京都ツウのススメ
第百六十七回 京の城下町 伏見
『伏見桃山御殿御城之画図』(一部)国立国会図書館所蔵
伏見城と城下町の歴史豊臣秀吉が築き、徳川家康や家光にもゆかりのある伏見城とその城下町の歴史を、「らくたび」の若村亮さんがご紹介します。
基礎知識
-
其の一、
- 伏見城は豊臣秀吉が築き、徳川家にもゆかりのある城です
-
其の二、
- 城下町には大名の屋敷が立ち並び、町人も住んでいました
-
其の三、
- 伏見城の遺構は移築され、京都の様々な場所で見ることができます
豊臣秀吉や徳川家康が過ごした城
伏見桃山駅から東へ約1.5kmの小高い丘に、明治天皇伏見桃山陵があります。ここには、かつて伏見城が立っていました。豊臣秀吉が木幡(こはた)山に築いたことから木幡山伏見城とも呼ばれます。城は関ケ原の戦いの前哨戦で落城しますが、徳川家康により再建。また、家康から三代将軍家光までは、征夷大将軍に任命される儀式がここで行われるなど、伏見城は徳川家にとっても重要な拠点となりました。
城下町には大名屋敷や町人の住まいが
木幡山伏見城を築く前、秀吉は、現在の観月橋駅に近い指月(しげつ)の丘に城を築いたと言われています。この城の築城と並行して、秀吉は宇治川に堤防を築くなどの治水事業に着手。城の近くには全国の諸大名の大名屋敷が並び、商人や職人などの町人が住む城下町も作られました。また家康は、1608(慶長13)年に現・京都市中京区の両替町に移転するまで、この城下町に銀貨を鋳造する「銀座」を設けました。
- 1592(文禄元)年
- 秀吉が指月伏見城を築く
- 1596(慶長元)年
- 指月伏見城が慶長の大地震で倒壊
- 1597(慶長2)年
- 秀吉が木幡山※伏見城を築く
- 1600(慶長5)年
- 木幡山伏見城が落城
- 1602(慶長7)年
- 家康が木幡山に伏見城を再建
- 1623(元和9)年
- 伏見城が廃城となる
最新の研究では、
山の名称は木幡山ではなく伏見山
[1592(文禄元)年]
もうひとつの伏見城
木幡山伏見城を築く前に、秀吉は風光明媚とうたわれた指月の丘(現・伏見区桃山町泰長老周辺)に城を築いたと言われます。
隠居城から本格的な城へ
指月伏見城は当初、秀吉の隠居用として築かれましたが、最終的には迎賓館の役割も持つ大規模な城郭になりました。
[1596(慶長元)年]
木幡山に築城開始
指月伏見城は慶長の大地震で倒壊。わずか10日後には指月の北に位置する木幡山で新たな伏見城の築城が始まりました。
[1623(元和9)年]
伏見城の廃城
二条城や大坂城、淀城など江戸幕府の拠点となる城郭が整備されたこともあり、伏見城は廃城になりました。
古くからの景勝地である伏見に築かれた伏見城とその城下町。
諸大名にちなんだ地名や、城を守った堀の跡などがその歴史を今に伝えます。
大名屋敷
城の近くには大名が屋敷を構えました。「桃山町正宗」(伊達家)、「桃山福島太夫南町」(福島家)、「桃山毛利長門東町」(毛利家)など大名ゆかりの地名が現在も残っています。
北堀
伏見城の北側には、城の防御のために深さ約15mの堀が作られました。現在は伏見北堀公園として整備され、堀の底に当たる部分を歩くことができます。
銀座町
1601(慶長6)年5月、家康は伏見に銀貨を鋳造する「銀座」を設置。両替町通のある伏見区銀座町という地名がその歴史を伝えます。
築城にあたり、秀吉は槇島堤(まきしまつつみ)を築き宇治川の流れを伏見に近づけました。また、伏見城の外堀である濠川(ごうかわ)や港の役割を果たす伏見津を整備。伏見の水運の基礎が作られました
古御香宮(ふるごこうのみや)
秀吉は、伏見城北東に鬼門除けのため御香宮(現・御香宮神社)を移しました。家康が御香宮を元の地に戻した後は、この場所が「古御香宮」や「古御香(ふるごこう)」と呼ばれるように。例年10月の御香宮神社の神幸祭では御旅所となります。
伏見城本丸
伏見城の本丸は今の明治天皇伏見桃山陵がある場所に築かれました。秀吉が造営した京都の邸宅・聚楽第(じゅらくだい)の建物もここに移築されたと伝わります。
伏見城廃城後、大名屋敷があった場所に桃が植えられ、この地が桃山と呼ばれるようになりました
京都市内の社寺では、伏見城から移築されたと伝わる建物などを見ることができます。
御香宮神社(伏見区)
表門が徳川時代の伏見城の大手門。
高台寺(東山区)
表門、観月台、茶室の時雨亭や傘亭が伏見城の遺構。
豊国神社(東山区)
国宝の唐門は伏見城の遺構と伝わります。二条城から南禅寺の金地院を経て移築されました。
養源院(東山区)
