京都ツウのススメ
第百三十八回 京都と物の供養
京都と様々な物の供養日本では昔から、長く使い続けた物には神が宿ると言われており、捨てる時には供養する風習があります。らくたびの山村純也さんが、京都で行われている様々な物の供養をご紹介します。
基礎知識
其の一、
- 供養とは一般的に、死者の霊に供え物をして成仏を願うことを言います
其の二、
- 人に対してだけでなく物に対する供養もあります
其の三、
- 物への供養は、付喪神(つくもがみ)にまつわる言い伝えが関係しています
付喪神にならないよう愛用した物に感謝
供養とは、本来、仏などに尊敬の思いを込めて供物を捧げることを指しますが、一般的には死者や先祖に対して、供え物をして成仏を願うことを言います。そして、日本には仏や人、動物にだけでなく、物に対しても供養する風習があります。これは、長い間使った物には神霊が宿り、付喪神になるという言い伝えによるもの。付喪神は人にいたずらをしたり、災厄をもたらしたりすると言われていて、長く使った物に感謝し、社寺などで供養することで付喪神にならないようにするのです。
由緒などによって特定の物を供養する社寺も
社寺では、その由緒や縁などによって、特定の物の供養を行っていることがあります。その代表としては、魂が宿ると言われる人形や、日常生活に欠かせない針や刃物などが挙げられます。近年ではカードや印鑑、名刺、財布などを供養する社寺もあり、供養の対象は様々です。物の供養の中で、京都で行われているものをご紹介しましょう。
長く使い続けた物に感謝をして、丁寧にお別れを。
手元に供養したい物はありませんか。


- 虚空蔵法輪寺[こくうぞうほうりんじ](西京区)
- 12月8日・2月8日
平安時代、清和天皇が使用済みの縫い針を納めるお堂を境内に建てたことにちなんで、針供養が年に2回行われています。針の日頃の労をねぎらう意味で、当日はやわらかいコンニャクに五色の糸が付いた針を刺して感謝するとともに、裁縫や手芸の上達を祈願します。
かつて、農村の人々は日中は農作業、夜は針仕事をしていました。12月8日は1年の農作業を終える「事納め」の日、また2月8日は農作業を始める「事始め」の日で、この2日間は夜の針仕事も休んだため、針供養の日となりました


- 刃物神社(東山区)
- 11月8日
八坂神社の境内に立つ末社・刃物神社の祭神は製鉄や鍛治(かじ)をつかさどる天目一箇神(あめのまひとつのかみ)。11月8日の例祭では、理容業界などの人たちから持ち込まれた刃物の焚き上げが行われます。また、「切れる」にあやかって、苦難を断ち切り、未来を切り開くというご利益もあるとされます。


- 百萬遍知恩寺[ひゃくまんべんちおんじ] (左京区)
- 10月31日
毎年秋、全国でも有数の古本市「秋の古本まつり」が開催される百萬遍知恩寺。本に感謝するため、市の初日に大殿で古本供養を行っています。
供養された本は焚き上げなどを行うのではなく「読むことこそ供養」との考え方から、古本市のチャリティー・オークションに出品されます


- 宝鏡寺[ほうきょうじ] (上京区)
- 10月14日
代々皇女が入寺していた尼寺で、天皇家から贈られた人形を所蔵しています。人形寺の名でも知られ、境内には人形塚があります。年に一度人形を供養する「人形供養祭」も行われています。


- 印璽社・印納社[いんじしゃ・いんのうのやしろ] (左京区)
- 9月29日※年によって変更あり
下鴨神社の境内にある2つの末社・印璽社と印納社は、全国でも珍しい印鑑をまつる神社。10月1日が「印章の日」であることにちなんで、その前後の日曜に「印章祈願祭」が行われます。全国から多くのハンコ屋さんが訪れ、役目を終えた印鑑が供養されます。


