実際に京都の大学では祭りの行列に参加するアルバイトの募集が行われます

ミステリー【3】[江神二郎の洞察]有栖川有栖(ありすがわありす) 著 創元クライム・クラブ

大学の推理小説研究会のメンバーが様々な事件を解決する短編集。主人公たちが通う大学は、作者の出身校・同志社大学をモデルにするなど、京都を意識した設定。また、ペンネームの有栖川は、大学のそばにある有栖川宮旧邸跡から名付けたそうです。

主人公たちが通う大学のモデルとなった同志社大学

歴史小説【4】[利休にたずねよ]山本兼一(やまもとけんいち) 著 PHP文芸文庫

天下一の茶人として名をはせた千利休。豊臣秀吉の参謀としても力を発揮し、天下取りを後押ししますが、後にふたりは対立。利休が理不尽な罪状で切腹するまでの生涯を描いた長編小説で、大徳寺や北野天満宮などが登場します。直木賞受賞作。

北野大茶会が催された北野天満宮

令嬢が事件解決に挑むミステリー【5】[花の棺]山村美紗(やまむらみさ) 著 光文社文庫

アメリカ副大統領の令嬢が、お茶や生花など日本文化を学びながら推理するシリーズの1作目。京都を舞台とした数多くの作品を発表した作者は、ミステリーの女王と呼ばれています。

祇園に生きる女性たちを描く【6】[京まんだら]瀬戸内晴美(せとうちはるみ) 著 講談社文庫

1970年代の京都・祇園が舞台。美しい四季を背景に、芸舞妓やお茶屋の女将などを中心とした人間模様を京都独自の文化とともに垣間見ることができる名作。京阪電車も登場します。

京都に暮らす大学生の恋物語【7】[夜は短し歩けよ乙女]森見登美彦(もりみとみひこ) 著 角川文庫

黒髪の美しい後輩に片思いした主人公が、偶然を装い出会いを演出しようとするも、進展しないふたりの関係を描いた作品。木屋町のバーや、京大近くのパン屋など実在するお店がいくつも登場します。

制作:2016年10月
バックナンバー
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第百九十四回 京都と将棋(しょうぎ)
第百九十三回 秋の京菓子
第百九十二回 京都の植物
第百九十一回 京都の風習
第百九十回 幻の巨椋池(おぐらいけ)
第百八十九回 京都と魚
第百八十八回 京都とお花見
第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
第百八十六回 京都の地ソース
第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
第百八十三回 京都の坪庭(つぼにわ)
第百八十二回 どこまで分かる?京ことば
第百八十一回 京都の中華料理
第百八十回 琵琶湖疏水と京都
第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
第百七十八回 京都と徳川家
第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
第百七十四回 京の難読地名
第百七十三回 京の縁日
第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
第百七十一回 京都の通称寺
第百七十回 京都とキリスト教
第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
第百六十七回 京の城下町 伏見
第百六十六回 京の竹
第百六十五回 子供の行事・儀式
第百六十四回 文豪と京の味
第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
第百六十二回 京都のフォークソング
第百六十一回 京と虎、寅
第百六十回 御火焚祭
第百五十九回 鴨川の橋
第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
第百五十七回 京都とスポーツ
第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
第百五十五回 京都の喫茶店
第百五十四回 京の刃物
第百五十三回 京都の南蛮菓子
第百五十二回 京の社家(しゃけ)
第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
第百五十回 京のお雑煮
第百四十九回 京の牛肉文化
第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
第百四十七回 明治の京都画壇
第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
第百四十五回 ヴォーリズ建築
第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
第百四十三回 京の人形
第百四十二回 京の社寺と動物
第百四十一回 鳥居(とりい)
第百四十回 冬の食べ物
第百三十九回 能・狂言と京都
第百三十八回 京都と様々な物の供養
第百三十六回 京都とビール
第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
第百三十四回 精進料理
第百三十三回 明治時代の京の町
第百三十二回 皇室ゆかりの建物
第百三十一回 京の調味料
第百三十回 高瀬川
第百二十九回 蹴鞠
第百二十八回 歌舞伎
第百二十七回 京都に残るお屋敷
第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
第百二十五回 京の学校
第百二十四回 京の六地蔵めぐり
第百二十三回 京の七不思議<通り編>
第百二十二回 京都とフランス
第百二十一回 京の石仏
第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
第百十九回 生き物由来の地名
第百十八回 京都の路面電車
第百十七回 神様への願いを込めて奉納
第百十六回 京の歴食
第百十五回 曲水の宴
第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
第百十三回 パンと京都
第百十二回 京に伝わる恋物語
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第百九回 京の社寺と山
第百八回 春の京菓子
第百七回 幻の京都
第百六回 京の家紋
第百五回 京の門前菓子
第百四回 京の通り名
第百三回 御土居(おどい)
第百二回 文学に描かれた京都
第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
第百回 夏の京野菜
第九十九回 若冲と近世日本画
第九十八回 京の鍾馗さん
第九十七回 言いまわし・ことわざ
第九十六回 京の仏師
第九十五回 鴨川
第九十四回 京の梅
第九十三回 ご朱印
第九十二回 京の冬の食習慣
第九十一回 京の庭園
第九十回 琳派(りんぱ)
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第八十八回 妖怪紀行
第八十七回 夏の京菓子
第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
第八十五回 新選組
第八十四回 京のお弁当
第八十三回 京都の湯
第八十二回 京の禅寺
第八十一回 京の落語
第八十回 義士ゆかりの地・山科
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第七十八回 京の漫画
第七十七回 京の井戸
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第七十回 天神さん
第六十九回 平安京
第六十八回 冬の京野菜
第六十七回 茶の湯(茶道)
第六十六回 京の女流文学
第六十五回 京の銭湯
第六十四回 京の離宮
第六十三回 京の町名
第六十二回 能・狂言
第六十一回 京の伝説
第六十回 京狩野派
第五十九回 京寿司
第五十八回 京のしきたり
第五十七回 百人一首
第五十六回 京の年末
第五十五回 いけばな
第五十四回 京の城
第五十三回 観月行事
第五十二回 京の塔
第五十一回 錦市場
第五十回 京の暖簾
第四十九回 大原女
第四十八回 京友禅
第四十七回 京のひな祭り
第四十六回 京料理
第四十五回 京の町家〈内観編〉
第四十四回 京の町家〈外観編〉
第四十三回 京都と映画
第四十二回 京の門
第四十一回 おばんざい
第四十回 京の焼きもの
第三十九回 京の七不思議
第三十八回 京の作庭家
第三十七回 室町文化
第三十六回 京都御所
第三十五回 京の通り
第三十四回 節分祭
第三十三回 京の七福神
第三十二回 京の狛犬
第三十一回 伏見の酒
第三十回 京ことば
第二十九回 京の文明開化
第二十八回 京の魔界
第二十七回 京の納涼床
第二十六回 夏越祓
第二十五回 葵祭
第二十四回 京の絵師
第二十三回 涅槃会
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第二十一回 京の幕末
第二十回 京の梵鐘
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第十八回 時代祭
第十七回 京の近代建築
第十六回 京のお盆行事
第十五回 京野菜
第十四回 京都の路地
第十三回 宇治茶
第十一回 京菓子の歴史
第十回 枯山水庭園の眺め方
第九回 京阪沿線 初詣ガイド
第八回 顔見世を楽しむ
第七回 特別拝観の楽しみ方
第六回 京都の着物
第五回 仏像の見方
第四回 送り火の神秘
第三回 祇園祭の楽しみ方
第二回 京の名水めぐり
第一回 池泉庭園の眺め方