京都ツウのススメ

第六十三回 京の町名

[古都の歴史の中で生まれた京の町名]ふと見かけると不思議な町名には、思いがけない古都の歴史や文化が隠されています。興味深い京の町名について、らくたびの若村亮さんが解説します。

枯山水庭園の基礎知識

其の一、
平安京の条坊制によって区切られたブロックの最小単位が「町」でした
其の二、
室町時代には、人々の生活に密着した町名が生まれました
其の三、
歴史や文化を反映した町名が数多く存在します

京都の町の成り立ち

平安京は、東西南北に張り巡らされた通りでブロックに分けられていました。その中で最も小さく区切られた約120m四方のブロックが京都の「町」の始まりです。鎌倉時代になると、こうした秩序が守られた区分けは失われ、近隣の家同士でまとまった町へ再編されていきます。

町名に見る都の歴史

室町時代には、商人や職人たちが地域ごとに同業者のコミュニティーを作り始め「仏具屋町」「船頭町」など職業を表したり、また「長刀鉾町」など町の象徴となるものを表したりと、人々の暮らしに関わる町名が生まれ、定着していきました。安土桃山時代になって豊臣秀吉が京都の大規模な都市改造を実施したため、この時 期以降に付けられた町名には秀吉ゆかりのものも多く見られます。また、「俊成町」「観世町」など歴史上の人物の名前が入っていたり、「本塩竈町」といった故事や伝説にちなんだ町名、さらに「元悪王子町」など寺社ゆかりの町名が多いことも特徴です。様々な京都の町名からは、長きにわたり都が置かれ、幾多の時代をくぐり抜けた古都の歴史を知ることができるのです。

京の歴史・文化を物語る町名

ユニークなものから何気ないものまで、様々な京都の町名からは、
古都ならではの歴史や文化をうかがい知ることができます。

[人物にちなんだ町名]俊成町

[故事にちなんだ町名]釘隠町

[故事にちなんだ町名]二帖半敷町

[寺社ゆかりの町名]元悪王子町

[秀吉ゆかりの町名]大寿町

[秀吉ゆかりの町名]正面町

[故事にちなんだ町名]本塩竃町

平安時代の代表的な歌人・藤原俊成の邸宅があった場所とされます。[ココがツウ]町内にあるホテルの一角には、俊成を和歌の神様としてまつる「俊成社」が鎮座しています
江戸時代の富豪の屋敷に、豪華な釘隠(釘の頭が見えないようにする金属製の飾り)が使用されていて、見物人が押しかけるほどの評判となったことから、この町名がついたとされます。
かつてこの地にあった五条寺というお寺を、住職が半分ずつ弟子に譲り、五条(帖)を2つに分けたことに由来するという説と、この辺りに住む町人が畳5帖の家を兄弟2人で分けたことに由来するという説があります。
スサノオノミコトを祭神と
する悪王子社があったことに由来します。ここで言う「悪」は“強力な”“猛々しい”という意味です。また、悪王子社は、後に五条通付近に移転し、その他にも「悪王子町」という町名が残っています。[ココがツウ]現在の悪王子社は八坂神社の境内にあり、その分霊が元悪王子町にまつられています
秀吉が御所からの帰り道に水を飲みたいと言ったところ、この付近の大和屋が茶を差し出しました。喜んだ秀吉が茶に「寿」の銘を与え、大和屋の「大」の字と合わせて町名にしたと伝わります。
秀吉が造った方広寺の大仏殿の正面に位置したため、「正面町」と名付けられました。大仏は、1798(寛政10)年に、落雷のため焼失しました。[ココがツウ]現在、正面町を通る正面通の突き当たりには、秀吉をまつる豊国神社があります
ここにあった、源融(みなもとのとおる)の邸宅・河原院には、陸奥国(現・東北地方)の浜・塩竈の浦を模して造った庭園に塩竈がありました。そこで貴族が塩焼きの風情を楽しんだことが町名の由来に。
制作:2013年6月
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