京都ツウのススメ
第百八十九回 京都と魚
アユの塩焼き
京都で愛されてきた魚料理
海から遠い京都市内の人々にとって、魚は貴重な食材。
今回は京都で愛されてきた魚料理を「らくたび」の谷口真由美さんがご紹介します。
基礎知識
-
其の一、
- 内陸にある京都市は新鮮な魚介が手に入りにくい地域でした
-
其の二、
- 京都の市街地では日持ちの良い塩漬けや干物の魚が多く出回りました
-
其の三、
- 川やびわ湖から届く魚も京都の日常に欠かせない食材でした
海の遠い京都だからこそ生まれた魚料理
今のように輸送手段が発達していない時代、内陸に位置する京都市は新鮮な海産物が手に入りにくい場所でした。そのため、「ひと塩もの」と呼ばれる軽く塩漬けにした魚や干物が重宝されました。ひと塩ものの代表と言えばサバ。若狭湾で水揚げされたサバに軽く塩を振って京都市内へ。ちょうど塩が回っていい塩梅(あんばい)になったサバを使う鯖寿司は、京都のハレの日の料理として今も愛されています。
川魚は日常の食卓に欠かせないもの
一方で、川が多くびわ湖が近い京都市では、川魚が豊富に手に入りました。江戸時代には川魚料理の専門店が京の町に多く登場。現在、京都市東山区に本店「竹茂楼(たけしげろう)」がある京懐石美濃吉は、京都所司代(江戸幕府による出先機関)が特別に認可したという「川魚生洲(いけす)八軒」の内の1軒でした。川魚の中でも初夏の味覚の代表・アユや身近で釣れるコイもよく食されました。今回は、京都でなじみのある海や川の魚料理をご紹介します。
日本海から遠く離れた京都市内へ、
おいしい魚を運ぶための様々な工夫がありました。
「京は遠ても十八里」と言うように、若狭湾のある小浜から京都市内までは約18里、約70kmの距離があります。車がなかった時代には、その道のりを数日かけて海産物の行商人が運んだと言います。その代表とも言えるサバは街道の名称となり、小浜から京都に通ずる街道は今でも「鯖街道」として親しまれています。サバのほか、ハモや甘鯛(ぐじ)、カレイなども小浜から京都へ運ばれました。
鯖街道はひとつではなく、いくつものルートがあり、それらを総称して鯖街道と呼びます。小浜から京都を最短で結ぶ「針畑越ルート」が最も一般的です
ひと塩ものサバや甘鯛(ぐじ)などは、塩漬けにして運ばれました。
- 鯖寿司
- 小浜を出て数日、ちょうど塩加減が良い塩梅になったサバを使った押し寿司が鯖寿司です。京都ではハレの日の料理として知られており、京都市内には鯖寿司の名店も多くあります。
- ぐじの若狭焼き
- 京都では甘鯛のことを「ぐじ」と呼びます。若狭湾で水揚げされ、ひと塩で京都に届く若狭ぐじは美しいピンク色で、古くから京料理に使われてきました。
干物日持ちをさせるため、水揚げしたらすぐ日干しにします。
- 笹カレイの一夜干し
- 笹の葉のように身が細長いカレイ。軽く塩を振って生干しされた笹カレイは、京都では高級品として好まれていました。
- ニシンとナスの炊いたん
- 頭や内臓を取り除いて乾燥させたのが身欠きニシン。ナスと炊き合わせるときは前日から米の研ぎ汁で戻し、洗ってから番茶でやわらかく煮ます。
干物の歴史は古く、保存食として縄文時代からあったよう。紫式部による『源氏物語』にも酒の肴(さかな)として干物が登場しています
京都にはたくさんの川が流れており、
そこで取れる川魚は日々の貴重なタンパク源でした。
京都の川は、大阪湾に流れ込む淀川水系と日本海へ流れ込む由良川水系に大別できます。いずれも上流にはマス類、中流にはアユ、下流にはコイやウナギなどが生息しています。
- アユの姿焼き
- 夏から秋にかけて旬を迎え、特に夏に脂がのってくると良い香りがすることから「香魚(あゆ)」と書くことも。料亭などでは、器を川に見立てて盛り付けた美しい姿焼きが提供されます。
- モロコの鞍馬煮
- びわ湖から届く、ワカサギに似た小さな川魚・モロコに山椒(さんしょう)を利かせた佃煮。鞍馬が山椒の産地であることから京都では鞍馬煮と呼ぶことがあります。
- 鯉こく
- コイを丸ごと煮て、ミソで味付けしたもの。夏場に精をつけるために食べられます。また、薄造りにして辛子酢ミソで食べる「鯉のあらい」も夏の味覚です。
右京区にある広沢池では毎年コイやフナの稚魚が放流されています。12月になると池の水を抜く「鯉揚げ」が行われ、多くの人がコイやフナを買い求めに来ます
- 第百九十五回 京都の巨木