- 市比賣神社[いちひめじんじゃ] (下京区)
- 9月9日
かつて境内に官営市場があった市比賣神社。店を出すことを許可する鑑札を発行していたことにちなみ、現在ではカード型のお守り「ハッピーカード」を授与しています。そのお守りを納めるためのカード塚では毎年「カード感謝祭」が行われており、お守りとともに期限切れや使用済みのカードが納められます。
平安時代の中頃、康保年間(964〜968年)のことでしょうか。年末のすす払いで家々から通りに捨てられた古道具たちが集まって何やら相談をしています。「我々は長年人々に奉公してきたというのに、感謝のひとつもされないばかりか、あっさり捨てられる始末。こうなったら妖怪にでもなって仕返しをしてやろう」。
こうして節分の夜、古道具たちは自ら命を絶ち、万物の創造主である造化(ぞうか)の神に身を委ねました。すると、古道具たちはそれぞれ、様々な妖怪へと姿を変えたのです。これが付喪神と呼ばれるもの。付喪神となった古道具たちは、そろって船岡山(北区)の後方、長坂の奥を住処とし、酒盛りを繰り広げては人々を困らせたと言われています。

妖怪たちは船岡山の奥に造化の神をまつった変化大明神(へんげだいみょうじん)という神社を建立。その神をのせた神輿の行列のことを百鬼夜行(ひゃっきやぎょう)と言い、一条通を練り歩いたと伝わります。
- 第百九十八回 京都の山
- 第百九十七回 京都と豆腐
- 第百九十六回 南座と歌舞伎
- 第百九十五回 京都の巨木
- 第百九十四回 京都と将棋(しょうぎ)
- 第百九十三回 秋の京菓子
- 第百九十二回 京都の植物
- 第百九十一回 京都の風習
- 第百九十回 幻の巨椋池(おぐらいけ)
- 第百八十九回 京都と魚
- 第百八十八回 京都とお花見
- 第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
- 第百八十六回 京都の地ソース
- 第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
- 第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
- 第百八十三回 京都の坪庭(つぼにわ)
- 第百八十二回 どこまで分かる?京ことば
- 第百八十一回 京都の中華料理
- 第百八十回 琵琶湖疏水と京都
- 第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
- 第百七十八回 京都と徳川家
- 第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
- 第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
- 第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
- 第百七十四回 京の難読地名
- 第百七十三回 京の縁日
- 第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
- 第百七十一回 京都の通称寺
- 第百七十回 京都とキリスト教
- 第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
- 第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
- 第百六十七回 京の城下町 伏見
- 第百六十六回 京の竹
- 第百六十五回 子供の行事・儀式
- 第百六十四回 文豪と京の味
- 第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
- 第百六十二回 京都のフォークソング
- 第百六十一回 京と虎、寅
- 第百六十回 御火焚祭
- 第百五十九回 鴨川の橋
- 第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
- 第百五十七回 京都とスポーツ
- 第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
- 第百五十五回 京都の喫茶店
- 第百五十四回 京の刃物
- 第百五十三回 京都の南蛮菓子
- 第百五十二回 京の社家(しゃけ)
- 第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
- 第百五十回 京のお雑煮
- 第百四十九回 京の牛肉文化
- 第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
- 第百四十七回 明治の京都画壇
- 第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
- 第百四十五回 ヴォーリズ建築
- 第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
- 第百四十三回 京の人形
- 第百四十二回 京の社寺と動物
