京都ツウのススメ
第百十回 扇子(せんす)
- 其の一、
- 木の板を糸で綴(つづ)り合わせた平安時代の「檜扇(ひおうぎ)」が原形と言われています
- 其の二、
- 貴族や僧侶・神職のみが使い、庶民に使用が許されたのは室町時代以降です
- 其の三、
- 江戸時代になり、あおいで涼むための道具として使うようになりました
始まりは儀礼用具
紙が貴重品であった平安時代、記録紙の代わりにした木の薄い板を紐でとじた「檜扇」が扇子の原形と言われ、宮中では儀礼的に使われていました。平安時代中期になると装飾が施され、紙で作られた「蝙蝠(かわほり)」という扇が誕生します。この頃はまだ貴族の服飾品または僧侶・神職の儀式道具であり、庶民が使うことはできませんでした。
室町時代から庶民に普及
鎌倉時代に禅宗の僧侶によって扇子は中国に渡り、室町時代に唐扇(紙扇)として逆輸入され、庶民にも広がりました。江戸時代になると、涼をとるための道具として扇が使われるようになります。また、芸能の世界においても重要な役割を果たし、さらに人生の節目 の様々な儀式にも用いられました。江戸時代後期には海外へ輸出され、明治時代のパリ万国博覧会以来、スペインでも作られるようになりました。
私たちの生活において最も身近でポピュラーな使い方。扇面(紙の部分)の幅が短く、骨の数が多いほどあおぎやすいとされ、京都では骨の数が25〜35本であるのが基本です。女性用は男性用よりサイズがひと回り小さくなります。
扇子は「職人の手を87回通る」と言われ、約20の工程に10〜13人の職人が携わります
扇子は、形が末広がりであることから縁起が良いもの・末広とも呼ばれ、あらゆるお祝い事に登場してきました。お宮詣りでは赤ちゃんの背に扇子を結び付けたり(後に神社へ奉納)、結納では「自分の扇子に心を込めて相手に託す」という意味で新郎へ白扇を、新婦へは金銀扇を互いに贈り合うなど、人生の節目となる儀式に扇子が使われています。
京都では十三詣りを境に、扇子が子供用から大人用に変わります
毎年5月に嵐山・大堰川で行われる三船祭のメーンイベントは「扇流し」。足利尊氏が天龍寺に参詣の際、お供の童子が落とした扇が優美に流れていった様子を喜んだという故事にちなみます。また祇園祭の「山鉾巡行」では、鉾の前面に立つ音頭取(おんどとり)が扇子の振り方によって、車方や曳き方に鉾の動きを指示します。
能や狂言で使われる「能扇」、要(かなめ)に鉛が埋め込まれた日本舞踊で使う「舞扇」、落語の挨拶に使うのはもちろん小道具としても用いられる「高座扇」、茶道の挨拶などで自分と相手との境界として使う「茶席扇」と、様々な扇子があります。
道具としてだけでなく目で楽しむ芸術品としての役割もある扇子。季節を象徴する草花や縁起の良い伝統柄が描かれた扇は、インテリアとして、正月や節句に玄関や床の間などに飾られたり、新築や引っ越しなどのお祝いの贈り物としても使われます。檜扇や骨10本の紙扇のほか、骨5本のものも飾り扇子として人気です。
1773(安永2)年に京都で始められたと言われ、島原で流行したお座敷遊び・投扇興(とうせんきょう)。桐箱の上に置かれた、蝶と呼ばれる的に向かって扇を投げ、蝶の落ち方によって点数を競います。最近は和の遊びのひとつとして体験できる扇店もあります。
現在の五条大橋西詰界隈にあった新善光寺(通称・御影堂)で作られていた上質な御影堂扇が室町時代に評判を呼び、京土産として人気に。このことから周辺に多くの扇屋が集まり、その記念碑として「扇塚」が建てられました
- 第百九十五回 京都の巨木
- 第百九十四回 京都と将棋(しょうぎ)
- 第百九十三回 秋の京菓子
- 第百九十二回 京都の植物
- 第百九十一回 京都の風習
- 第百九十回 幻の巨椋池(おぐらいけ)
- 第百八十九回 京都と魚
- 第百八十八回 京都とお花見
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- 第百八十六回 京都の地ソース
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- 第百八十回 琵琶湖疏水と京都
- 第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
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- 第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
- 第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
- 第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
- 第百七十四回 京の難読地名
- 第百七十三回 京の縁日
- 第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
- 第百七十一回 京都の通称寺
- 第百七十回 京都とキリスト教
- 第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
- 第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
- 第百六十七回 京の城下町 伏見
- 第百六十六回 京の竹
- 第百六十五回 子供の行事・儀式
- 第百六十四回 文豪と京の味
- 第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
- 第百六十二回 京都のフォークソング
- 第百六十一回 京と虎、寅
- 第百六十回 御火焚祭
- 第百五十九回 鴨川の橋
- 第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
- 第百五十七回 京都とスポーツ
- 第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
