京都ツウのススメ
第五十回 京の暖簾
- 其の一、
- 「暖かい簾(すだれ)」と書くように、雨風や寒さを防ぐための布が始まりとされます
- 其の二、
- のれん文化が育まれてきた京都では、多種多様なのれんを見ることができます
- 其の三、
- のれんという言葉には、店の格式や信用という意味も含まれています
のれんの歴史
のれんが文献などに登場するのは、平安時代後期。宮中の儀式や民間風俗を描いた『年中行事絵巻』などに、家の軒先に雨や風をよけるための布がかけられ ている様子が描かれています。 やがて鎌倉時代になるとその布は業種によって色分けされ、商標などの“目印”が描かれるようになりました。室町時代以降は様々な意匠が描かれ、文字を読める人が増えてきた江戸時代には、文字による宣伝文句も加わり、広告物としての役割も担う、現在の形態に定着しました。
その役割の意味するところ
のれんは看板や広告物として店の存在を周知させるだけでなく、客を迎え入れるもてなしの心も表しています。季節ごとに色や図案、素材を替えて、客や道行く人の目を楽しませてきました。また、職住が一体となった京町家では、店と奥の住居を仕切る役割を担い、非常に重宝されてきました。特に商家にとって、のれんはまさに“店の顔”であり、何代にもわたって店が受け継がれていること、すなわち信用の象徴でもあります。


店内の日よけや目隠しに好まれるのが、標準よりも長い「長のれん」(約160cm)で、呉服店や宿でよく見られる形です。

京都では、奉公人が独立する際には、主人から長のれんを与えられるという習わしがありました
ひょうたんと屋号が染め抜かれた
旅館「玉半」ののれん


40cmほどの丈の短い布を間口いっぱいに張ったもの。元は切り込みもなく、魔よけとして用いられていたと伝わります。

のれんは、その日の営業終了とともに下ろされますが「水引のれん」は昼夜を問わず軒先にかけたままにされます
しゃぶしゃぶで知られる「十二段家」は、
創業以来水引のれんを使用


標準的な丈の半分の長さのものを「半のれん」と呼び、のれんの間から店内の様子をうかがえることから主に飲食店で用いられてきました。
200年以上続く鳥料理専門店「鳥彌三(とりやさ)は、
店名のみのシンプルなデザイン


伝統的にのれんに用いられてきた藍色は、防虫効果があったことから呉服店や飲食店で多く使われてきした。また、手堅い商売を信条とする商家などに好まれました。
京菓子店「二条駿河屋(するがや)は、
老舗の風格ただよう伝統の藍色


砂糖や紙の白い色に通じるところから、菓子屋や紙屋が好んで使いました。古くは薬に砂糖を使っていたため、薬屋でも用いられました。

かつては業種によって厳密に色分けされていたため、違う色を用いると物知らずとして笑い者になったという逸話も残ります
京菓子店「亀末廣」は、
亀をモチーフにした白地の長のれん


柿色は、江戸時代初期に公許の花街・島原(現在のJR丹波口駅南東側)の揚屋(宴会場)、茶屋、置屋にのみ許された色でした。
島原の揚屋の遺構「角屋(すみや)」(重要文化財)は、長さ4尺(約121cm)の
柿染めの麻布に家紋の「蔓(つる)三つ蔦(つた)」が描かれています

明治時代以降、染織技術の向上とともに自由度の高いデザインが取り入れられるようになりました。現在は季節に応じた柄や素材が使われることが多くなってきました。また、祭りや行事に合わせて掛け替えるところもあり、店の顔として、もてなしの心も表しています。
甘味処「栖園(せいえん)」では、季節ごとにカラフルなのれんがかけられます。写真は7月にかけられるアサガオ柄



![]() 修業を積んで一人前になった奉公人に、店を出させて同じ屋号を名乗ることを許すこと |
![]() |
![]() これまでの信用を失うような重大な失態をおかすことを言います |
![]() |
![]() 営業時間を終えて閉店することのほか、商売をやめて店じまいをするという意味でも使われます |
![]() |
![]() 通常の料金に店のブランド価値がプラスされていることを意味します |
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