京都ツウのススメ
第百九十七回 京都と豆腐
京の水が育んだ豆腐冬の味覚のひとつである湯豆腐や、おばんざいに登場する豆腐。
海のない京都の人々にとって豆腐は貴重なタンパク源でした。
その背景を「らくたび」の谷口真由美さんが解説します。
基礎知識
其の一、
- 京都の地下水は軟水で、豆腐作りに適した水だと言われています
其の二、
- 禅宗が広まった鎌倉時代、豆腐は精進料理に頻繁に使われました
其の三、
- 京都には、バラエティー豊かな豆腐料理があります
豆腐の味の決め手は良質な京都の地下水
京都の名物のひとつである豆腐は、なめらかな食感とまろやかな味わいで知られています。豆腐はそのほとんどが水分であることから、使う水によって味や食感が変わると言われています。京都には地下水が豊富にあり、古くからその水を使って豆腐作りが行われてきました。なめらかな豆腐を作るには、ミネラル分の少ない軟水が向いているのですが、京都の地下水はその軟水。これによってなめらかさやまろやかさが生まれています。
禅宗とともに広がり、庶民の味へ
奈良時代に中国から伝えられた豆腐は、当時社寺のお供え物にされるなど特別な食材でした。鎌倉時代に禅宗が隆盛すると、豆腐は様々な形で精進料理に取り入れられるように。江戸時代に入ると庶民にも親しまれるようになり、京都では精進料理がルーツだと言われる湯豆腐や、八坂神社門前で販売された祇園豆腐などが人気を博しました。今回は、豆腐が京都名物になった理由と、京都でよく知られる豆腐料理をご紹介しましょう。
つるりとした食感で、大豆が持つ優しい甘みが感じられる京都の豆腐。
豆腐が京都の名物のひとつになった理由を紐解いてみましょう。
良質な地下水が豊富
良質な地下水が豊富
地下水はミネラル分の量などによって硬水と軟水に区別されます。大豆のタンパク質は水に含まれるミネラルと結び付きやすく、ミネラル分が多い硬水で作られた豆腐は固くなり、少ない軟水だとやわらかく仕上がります。京都に豊富にある良質な地下水はミネラル分の少ない軟水。この京都の地下水の成分によって、やわらかくなめらかな豆腐が生み出されているのです。
禅宗寺院が多い
禅宗寺院が多い
鎌倉時代以降、京都でも禅宗が広まりました。禅僧の食事は動物性の食材を使わずに作られる精進料理。タンパク質の豊富な豆腐は禅僧の貴重なタンパク源となり、精進料理のメインの食材のひとつとして重宝されました。
湯豆腐は南禅寺の精進料理がルーツだと言われており、今も南禅寺の周辺には湯豆腐の店が軒を連ねています
都が置かれていた
都が置かれていた
豆腐は奈良時代に中国から、まず奈良へ伝えられたと考えられています。その後は奈良や京都の宇治で作られ、京の都まで運ばれていました。豆腐が庶民に広がり始めると、水が良いこともあり、京都の町なかでも豆腐が盛んに作られるようになりました。
室町時代後期の職人を題材にした歌合せの本『七十一番職人歌合』には豆腐売りが登場し、奈良から豆腐を持って来たと書かれています
京都でよく知られている豆腐料理をご紹介しましょう。
八坂神社(東山区)の門前の茶屋「柏屋」で売られていた田楽豆腐。平たく切った木綿豆腐を串に刺し、白味噌ベースの木の芽味噌を塗って焼いています。八坂神社の南楼門前にある柏屋の流れを汲む「中村楼」で、今も楽しむことができます。
江戸時代、幕府に出入りしていたオランダの役人が、京都に立ち寄った際に祇園豆腐を食べ、称賛したという記録が残されています
豆腐を昆布にのせ、しょう油などで味付けをして煮たもの。京都・今出川周辺で作られた豆腐を使ったことが、名前の由来のようです。江戸時代に刊行された豆腐料理集『豆腐百珍』に掲載されており、京都西陣(上京区)にある「西陣魚新」では先々代の時にこれを再現。葛あんにクルミ、和がらしを合わせています。
焼き豆腐と厚揚げを甘辛く炊き合わせた、京都では昔からあるおばんざいのひとつ。豆腐から派生したふたつの食材でできていることを夫婦と表現。「お豆腐とお揚げの炊いたん」と呼ばれることもあります。
豆腐と京の伝統野菜の九条ねぎをしょう油だしで甘辛く煮た家庭料理。京都の冬の料理で、家庭だけでなく、料亭などでも登場します。
豆腐から少し遅れて日本に伝えられたのがゆば。豆乳を温めた時に表面にできる薄皮で、元は豆腐作りの副産物だったと考えられ、豆腐と同様、精進料理によく使われます。東寺(南区)の僧堂料理〈精進料理〉であった東寺ゆばは、ユリネやギンナン、キクラゲをゆばで包んで揚げたものです。
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- 第十回 枯山水庭園の眺め方
- 第九回 京阪沿線 初詣ガイド
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- 第七回 特別拝観の楽しみ方
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- 第五回 仏像の見方
- 第四回 送り火の神秘
- 第三回 祇園祭の楽しみ方
- 第二回 京の名水めぐり
- 第一回 池泉庭園の眺め方