- 第百九十四回 京都と将棋(しょうぎ)
- 第百九十三回 秋の京菓子
- 第百九十二回 京都の植物
- 第百九十一回 京都の風習
- 第百九十回 幻の巨椋池(おぐらいけ)
- 第百八十九回 京都と魚
- 第百八十八回 京都とお花見
- 第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
- 第百八十六回 京都の地ソース
- 第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
- 第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
- 第百八十三回 京都の坪庭(つぼにわ)
- 第百八十二回 どこまで分かる?京ことば
- 第百八十一回 京都の中華料理
- 第百八十回 琵琶湖疏水と京都
- 第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
- 第百七十八回 京都と徳川家
- 第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
- 第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
- 第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
- 第百七十四回 京の難読地名
- 第百七十三回 京の縁日
- 第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
- 第百七十一回 京都の通称寺
- 第百七十回 京都とキリスト教
- 第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
- 第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
- 第百六十七回 京の城下町 伏見
- 第百六十六回 京の竹
- 第百六十五回 子供の行事・儀式
- 第百六十四回 文豪と京の味
- 第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
- 第百六十二回 京都のフォークソング
- 第百六十一回 京と虎、寅
- 第百六十回 御火焚祭
- 第百五十九回 鴨川の橋
- 第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
- 第百五十七回 京都とスポーツ
- 第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
- 第百五十五回 京都の喫茶店
- 第百五十四回 京の刃物
- 第百五十三回 京都の南蛮菓子
- 第百五十二回 京の社家(しゃけ)
- 第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
- 第百五十回 京のお雑煮
- 第百四十九回 京の牛肉文化
- 第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
- 第百四十七回 明治の京都画壇
- 第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
- 第百四十五回 ヴォーリズ建築
- 第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
- 第百四十三回 京の人形
- 第百四十二回 京の社寺と動物
- 第百四十一回 鳥居(とりい)
- 第百四十回 冬の食べ物
- 第百三十九回 能・狂言と京都
- 第百三十八回 京都と様々な物の供養
- 第百三十六回 京都とビール
- 第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
- 第百三十四回 精進料理
- 第百三十三回 明治時代の京の町
- 第百三十二回 皇室ゆかりの建物
- 第百三十一回 京の調味料
- 第百三十回 高瀬川
- 第百二十九回 蹴鞠
- 第百二十八回 歌舞伎
- 第百二十七回 京都に残るお屋敷
- 第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