本堂は伏見城の遺構。落城の際、徳川方の鳥居元忠らが自刃した際の血で染まった廊下を供養のために天井に上げた、血天井で知られています。
1594(文禄3)年、秀吉は伏見と宇治川対岸を結ぶ「豊後橋(ぶんごばし)」を架けました。幕末に焼失し、明治時代に再建される際、月の名所にちなみ「観月橋」と命名されました
取材協力:若林正博(伏見城研究会)
- 第百九十五回 京都の巨木
- 第百九十四回 京都と将棋(しょうぎ)
- 第百九十三回 秋の京菓子
- 第百九十二回 京都の植物
- 第百九十一回 京都の風習
- 第百九十回 幻の巨椋池(おぐらいけ)
- 第百八十九回 京都と魚
- 第百八十八回 京都とお花見
- 第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
- 第百八十六回 京都の地ソース
- 第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
- 第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
- 第百八十三回 京都の坪庭(つぼにわ)
- 第百八十二回 どこまで分かる?京ことば
- 第百八十一回 京都の中華料理
- 第百八十回 琵琶湖疏水と京都
- 第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
- 第百七十八回 京都と徳川家
- 第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
- 第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
- 第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
- 第百七十四回 京の難読地名
- 第百七十三回 京の縁日
- 第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
- 第百七十一回 京都の通称寺
- 第百七十回 京都とキリスト教
- 第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
- 第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
- 第百六十七回 京の城下町 伏見
- 第百六十六回 京の竹
- 第百六十五回 子供の行事・儀式
- 第百六十四回 文豪と京の味
- 第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
- 第百六十二回 京都のフォークソング
- 第百六十一回 京と虎、寅
- 第百六十回 御火焚祭
- 第百五十九回 鴨川の橋
- 第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
- 第百五十七回 京都とスポーツ
- 第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
- 第百五十五回 京都の喫茶店
- 第百五十四回 京の刃物
- 第百五十三回 京都の南蛮菓子
- 第百五十二回 京の社家(しゃけ)
- 第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
- 第百五十回 京のお雑煮
- 第百四十九回 京の牛肉文化
- 第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
- 第百四十七回 明治の京都画壇
- 第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
- 第百四十五回 ヴォーリズ建築
- 第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
- 第百四十三回 京の人形
- 第百四十二回 京の社寺と動物
- 第百四十一回 鳥居(とりい)
- 第百四十回 冬の食べ物
- 第百三十九回 能・狂言と京都
- 第百三十八回 京都と様々な物の供養
- 第百三十六回 京都とビール
- 第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
- 第百三十四回 精進料理
- 第百三十三回 明治時代の京の町
- 第百三十二回 皇室ゆかりの建物
- 第百三十一回 京の調味料
- 第百三十回 高瀬川
- 第百二十九回 蹴鞠
- 第百二十八回 歌舞伎
