
第149回
京都人と牛肉

第149回
京都人と牛肉

写真協力:三嶋亭
京阪的京都ツウのススメ
第149回 京都人と牛肉
京の牛肉文化
明治時代の幕開けとともに市民の間に広まり、今ではすっかり京の食文化のひとつとして定着している牛肉。その歴史などをらくたびの若村亮さんがご紹介します。
京都人と牛肉の基礎知識
其の一、
西洋化が広まった明治時代、京都にも牛肉料理店が開店しました
其の二、
京都市では、1世帯あたりの牛肉購入額が全国1位という調査結果があります
其の三、
京都府内の牧場では、京都独自のブランド和牛が飼育されています
明治時代から食べられるようになった牛肉
日本では、仏教の教えにより675(天武4)年に肉食禁止令が出されて以来、鎖国を行っていた江戸時代まで牛肉を口にすることは一般的ではありませんでした。しかし、開国を経て日本を訪れた外国人のために牛肉が用意されるようになり、西洋化を進める明治政府も肉食を推奨。牛肉を食べる習慣が少しづつ広まり、京都でもすき焼きのような牛肉料理を提供する店が誕生しました。
上質の牛肉が手に入りやすい京都
やがて、牛肉は一般の家庭でも特別な日の献立に使われるように。年末の精肉店で、正月用に牛肉を買い求める人の姿が見られるのも、冬の京都らしい光景です。最近では、京都市の1世帯あたりの牛肉購入額が全国1位という調査結果(2017~19年の総務省統計局の家計調査)も。西日本には銘柄牛の産地が多く、京都にもブランド和牛「京都肉」があります。京都市内にはこうした質の高い牛肉を販売する精肉店も多く、「牛肉好き」と言われる京都の人々の食生活を支えています。
歴史の中の牛と牛肉
古くは農耕や運送のために牛が飼育されていた京都。
現在は豊かな自然の中でブランド和牛も生産されています。
鎌倉時代の絵巻に登場した京の牛
牛は弥生時代に日本に渡来したと言われ、主に農耕や運送のために飼われていました。家畜としては、西日本では牛、東日本では馬が多く飼育されていたと言われています。

『国牛十図』(部分)国立国会図書館蔵
京都では古くから農耕用に牛が飼育されてきました。鎌倉時代に発行された和牛書『国牛十図(こくぎゅうじゅうず)』は、西日本を中心とした10の産地の牛の、姿かたちや力強さを紹介したもの。京都府の丹波牛も、優れた牛のひとつとして取り上げられています。
明治時代から広まった食文化
安土桃山時代、南蛮貿易やキリスト教の布教で日本を訪れたポルトガル人により、牛肉を食べる文化も伝えられました。一般に普及することはありませんでしたが、当時の京都の人がワカ(ポルトガル語で牛肉)を口にしたこともあったそうです。
京都では明治時代に牛肉販売店や牛肉料理の店が登場。京都の名所や店が掲載された1894(明治27)年発行の『京都案内都百種』には、今も営業を続ける「三嶋亭」をはじめとする、牛肉販売店や料理店の名前が見られます。
自然豊かな中で育つ京都の和牛

京都には「京都肉」というブランドがあります。京都府産の黒毛和種で、京都市の中央卸売市場第二市場で食肉加工され、肉質が上位の等級に格付けされたものという条件を満たしたものだけが、「京都肉」として認められています。
京の牛肉料理
京都で食べられる牛肉の料理や、料理にまつわるエピソードなどを紹介します。
三嶋亭(みしまてい)/中京区

ハレの日のご馳走はすき焼き
1873(明治6)年創業の老舗のすき焼きは、牛肉の脂の旨味と砂糖の甘みを生かした調理法が特徴。初代三嶋兼吉は、西洋料理発祥の地・長崎で牛肉の食文化に触れ、京都に戻ってこちらを開店。和食に伝わる繊細な技で肉を薄く漉(す)いたので「すき焼き」の名が付いたとも言われるそうです。
まずは、熱した鍋に砂糖を広げて肉を焼き、割り下で味付けした牛肉を生卵に絡めてひと口。その後は野菜や豆腐を一緒に煮込んでいただきます。
十二段家(じゅうにだんや)本店/東山区

しゃぶしゃぶの元祖は戦後生まれ
しゃぶしゃぶの発祥は祇園のこの店。第二次世界大戦後、妻の実家の料理店を継いだ2代目当主・西垣光温が、後にしゃぶしゃぶとして広まる「牛肉の水炊き」を考案します。きっかけは、骨董店で手に入れ店に飾っておいたユニークな形の鍋。中国で羊肉の鍋料理に使われるものだと知り、これを使った新しい料理として考え出されたものです。
2代目当主は、親交のあった文化人や作家にも意見を求め、上質のロース肉や野菜をゴマ風味のタレで食べるスタイルを考案。中央に煙突のある銅製の鍋も中国の鍋をヒントに作りました。
グリル富久屋(ふくや)/東山区

花街で愛されるカツサンドウィッチ
2代目店主が、京都の大学に勤めていた外国人から洋食を習い1907(明治40)年に開店。ビフカツやステーキに使うのは牛ヒレ肉。カツサンドウィッチは今から60年前にはメニューに並んでいたそうです。しっかり火を通したカツが、トーストしてマスタードを塗ったパンの端までサンドされています。
牛肉を塊のまま焼く料理「コールドビーフ」だけは旨味のある希少部位のイチボを使用。これをスライスし野菜と一緒にドレッシングで和えた「メキシコサラダ」も名物です。
京都で初めての牛肉店として創業したのが、市内で精肉店やすき焼きなどの飲食店を営む「モリタ屋」。1869(明治2)年、盛牛舎森田屋として開店した当時は卸売りが中心で、陸軍省に牛肉を納入。大正天皇即位式には、牛肉と直営の森田牧場の牛乳を献上したそうです

ナビゲーターらくたび 若村 亮さん
らくたびは、京都ツアーの企画を行うほか、京都学講座や京都本の執筆など、多彩な京都の魅力を発信しています。
制作:2020年12月