- 第百四十一回 鳥居(とりい)
- 第百四十回 冬の食べ物
- 第百三十九回 能・狂言と京都
- 第百三十八回 京都と様々な物の供養
- 第百三十六回 京都とビール
- 第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
- 第百三十四回 精進料理
- 第百三十三回 明治時代の京の町
- 第百三十二回 皇室ゆかりの建物
- 第百三十一回 京の調味料
- 第百三十回 高瀬川
- 第百二十九回 蹴鞠
- 第百二十八回 歌舞伎
- 第百二十七回 京都に残るお屋敷
- 第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
- 第百二十五回 京の学校
- 第百二十四回 京の六地蔵めぐり
- 第百二十三回 京の七不思議<通り編>
- 第百二十二回 京都とフランス
- 第百二十一回 京の石仏
- 第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
- 第百十九回 生き物由来の地名
- 第百十八回 京都の路面電車
- 第百十七回 神様への願いを込めて奉納
- 第百十六回 京の歴食
- 第百十五回 曲水の宴
- 第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
- 第百十三回 パンと京都
- 第百十二回 京に伝わる恋物語
- 第百十一回 鵜飼(うかい)
- 第百十回 扇子(せんす)
- 第百九回 京の社寺と山
- 第百八回 春の京菓子
- 第百七回 幻の京都
- 第百六回 京の家紋
- 第百五回 京の門前菓子
- 第百四回 京の通り名
- 第百三回 御土居(おどい)
- 第百二回 文学に描かれた京都
- 第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
- 第百回 夏の京野菜
- 第九十九回 若冲と近世日本画
- 第九十八回 京の鍾馗さん
- 第九十七回 言いまわし・ことわざ
- 第九十六回 京の仏師
- 第九十五回 鴨川
- 第九十四回 京の梅
- 第九十三回 ご朱印
- 第九十二回 京の冬の食習慣
- 第九十一回 京の庭園
- 第九十回 琳派(りんぱ)
- 第八十九回 京の麩(ふ)
- 第八十八回 妖怪紀行
- 第八十七回 夏の京菓子
- 第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
- 第八十五回 新選組
- 第八十四回 京のお弁当
- 第八十三回 京都の湯
- 第八十二回 京の禅寺
- 第八十一回 京の落語
- 第八十回 義士ゆかりの地・山科
- 第七十九回 京の紅葉
- 第七十八回 京の漫画
- 第七十七回 京の井戸
- 第七十六回 京のお地蔵さん
- 第七十五回 京の名僧
- 第七十四回 京の別邸
- 第七十三回 糺(ただす)の森
- 第七十二回 京舞
- 第七十一回 香道
- 第七十回 天神さん
- 第六十九回 平安京
- 第六十八回 冬の京野菜
- 第六十七回 茶の湯(茶道)
- 第六十六回 京の女流文学
- 第六十五回 京の銭湯
- 第六十四回 京の離宮
- 第六十三回 京の町名
- 第六十二回 能・狂言
- 第六十一回 京の伝説
- 第六十回 京狩野派
- 第五十九回 京寿司
- 第五十八回 京のしきたり
- 第五十七回 百人一首
- 第五十六回 京の年末
- 第五十五回 いけばな
- 第五十四回 京の城
- 第五十三回 観月行事
- 第五十二回 京の塔
- 第五十一回 錦市場
- 第五十回 京の暖簾
- 第四十九回 大原女
- 第四十八回 京友禅
- 第四十七回 京のひな祭り
- 第四十六回 京料理
- 第四十五回 京の町家〈内観編〉
- 第四十四回 京の町家〈外観編〉
- 第四十三回 京都と映画
- 第四十二回 京の門
- 第四十一回 おばんざい
- 第四十回 京の焼きもの
- 第三十九回 京の七不思議
- 第三十八回 京の作庭家
- 第三十七回 室町文化
- 第三十六回 京都御所
- 第三十五回 京の通り
- 第三十四回 節分祭
- 第三十三回 京の七福神
- 第三十二回 京の狛犬
- 第三十一回 伏見の酒
- 第三十回 京ことば
- 第二十九回 京の文明開化
- 第二十八回 京の魔界
- 第二十七回 京の納涼床
- 第二十六回 夏越祓
- 第二十五回 葵祭
- 第二十四回 京の絵師
- 第二十三回 涅槃会
- 第二十二回 京のお漬物
- 第二十一回 京の幕末
- 第二十回 京の梵鐘
- 第十九回 京のお豆腐
- 第十八回 時代祭
- 第十七回 京の近代建築
- 第十六回 京のお盆行事
- 第十五回 京野菜
- 第十四回 京都の路地
- 第十三回 宇治茶
- 第十一回 京菓子の歴史
- 第十回 枯山水庭園の眺め方
- 第九回 京阪沿線 初詣ガイド
- 第八回 顔見世を楽しむ
- 第七回 特別拝観の楽しみ方
- 第六回 京都の着物
- 第五回 仏像の見方
- 第四回 送り火の神秘
- 第三回 祇園祭の楽しみ方
- 第二回 京の名水めぐり
- 第一回 池泉庭園の眺め方