- 第百二十七回 京都に残るお屋敷
- 第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
- 第百二十五回 京の学校
- 第百二十四回 京の六地蔵めぐり
- 第百二十三回 京の七不思議<通り編>
- 第百二十二回 京都とフランス
- 第百二十一回 京の石仏
- 第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
- 第百十九回 生き物由来の地名
- 第百十八回 京都の路面電車
- 第百十七回 神様への願いを込めて奉納
- 第百十六回 京の歴食
- 第百十五回 曲水の宴
- 第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
- 第百十三回 パンと京都
- 第百十二回 京に伝わる恋物語
- 第百十一回 鵜飼(うかい)
- 第百十回 扇子(せんす)
- 第百九回 京の社寺と山
- 第百八回 春の京菓子
- 第百七回 幻の京都
- 第百六回 京の家紋
- 第百五回 京の門前菓子
- 第百四回 京の通り名
- 第百三回 御土居(おどい)
- 第百二回 文学に描かれた京都
- 第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
- 第百回 夏の京野菜
- 第九十九回 若冲と近世日本画
- 第九十八回 京の鍾馗さん
- 第九十七回 言いまわし・ことわざ
- 第九十六回 京の仏師
- 第九十五回 鴨川
- 第九十四回 京の梅
- 第九十三回 ご朱印
- 第九十二回 京の冬の食習慣
- 第九十一回 京の庭園
- 第九十回 琳派(りんぱ)
- 第八十九回 京の麩(ふ)
- 第八十八回 妖怪紀行
- 第八十七回 夏の京菓子
- 第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
- 第八十五回 新選組
- 第八十四回 京のお弁当
- 第八十三回 京都の湯
- 第八十二回 京の禅寺
- 第八十一回 京の落語
- 第八十回 義士ゆかりの地・山科
- 第七十九回 京の紅葉
- 第七十八回 京の漫画
- 第七十七回 京の井戸
- 第七十六回 京のお地蔵さん
- 第七十五回 京の名僧
- 第七十四回 京の別邸
- 第七十三回 糺(ただす)の森
- 第七十二回 京舞
- 第七十一回 香道
- 第七十回 天神さん
- 第六十九回 平安京
- 第六十八回 冬の京野菜
- 第六十七回 茶の湯(茶道)
- 第六十六回 京の女流文学
- 第六十五回 京の銭湯
- 第六十四回 京の離宮
- 第六十三回 京の町名
- 第六十二回 能・狂言
- 第六十一回 京の伝説
- 第六十回 京狩野派
- 第五十九回 京寿司
- 第五十八回 京のしきたり
- 第五十七回 百人一首
- 第五十六回 京の年末
- 第五十五回 いけばな
- 第五十四回 京の城
- 第五十三回 観月行事
- 第五十二回 京の塔
- 第五十一回 錦市場
- 第五十回 京の暖簾
- 第四十九回 大原女
- 第四十八回 京友禅
- 第四十七回 京のひな祭り
- 第四十六回 京料理
- 第四十五回 京の町家〈内観編〉
- 第四十四回 京の町家〈外観編〉
- 第四十三回 京都と映画
- 第四十二回 京の門
- 第四十一回 おばんざい
- 第四十回 京の焼きもの
- 第三十九回 京の七不思議
- 第三十八回 京の作庭家
- 第三十七回 室町文化
- 第三十六回 京都御所
- 第三十五回 京の通り
- 第三十四回 節分祭
- 第三十三回 京の七福神
- 第三十二回 京の狛犬
- 第三十一回 伏見の酒
- 第三十回 京ことば
- 第二十九回 京の文明開化
- 第二十八回 京の魔界
- 第二十七回 京の納涼床
- 第二十六回 夏越祓
- 第二十五回 葵祭
- 第二十四回 京の絵師
- 第二十三回 涅槃会
- 第二十二回 京のお漬物
- 第二十一回 京の幕末
- 第二十回 京の梵鐘
- 第十九回 京のお豆腐
- 第十八回 時代祭
- 第十七回 京の近代建築
- 第十六回 京のお盆行事
- 第十五回 京野菜
- 第十四回 京都の路地
- 第十三回 宇治茶
- 第十一回 京菓子の歴史
- 第十回 枯山水庭園の眺め方
- 第九回 京阪沿線 初詣ガイド
- 第八回 顔見世を楽しむ
- 第七回 特別拝観の楽しみ方
- 第六回 京都の着物
- 第五回 仏像の見方
- 第四回 送り火の神秘
- 第三回 祇園祭の楽しみ方
- 第二回 京の名水めぐり
- 第一回 池泉庭園の眺め方