- 第百二十五回 京の学校
- 第百二十四回 京の六地蔵めぐり
- 第百二十三回 京の七不思議<通り編>
- 第百二十二回 京都とフランス
- 第百二十一回 京の石仏
- 第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
- 第百十九回 生き物由来の地名
- 第百十八回 京都の路面電車
- 第百十七回 神様への願いを込めて奉納
- 第百十六回 京の歴食
- 第百十五回 曲水の宴
- 第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
- 第百十三回 パンと京都
- 第百十二回 京に伝わる恋物語
- 第百十一回 鵜飼(うかい)
- 第百十回 扇子(せんす)
- 第百九回 京の社寺と山
- 第百八回 春の京菓子
- 第百七回 幻の京都
- 第百六回 京の家紋
- 第百五回 京の門前菓子
- 第百四回 京の通り名
- 第百三回 御土居(おどい)
- 第百二回 文学に描かれた京都
- 第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
- 第百回 夏の京野菜
- 第九十九回 若冲と近世日本画
- 第九十八回 京の鍾馗さん
- 第九十七回 言いまわし・ことわざ
- 第九十六回 京の仏師
- 第九十五回 鴨川
- 第九十四回 京の梅
- 第九十三回 ご朱印
- 第九十二回 京の冬の食習慣
- 第九十一回 京の庭園
- 第九十回 琳派(りんぱ)
- 第八十九回 京の麩(ふ)
- 第八十八回 妖怪紀行
- 第八十七回 夏の京菓子
- 第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
- 第八十五回 新選組
- 第八十四回 京のお弁当
- 第八十三回 京都の湯
- 第八十二回 京の禅寺
- 第八十一回 京の落語
- 第八十回 義士ゆかりの地・山科
- 第七十九回 京の紅葉
- 第七十八回 京の漫画
- 第七十七回 京の井戸
- 第七十六回 京のお地蔵さん
- 第七十五回 京の名僧
- 第七十四回 京の別邸
- 第七十三回 糺(ただす)の森
- 第七十二回 京舞
- 第七十一回 香道
- 第七十回 天神さん
- 第六十九回 平安京
- 第六十八回 冬の京野菜
- 第六十七回 茶の湯(茶道)
- 第六十六回 京の女流文学
- 第六十五回 京の銭湯
- 第六十四回 京の離宮
- 第六十三回 京の町名
- 第六十二回 能・狂言
- 第六十一回 京の伝説
- 第六十回 京狩野派
- 第五十九回 京寿司
- 第五十八回 京のしきたり
- 第五十七回 百人一首
- 第五十六回 京の年末
- 第五十五回 いけばな
- 第五十四回 京の城
- 第五十三回 観月行事
- 第五十二回 京の塔
- 第五十一回 錦市場
- 第五十回 京の暖簾
- 第四十九回 大原女
- 第四十八回 京友禅
- 第四十七回 京のひな祭り
- 第四十六回 京料理
- 第四十五回 京の町家〈内観編〉
- 第四十四回 京の町家〈外観編〉
- 第四十三回 京都と映画
- 第四十二回 京の門
- 第四十一回 おばんざい
- 第四十回 京の焼きもの
- 第三十九回 京の七不思議
- 第三十八回 京の作庭家
- 第三十七回 室町文化
- 第三十六回 京都御所
- 第三十五回 京の通り
- 第三十四回 節分祭
- 第三十三回 京の七福神
- 第三十二回 京の狛犬
- 第三十一回 伏見の酒
- 第三十回 京ことば
- 第二十九回 京の文明開化
- 第二十八回 京の魔界
- 第二十七回 京の納涼床
- 第二十六回 夏越祓
- 第二十五回 葵祭
- 第二十四回 京の絵師
- 第二十三回 涅槃会
- 第二十二回 京のお漬物
- 第二十一回 京の幕末
- 第二十回 京の梵鐘
- 第十九回 京のお豆腐
- 第十八回 時代祭
- 第十七回 京の近代建築
- 第十六回 京のお盆行事
- 第十五回 京野菜
- 第十四回 京都の路地
- 第十三回 宇治茶
- 第十一回 京菓子の歴史
- 第十回 枯山水庭園の眺め方
- 第九回 京阪沿線 初詣ガイド
- 第八回 顔見世を楽しむ
- 第七回 特別拝観の楽しみ方
- 第六回 京都の着物
- 第五回 仏像の見方
- 第四回 送り火の神秘
- 第三回 祇園祭の楽しみ方
- 第二回 京の名水めぐり
- 第一回 池泉庭園の眺め方