- 第百五十五回 京都の喫茶店
- 第百五十四回 京の刃物
- 第百五十三回 京都の南蛮菓子
- 第百五十二回 京の社家(しゃけ)
- 第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
- 第百五十回 京のお雑煮
- 第百四十九回 京の牛肉文化
- 第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
- 第百四十七回 明治の京都画壇
- 第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
- 第百四十五回 ヴォーリズ建築
- 第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
- 第百四十三回 京の人形
- 第百四十二回 京の社寺と動物
- 第百四十一回 鳥居(とりい)
- 第百四十回 冬の食べ物
- 第百三十九回 能・狂言と京都
- 第百三十八回 京都と様々な物の供養
- 第百三十六回 京都とビール
- 第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
- 第百三十四回 精進料理
- 第百三十三回 明治時代の京の町
- 第百三十二回 皇室ゆかりの建物
- 第百三十一回 京の調味料
- 第百三十回 高瀬川
- 第百二十九回 蹴鞠
- 第百二十八回 歌舞伎
- 第百二十七回 京都に残るお屋敷
- 第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
- 第百二十五回 京の学校
- 第百二十四回 京の六地蔵めぐり
- 第百二十三回 京の七不思議<通り編>
- 第百二十二回 京都とフランス
- 第百二十一回 京の石仏
- 第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
- 第百十九回 生き物由来の地名
- 第百十八回 京都の路面電車
- 第百十七回 神様への願いを込めて奉納
- 第百十六回 京の歴食
- 第百十五回 曲水の宴
- 第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
- 第百十三回 パンと京都
- 第百十二回 京に伝わる恋物語
- 第百十一回 鵜飼(うかい)
- 第百十回 扇子(せんす)
- 第百九回 京の社寺と山
- 第百八回 春の京菓子
- 第百七回 幻の京都
- 第百六回 京の家紋
- 第百五回 京の門前菓子
- 第百四回 京の通り名
- 第百三回 御土居(おどい)
- 第百二回 文学に描かれた京都
- 第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
- 第百回 夏の京野菜
- 第九十九回 若冲と近世日本画
- 第九十八回 京の鍾馗さん
- 第九十七回 言いまわし・ことわざ
- 第九十六回 京の仏師
- 第九十五回 鴨川
- 第九十四回 京の梅
- 第九十三回 ご朱印
- 第九十二回 京の冬の食習慣
- 第九十一回 京の庭園
- 第九十回 琳派(りんぱ)
- 第八十九回 京の麩(ふ)
- 第八十八回 妖怪紀行
- 第八十七回 夏の京菓子
- 第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
- 第八十五回 新選組
- 第八十四回 京のお弁当
- 第八十三回 京都の湯
- 第八十二回 京の禅寺
- 第八十一回 京の落語
- 第八十回 義士ゆかりの地・山科
- 第七十九回 京の紅葉
- 第七十八回 京の漫画
- 第七十七回 京の井戸
- 第七十六回 京のお地蔵さん
- 第七十五回 京の名僧
- 第七十四回 京の別邸
- 第七十三回 糺(ただす)の森
- 第七十二回 京舞
- 第七十一回 香道
- 第七十回 天神さん
- 第六十九回 平安京
- 第六十八回 冬の京野菜
- 第六十七回 茶の湯(茶道)
- 第六十六回 京の女流文学
- 第六十五回 京の銭湯
- 第六十四回 京の離宮
- 第六十三回 京の町名
- 第六十二回 能・狂言
- 第六十一回 京の伝説
- 第六十回 京狩野派
- 第五十九回 京寿司
- 第五十八回 京のしきたり
- 第五十七回 百人一首
- 第五十六回 京の年末
- 第五十五回 いけばな
- 第五十四回 京の城
- 第五十三回 観月行事
- 第五十二回 京の塔
- 第五十一回 錦市場
- 第五十回 京の暖簾
- 第四十九回 大原女
- 第四十八回 京友禅
- 第四十七回 京のひな祭り
- 第四十六回 京料理
- 第四十五回 京の町家〈内観編〉
- 第四十四回 京の町家〈外観編〉
- 第四十三回 京都と映画
- 第四十二回 京の門
- 第四十一回 おばんざい
- 第四十回 京の焼きもの
- 第三十九回 京の七不思議
- 第三十八回 京の作庭家
- 第三十七回 室町文化
- 第三十六回 京都御所
- 第三十五回 京の通り
- 第三十四回 節分祭
- 第三十三回 京の七福神
- 第三十二回 京の狛犬
- 第三十一回 伏見の酒
- 第三十回 京ことば
- 第二十九回 京の文明開化
- 第二十八回 京の魔界
- 第二十七回 京の納涼床
- 第二十六回 夏越祓
- 第二十五回 葵祭
- 第二十四回 京の絵師
- 第二十三回 涅槃会
- 第二十二回 京のお漬物
- 第二十一回 京の幕末
- 第二十回 京の梵鐘
- 第十九回 京のお豆腐
- 第十八回 時代祭
- 第十七回 京の近代建築
- 第十六回 京のお盆行事
- 第十五回 京野菜
- 第十四回 京都の路地
- 第十三回 宇治茶
- 第十一回 京菓子の歴史
- 第十回 枯山水庭園の眺め方
- 第九回 京阪沿線 初詣ガイド
- 第八回 顔見世を楽しむ
- 第七回 特別拝観の楽しみ方
- 第六回 京都の着物
- 第五回 仏像の見方
- 第四回 送り火の神秘
- 第三回 祇園祭の楽しみ方
- 第二回 京の名水めぐり
- 第一回 池泉庭園の眺め方