京都ツウのススメ

第二十九回 京の文明開化

[京都に活力を与えた琵琶湖疏水]明治時代に始まった様々な近代化政策の中でも、とりわけ京の町に活気と産業振興をもたらした琵琶湖疏水について、らくたびの山村純也さんがご案内します。

京の文明開化の基礎知識

其の一、
東京遷都によって京都は人口流出や産業衰退など大きな影響を受けました
其の二、
京都復興のための様々な近代化政策が行われました
其の三、
そのひとつとして京都の産業発展を目指し、琵琶湖疏水が開削されました

殖産興業への取り組み

京都は平安京遷都以来、1000年以上もの長きにわたり、都として栄えてきました。しかし、1869(明治2)年に東京遷都が行われると、約10万人もの人口減少に加え、産業も急激に衰退。そのため、京都復興を目指し様々な殖産興業政策が実施され、近代化が進められました。西洋の技術を導入する一方で、西陣織など京の伝統産業の技術革新、全国に先駆けての小学校の開設、理化学を研究する京都舎密(せいみ)局の設立など、多岐にわたる取り組みにより新しい産業が興るなど、京都は次第に活力を取り戻していきました。

京都復興をかけた琵琶湖疏水

その中でも、琵琶湖疏水の開削は京都復興をかけた一大事業でした。当時の京都府知事・北垣国道は、京都に隣接するびわ湖の水を発電や物資運搬・農業用水などに活用するため、疏水の開削に着手。1891(明治24)年には日本最初の事業用水力発電所が稼働し、その電力によって京都市街に路面電車が開通。さらに、紡績・伸銅・タバコなどの新しい産業も活発化し、近代化の大きな原動力となりました。

[明治の一大事業 琵琶湖疎水の歩み] 数多くの人の知恵と力が結集し、京都に文明開化をもたらした琵琶湖疎水。今も市内に水を供給し続ける疎水の歴史を紹介します。

びわ湖と京都を結ぶ水運

1881(明治14)年、第3代京都府知事・北垣国道は、びわ湖から京都に水を引く琵琶湖疏水工事を計画しました。衰退著しい京都の復興を目指した琵琶湖疏水は、生活用水のほか運輸(舟運)、水力発電、灌漑(かんがい)、防火などに利用し、京都の産業振興を図ろうとした一大事業でした。工事は1885(明治18)年に着工。第1期工事には当時の京都府の年間予算の約2倍という莫大な費用が投入され、延べ400~600万人が携わりました。

ココがツウ

びわ湖から京都に水を引くという構想は、古くは平清盛の時代からあり、豊臣秀吉や徳川家康、さらに高瀬川を開削した角倉了以によっても計画されたことがありました

疎水工事風景

大工事を率いた若き技術者の奮闘

この大事業の監督に選ばれたのが、工部大学校(東京大学の前身のひとつ)を卒業したばかりの田辺朔郎でした。3カ所のトンネル開削などの工事は、当時の土木技術では困難を極めましたが、山の上から垂直に穴を掘って工事を進める「竪坑(シャフト)方式」など、新しい工法も採用されました。当初、人や荷物を船ごと運ぶ「インクライン」の動力には水車が使われる予定でしたが、米国視察を経た田辺は水力発電の電力を利用する計画に変更。こうして事業用としては日本初の水力発電所が蹴上(けあげ)に建設されました。

ココがツウ

欧米技術を導入するべく、当時の大工事の多くは外国人技術者の設計・監督によるものでしたが、琵琶湖疏水工事は設計も工事もすべて日本人の手による初の事業でした

「インクライン」は船をレールの台車に乗せて、大きな高低差をスムーズに運行するための傾斜鉄道

[田辺朔郎(たなべさくろう 1861~1944年)] 土木技術者。綿密な実測調査に基づいた卒業論文「琵琶湖疏水工事計画」と気骨のある人柄が北垣知事に高く評価され、21歳で京都府に採用。23歳から28歳まで琵琶湖疏水工事の監督を務めました

琵琶湖疎水の完成と京都の発展

5年の歳月と総工費約125万円(現在の金額で約1兆円)を費やし、1890(明治23)年、琵琶湖疏水が完成。翌年には蹴上発電所が送電を開始します。この電力により、京都の市街を走る路面電車が実現。また、西陣織をはじめ伝統産業の機械化など京都の産業に近代化をもたらし、様々な産業の発展に大きく貢献しました。現在、京都市内の水の約97%が琵琶湖疏水から給水されており、今も京都市民の誇りとして受け継がれています。

ココがツウ

明治時代における最先端の土木技術水準を示す近代化遺産として、1996(平成8)年に水路閣やインクラインをはじめ琵琶湖疏水関連の12カ所が国の史跡に指定されました

蹴上発電所は、現在も現役の発電所として稼動しています

SPOT

琵琶湖疎水記念館(びわこそすいきねんかん)

1989(平成元)年、琵琶湖疏水竣工100周年を記念して開館。建設当時の工事風景や疏水関連の図面、また工事に関わった人々の苦労をしのばせる様々な資料が見られます。

  • 9時~16時30分(入館) 月曜(祝日は翌日)休館
  • 075-752-2530
  • 地下鉄蹴上駅下車 北西へ徒歩約5分分

琵琶湖疎水記念館

制作:2010年8月
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