アートを感じる建物探訪
Vol.15
長楽館

“煙草(たばこ)王”と呼ばれた実業家・村井吉兵衛の別邸かつ、国内外の要人をもてなす迎賓館として1909(明治42)年に建てられた長楽館。現在は、カフェやレストランを併設したホテルとしてその一部を公開しています。
煙草王・村井吉兵衛のもてなしの心を
今に伝える贅の限りを尽くした迎賓館
たばこが専売制になる1904(明治37)年以前に、国内最大手のたばこ事業で名を馳せ、“煙草王”と呼ばれた京都市出身の実業家・村井吉兵衛。村井が45歳の時に別邸兼迎賓館として竣工した長楽館は、外観はルネサンス、〈迎賓の間〉はロココ、ステンドグラスや窓はアール・ヌーボーと、様々な国の建築様式を折衷した西洋建築です。1986(昭和61)年に建物と家具30点を含めて京都市有形文化財に、2024年には国の重要文化財に指定されました。
注目は中2階にある〈喫煙の間〉です。「当時はたばこを吸うための部屋でした。元々はイスラム風のデザインでしたが、中国製の螺鈿(らでん)の長椅子に合わせて中国風の水墨画などが付け加えられました」と話す広報の麦谷さん。館内の中央にあたる場所に位置し、入り口には「長楽館」と命名した伊藤博文の扁額(へんがく)が。かつてたばこ事業で成功し、一代で財を築いた村井を象徴する部屋であることを示しています。
壮麗な意匠を施した各客間に、豪華な調度品やシャンデリアなど、往時の栄華をしのばせる館内はまるで美の宝庫。「〈迎賓の間〉の壁面上部にはスイスやエジプトなど12カ国の風景画があります。当時はこの絵を介して外国のお客さまと話が弾んだのかもしれません。また、通常非公開ですが、最上階には日本文化の神髄が見られる和室や茶室があるなど、建物全体に様々な趣向が凝らされているように思います」と麦谷さん。
1968(昭和43)年から喫茶を始め、〈球戯の間〉や〈貴婦人の間〉など6つの部屋で優雅なティータイムを提供しています。2008(平成20)年からは当時のダイニングルームでレストランを開業。村井の客人をもてなしたいという思いは、竣工から100余年を経た今なお、訪問客を楽しませています。
植物模様のレリーフ、フランス・バカラ社製のシャンデリアが天井を彩るダイニングルーム。現在はレストランとして使用しています。 建築当時は温室として使われていた、洋菓子などを取り扱うスイーツブティック。床にはレトロな幾何学模様のタイルが見られます。 ステンドグラスも長楽館の建築美のひとつ。〈喫煙の間〉の扉には竣工当時のまま、羊飼いの少女のステンドグラスが飾られています。
異国情緒があり、長楽館らしさが詰まった〈喫煙の間〉で、中国とイスラム諸国、西洋の文化の調和も感じていただきたいです。
広報
麦谷 祐佳(むぎたに ゆか) さん
富山県出身。2016(平成28)年、大学時代に美術史を学んでいたことがきっかけで広報として株式会社長楽館に入社。アートやグルメが楽しめる「芸術祭 in CHOURAKUKAN 2025」を始めとするイベントなどの企画も担当。
芸術祭 in CHOURAKUKAN 2025
9月28日(日)
11時~18時30分
※詳しくはホームページをご覧ください
特別公開する3階「御成の間」
長楽館周辺の人気スポットでブレイクタイム
祇園 ふじ寅ぎおん ふじとら

築約100年の古民家を改装した“京都の実家”がコンセプトの日本料理店。野菜や肉のせいろ蒸しがメインのランチやディナー、「ふじ寅パフェ/1,540円」などの抹茶やあんこなどを使った和スイーツ、宇治茶が味わえます。
- 11時~16時(L.O.)
17時~21時30分(L.O.)
※火・木曜は17時(L.O.)
火・木曜の夜、水曜(祝日を除く)休業 - 075-561-3854
- 京都市東山区宮川筋1-231-1
- 祇󠄀園四条駅下車すぐ
ZENBI -鍵善良房-KAGIZEN ART MUSEUM
ゼンビ かぎぜんよしふさ
カギゼン アート ミュージアム

※写真はイメージです
江戸時代の中期、享保年間(1716~36年)創業の和菓子店・鍵善良房が設立した美術館。年に3~4回、国内外の作家による美術工芸を展示しています。格子や土壁など和モダンな空間で、ゆったりと美術に向き合えます。
- 10時~17時30分(入館)
月曜(祝日は翌日)休館 - 大人1,000円・中高大生700円
- 075-561-2875
- 京都市東山区祇園町南側570-107
- 祇󠄀園四条駅下車 東へ徒歩約5分